第11話 竜って普通願いを叶える側じゃないか?
「貴様に一つ頼みたい事がある」
「断る。俺はこれから目の前の竜の腹を掻っ捌いて、飲み込まれてる奴らを引きずり出す大仕事があるんでな。頼み事は来世で別の誰かに頼みな」
俺の返答を聞いた瞬間、フリーザーの瞳に黒く澱んだものが宿る。
まさか人間如きに、自分の頼み事を断られるとは思っていなかったのだろう。
御機嫌斜めって奴だな。
「勇者様、飲み込まれてるってまさか」
「勿論俺達が追ってた奴らだぜ。全員まだ生きてるな。大方、俺への頼み事の交換材料にしようとしたんだろう」
「それじゃあ、さっき魔法を撃ったのも…」
「勿論あいつへの攻撃だぞ?まさか、俺が本気で何にもない所へ魔法ぶっぱしたと思ってるのか?」
「え!?あ…いえ…」
どうやら思っていたようだ。
少年の頭の悪さにはほとほと愛想が尽きるな。
「それでいいのかい?相手の頼みごとを断っちまって。あんたの魔法を無効化するような相手なんだよ。やばいんじゃないの?」
「さっきのは只の威嚇だっての。手加減してたし、本気で攻撃するなら炎じゃなくて電撃とかにしてる」
しかし動かんな?
少年たちと談話しつつも、相手が動いたら即座に対応出来る様に一応警戒してたんだが、フリーザーが動く様子がまるでない。
だがいつまでも睨めっこをする気はないので、来ないのなら此方から行くまでだ。
「まあいいや、今からこいつ退治するからお前ら下がってろ」
「待て!私は貴様と争うつもりはない。腹に入れた者達も手土産代わりにすぎん。私の願いを聞き届けてくれたのなら、それ相応の礼もするつもりだ」
「礼ねぇ…ボインボインで美人のねーちゃんとかくれるのか?」
「そういうのは無理だが、頼みを聞いてくれるなら、貴様と契約しても良いと考えている」
「けいやくぅ?いらね」
なんで俺がこんな蜥蜴と契約せにゃならんのだ。
こいつ頭おかしいんじゃねーか?
「な!?勇者様何言ってるんですか!!ミストロジー級のモンスターですよ!!契約すれば、そんなモンスターを自由に呼び出せるようになるんですよ!!!」
「夏場に呼び出して、涼むぐらいしか使い道ねーじゃん?」
「そんな無駄な使い道しか思い浮かばないんですか!?」
さっきから少年がギャーギャーうるさくて敵わん。
少年は蜥蜴マニアか何かなのだろうか?
この年頃の子供はモンスター収集とか大好きだからな。
趣味と仕事を混同するとは嘆かわしい。
「一応話を聞いてみたら?手下は多いに越した事は無いでしょ。とりあえず話を聞いてみて、割に合うかどうか判断してから決めればどう?」
見た目は子供だが中身は流石に大人だけあって、アルビダは無難で建設的な意見を述べてくる。
趣味全開の少年とはえらい違いだ。
「しゃあねぇなぁ。とりあえず内容を言ってみな。お前さんの頼み事しだいだ。」
「うむ、実は…」
「おっとその前に名前を名乗りな。自分の名前も名乗らず頼み事しようなんて、礼儀知らずにも程があるぞ。名乗らないってんなら、こっちで勝手に名前を決めさせて貰う。そうだな、粗チンでいいだろう」
名は体を表すという。
これ以上の名前はないだろう。
「いや、それは冗談抜きで勘弁してもらいたい。我が名はフリーザーだ。そこの少女が説明していたので不要かと思ったのだが、非礼を詫びよう。すまなかった」
「フリーザーか。少年が適当に名前つけて喜んでるのかと思っていたが、本当だったわけか」
「勇者様!私の説明をそんな風に思ってたんですか!?ちゃんと書物に記載された物を伝えてますよ!私は!!」
「弘法も筆の誤りなんて言葉もあるくらいだからな、少年が常に正しい事を言っている保証はない。疑ってかかるのは当然だろうに。それとも生まれてこの方、お前は一度も間違った事は無いのか?」
「う……そう言われると……」
馬鹿め!ぐうの音も出まい!俺の勝ちだ!!
俺が勝利の余韻に浸っていると、小娘が冷や水をぶっかけてくる。
「いつまで遊んでるんだい?さっさと話を聞いたら?」
むう。
アルビダめ、さっきまで荒ぶる鷹のポーズごっこをした仲だというのに、反応が冷たすぎるぞ。
この乗りの悪さ、こいつさては友達いないタイプだな。
「あんた今……まあいい。フリーザーさん、こいつに話の続きをしてやってよ」
言いたい事があるならはっきり言えばいい物を、後なんで俺はあんた呼ばわりなのに、フリーザーにだけさん付けしてんだよ。
むしろ俺にこそ様をつけろよ、ガキンチョ。
「実は頼みたい事というのは………」
PIPIPIPIPIPIPIPIPIPI
アラームの音が耳元で響き渡り、そこで俺の意識は現実に引き戻される。
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