第19話 炎竜フレイム

見渡す限りの溶岩地帯。

灼熱渦巻く地獄のような場所にそれは居た。

その存在は、まるで自身がその場の支配者であるかのような威厳を放つ。


灼熱の地獄を支配せし者の名は、フレイム。

フリーザーと並ぶミストロジー級のエンシェントドラゴンだ。


「お前さんがフレイムか?」


俺は大声で目の前の巨大なドラゴンに呼びかける。

目の前のドラゴンのサイズは、フリーザーに倍すると言っていい程巨大だ。

その巨大な肉体の半分ほどを溶岩に埋め、ドラゴンは此方を睨んでいた。


「何者だ?」


深く、重く、まるで地に響くかのような声でドラゴンは訪ねてきた。

っていうかこいつって雌だよな?

どんだけ野太い声してんだよ。


「我々はフリーザーの依頼で、貴方に焔の花を持ってきた者だ」


少年が俺の代わりにフレイムに答える。


「フリーザー様が私に!?」


急にフレイムの声が高くなる。

さっきの声はなんだったんだと思わせるほどに。

これではまるで恋する乙女の猫撫で声だ。

蜥蜴の癖に猫撫で声とは、これ如何に。


「ええそうです」


再び少年が答える。


ははーん、読めたぞ。

少年は恐らく、俺がフレイム相手に不適切な発言をして怒らせないようにする為、自分が代わりにフレイムとのやり取りを進めるつもりなのだろう。

だがそうは問屋が卸さない!


「おう!お前の恋人の粗チン野郎に頼まれて、はるばる薬を持ってきてやったぜ!」

「ちょ!勇者様!何を言ってるんですか!!」

「貴様フリーザー様を愚弄する気か!!!!」


先程迄の猫撫で声が嘘のように、再び地に響く重い声でフレイムが怒りをあらわにする。


「そんなに怒るって事は、認めるんだな?奴のあそこが小さいって事を?」

「そ!そんなわけがないでしょう!!」

「だったら怒る必要ねーじゃん」

「ぐ…………」


フレイムが黙りこくる。

ここで怒り狂えば、恋人のナニがちっこいと認めてしまう様な物だからな。


「す!すいません!この人ちょっと頭がおかしいんです!だから許してやってください!」


おいおい仮にも上役の勇者様を捕まえて、頭がおかしいは無いだろうに。

まあ、褒め言葉として受け取っておこう。

何せ勇者なんて物は、まともな人間に務まるような職じゃないからな。


「勇者様も馬鹿なこと言ってないで早く花を渡してくださいよ!」

「三便周ってワ「早く渡してください!!!」


やれやれしょうがないにゃあ。

少年があまりにも五月蠅く煩わしいので、渋々花をフレイムの口元に投げる。

フレイムは俺が投げた花を、口ではなく鼻から吸い込んだ。


鼻からかよ!

その摂り方だと、風邪薬じゃなくて危ない薬にしか見えない。

そもそもこいつは本当に風邪などひいているのか?


フレイムは全身の至る所から炎が噴き出しており、とても風邪を引いているようには見えない。

ひょっとして俺達は騙されて、知らず知らずのうちに、薬の運び屋をやらされていたんでは無いだろうか?

……いやまあ、この際薬の内容が何かなんて、別にどうでもいいっちゃどうでも良いんだが。


「ああ、癒されます。あの人の愛が私を包み込み、私の恋の炎を燃え上がらせる」


そう言うと、フレイムの全身から凄まじい炎が巻き上がる。

明かに先程までと火勢が違う。どうやら風邪というのも、まんざら嘘ではなかったようだ。

しかし薬の効き良すぎだろう。

即効性にも程がある。


「フリーザー様にフレイムが喜んでいたと、どうぞお伝えください」


恋の炎を物理的に燃やすフレイムが俺達に言伝を伝える。


何人の事当たり前のようにメッセンジャーにしようとしてやがる。

厚かましいにも程があるな。

気持ちよく断ってやろうと思ったが、それよりも早く少年が返事をしてしまう。


「わかりました。ちゃんと伝えておきます」


まあ、少年が勝手に伝える分には別にいいけどね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る