第10話 激戦!フリーザー

「で?ここはどこだ?」

「それを私に聞くんですか?」

「お前に聞かなければ誰に聞くんだ?」


説明役である少年が俺に説明しなければ始まら無かろうに……

少年は攻略本世代の俺に、チュートリアルも無しにミッションを始めろとでもいうつもりだろうか?


「前の敵のアジトから、ここまで私達を連れてきたのは勇者様ですよ」

「お前はその理由を俺から聞かなかったのか?」

「聞いてますよ。僕が必死で探しても見つからなかった痕跡を勇者様があっさり見つけて、その足跡を追ってここまで来たんです」

「成程!大変よくできました!つまりあれだな、俺達は今迷子って事だな」

「何でそうなるんですか!?」


何せ俺は足跡なんてものは知らない。

更には少年も行き先を知らないとなると、これは最早迷子以外何物でもないだろう。


「心配しなくても、進む道はあたしがちゃんと聞いてるよ」

「なんだと!アルビダ貴様いつの間に!?」

「あんたがさっきトイレに行ってた間にさ。ま、わざわざあたしに伝えたって事は、あんたよりもあたしの方が信頼できるって事よね」


アルビダが挑発するかの様な口ぶりで、少年をからかう。

見た目は少女だが、中身は良い年した大人なんだから、子供を虐めるような態度はあまり関心出来たもんじゃないな。


「勇者様は、私よりもこんな女を信頼されているのですか!?」

「何言ってんだ?俺は自分以外誰も信用してないぞ?」


男女もどきや、ガキンチョなど俺が信用するわけがない。

俺の信用を勝ち取ろうなんざ20cm早い。

どこがとはあえて言わないが。


「そ…そうですか…」


急に少年がしゅんとする。

この態度。まさか本気で俺が自分の事を信頼していたと思っていたのだろうか?

もしそうなら、人を見る目が無いにも程があるな。

ここは大人として、きっちりと少年を導いてやるべきだな。


「少年よ、信頼とは勝ち取るものだ。まずは牛乳を飲め!そして次はお洒落だ!この2つを押さえておけば、自然と女らしくなるはずだ!」

「それ。信頼と何の関係があるんですか?」

「重要なのは、相手が何を望んでいるかを理解する事だ。相手の事を知ろうともせず、自分のやりたい様にやっているようでは信頼など勝ち取れんという事だ」

「勇者様……私頑張ります!!」


少年が感無量と言わんばかりに答えてくる。

うむ。我ながらいいこと言った。

その調子で頑張ってボインボインのお色気ムンムンに育つのだぞ。


少年お色気計画が遂に発動する!

まあ若干望み薄ではあるが…


「ポエリ。あんた絶対騙されてるよ」

「言いがかりはやめて頂こう!!」


余計な詮索などせずにグミでも食ってろ!この小娘が!!


「それで?どう進むんだ?」

「目の前の丘を越えた先にアジトがあるってさ」

「丘を越えるか……お前たちには辛い思いをさせてしまうな…」

「なに人の胸見ながら、さも当たり前のようにセクハラ発言してんだい。言っとくけど、ポエリはともかくあたしは魔法で一時的に縮んでるだけだからね」


ふ、負け犬の遠吠えもいい所だな。

重要なのは、今有るか無いかだ。刹那に生きる者にとっては、今この瞬間こそが全てなのだ!



「ふむ、何もないな」

「何もありませんね」

「何もないわね」


丘を越えたはいい物の、見渡す限りなだらかな丘陵で、アジトは愚か、誰か人が潜んでいそうな場所さえも見当たらない。


「ガセネタ掴まされたんじゃねーだろうな」

「何であんたがあたしにガセネタ掴ますのさ?」

「何だ。アルビダは知らないのか?俺は法螺吹きだぞ?」


堂々と宣言する。

この世の中、自分ほど信じられないものは無い。

話を聞く限り、俺が夢に居ない時の俺は相当なむっつりらしいからな。

嘘の一つや二つぐらい平気でついているはずだ。


「それで?どうするんですか?」

「そうだな。とりあえず魔法で辺り一面吹き飛ばすか」

「……一応ですけど、理由を聞いていいですか?」


少年がまるで気違いを見るかのような眼差しを向けてくる。

自分に理解できない事があると、直ぐに他人を気違い扱いするのは少年の悪い癖だ。


「こんな所まで着たのに空振りに終わったから。とりあえず八つ当たり」

「じゃあ、空振りって事でさっさと帰りましょうか」

「ちょっと待ってろ。今一面焼け野原に変えてやるから」

「駄目ですよ!!」


当然少年の制止など俺には通用しない。


限界突破オーバーリミット魔法マジックヘルフレイム!!」


俺の手から発せられる地獄の業火が辺り一面を嘗め尽くす。

だが次の瞬間、炎は時間を止められたかのように凍り付き、氷の柱と化す。


「な!!いったい何が!!!」

「あれを見なよ!」


アルビダが指さす方向、そこには一匹の青白い巨大な竜が佇んで居た。

先程までは何もなかったはずの場所に、突如竜が現れたのだ。

竜は全身に冷気のオーラを纏い、本来何もない場所である筈の額に、3つ目の眼が開眼している。


「三つ目の氷竜!まさかフリーザー!!」

「涼しそうな名前だな」

「そんな悠長に構えている場合じゃありませんよ!あれはミストロジー級の化け物ですよ!!!」

「ミスとロジーか……」


ミストロジーってどういう意味だ?

伝説級より上なんだろうか?

ただ一つ分かっていることは…


「あいつ図体のわりに随分チンコちっさいな。自分の冷気で縮んでるのか?」

「な……こんな時に何下品なこと言ってるんですか!そんな事どうでもいいでしょう」

「おいおい、男にとっては重要な事だぜ。恋人が出来た時に、間違ってもあそこのサイズなんてどうでも良いなんて言ってやるなよ」


少年が将来過ちを犯さないよう、先に忠告してやった。

俺って本当に優しいよな。


「それでどうするんだい?まさか戦うなんて言わないわよね?」


アルビダを見ると、額が汗でびっしょりだ。


「凄い汗だな、そんなに暑いならフリーザーにでも抱き着いて、涼んで来ていいぞ?」

「冗談をお言いでないよ」


冗談など一ミリも言ってないのだが、所詮元海賊。

人の言う事を素直に聞くって事を知らないようだ。


「それで?俺に何か用か?」


フリーザーに聞こえる様、大声で怒鳴る。

まあ竜は感覚器官が優れているらしいから、別に大声を出す必要はないのだが、ポエリ達にも分かり易い様に大声で問いかけたのだ。


「な…なななな何を考えているんですか!」

「あんた正気かい!」


二人の方を見ると、何故か二人とも変な顔をしている。

どうやら二人は俺が急に大声を出したことに驚いた様だ。

ちょっと大声出したくらいでびっくりしすぎだろう。


「貴様に一つ頼みたいことがある」


フリーザーが全てを凍てつかす、魂に響く低い声で自身の要望を伝えてくる。


「やだ!」


当然答えはノーだ。

名も名乗らねぇ様な奴の頼みごとを聞く気はない。


こうして俺とフリーザーの死闘が幕を開けたのだった。

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