第4話 下水道と美女

やった!やったぜ!ついに俺はやり遂げたんだ!

長い長い戦いだった。

嘆きの壁(月曜)を乗り越え、艱難辛苦の末、遂に魔王(土曜)を倒したのだ!!

そして魔王を倒した俺は姫(日曜)と熱き抱擁を交わす。


「ふぅ」


風呂から上がり、ソファーで一息つく。時計の針を見ると既に12時を越えていた。


「くそ、もうこんな時間かよ」


本当は風呂に等入らず、直ぐにベッドに潜り込みたかったのだが、昨日風呂に入ってなかったせいか、今日出勤したら事務の娘に臭いと言われてしまったのだ。

はっきり言って好みでも何でもない相手だが、臭いと周りに言いふらされては堪ったものではない。

そうならない為にも、今後気を付ける必要が出来てしまった。


まあ明日は日曜だから無理に今日入る必要は無かったが、こういう事はきっちり習慣づけないと、直ぐに歯抜けになってしまう。それによくよく考えると、もはや自分の生きがいとなりつつある夢を見るのに、汚い体で臨むのは失礼という物だ。


「さて、と。今日はどんな夢かな…」


ベッドに潜り込み瞼を閉じる。


個人的に、少年をアルビダ辺りと配役変更しててくれると有難いんだが…

そんな事を考えながら、俺は眠りに落ちて行く。


「ふむ、臭いな」

「そりゃまあ下水道の中ですから」


言われて周りを見渡す。成程、確かに下水道だ。

足元は汚水に塗れ、壁も苔むしており、小汚い虫がちょろちょろ徘徊している。

極めつけは匂いだ。臭すぎて鼻がひん曲がりそう。


「ひょっとして又ですか?」

「察しがいいな。説明してもいいんだぞ?」

「はぁ…此処にはアルビダの情報提供で分かった、組織のアジトに奇襲をかけるために来てるんですよ」

「アジト?アルビダの情報提供?全くわからん。もうちょっとこう、小さな子供でもわかるような説明を要求する」


それを聞いて少年がこれ見よがしに大きなため息を吐く。

こっちの世界に来てから5分と経っていないというのに、この短時間で少年はもう2度も溜息を吐いている。

いい若人がこんなに頻繁に溜息を吐くのは感心できんな。

よし!ここは年長者として、一つ訓録をかましてやるか。


「そんなにため息ばかりついていると老けるぞ」

「誰のせいですか!誰の!」

「責任は俺にあるかもしれんが、老けるのはお前だぞ?それでいいなら何も言わんが」


ぐぬぬぬ、と少年が歯ぎしりをしながら、恨めしそうに此方を睨んでくる

人は困難を乗り越えることで成長する。この理不尽な困難を乗り越え成長するのだ!少年よ!!


「とまあ冗談はさて置き、結局アルビダはどうなったんだ?」

「はぁ…アルビダなら後ろに付いて来てるじゃないですか?」


言った傍から溜息を吐く。全くしょうがない少年だ。


後ろを振り返ると、少年の言う通りアルビダがそこには居た。

昨日は赤いドレスを身に着けていたが、今は上下黒のズボンとシャツにゴムっぽい材質のブーツを履いている。

アルビダにはあの赤いドレスが似合うのだが、こんな場所でドレスなんか着てたら只のあほだし、まあしょうがないか。


その時ふと気付く。

アルビダの首元に、不思議な形の入れ墨の様な物が入っていることに。

昨日はなかったよな?


「なあ、アルビダの首になんか変なのあるんだが、あれ何?おしゃれ?」

「何って、呪いに決まってるじゃないですか?」

「呪い!?なんで?」

「何でって、そりゃあ我々を裏切らないようにする為ですよ」

「ああ、成程」


呪いって単語に思わず反応してしまったが、犬の首輪のようなもんか。

シュチュエーションは最悪だが、愛しのアルビダと会えたことだし、挨拶しとくか。


「ボンジュールマドモワゼル」

「は?あんた何言ってんの?」


アルビダがびっくりするほど不機嫌そうに答えてきた。

ひょっとしてフランス語を知らないのか?これだから教養のない奴は困る。


「随分と御機嫌斜めって感じだな」

「当然でしょ?こんなもの付けられて、挙句には下水道よ。これで機嫌が良かったら完全にドMの変態よ」


アルビダが自分の首元を押さえて、不満げに呟く。

そら首輪付けられて下水に連れて来られたら、犬でも嫌がるだろうからな。

不満を持つのも当然か…


「まあ直ぐに仕事は終わらせるから、首輪はともかく下水道は我慢してくれ」

「下水道より、むしろこっちの首輪の方をどうにかして欲しいんだけど?」

「命があるだけ有難く思え!」


少年が唐突に吠える。余程アルビダが気に入らないのだろうか?

まあ、色気の面では完敗してるわけだから、嫉妬するのもしょうがないが…


「大声出すなよ。奇襲って言葉の意味、ちゃんと理解してるか?」

「う…すいません…」

「で?何処にアジトあんの?」

「ここを真っすぐ2ブロック程進んだ先にある出口が、丁度敵のアジトの傍です」


まだちょっと先か。どうせなら気分よく進みたいな。

そう思い立ち、アルビダに声をかける。


「アルビダ。転ぶと危ないから、手握っててやろうか?」

「ふん、そんな真似しなくてもあたしは逃げたりはしないよ」


ただ単におててを握りたかっただけなんだが、何だか変に勘繰られてしまったか…

それにしても、この前と比べてアルビダの反応が随分冷たいな。


これが女心と秋の空って奴だろうか?

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