第5話 潜入!敵アジト!

「ここがアジトか」


周りに聞こえないように少年に耳打ちすると、少年は首を縦に振る。

御褒美に耳に息を吹きかけてやると、思いっきりぶん殴られた。

勇者じゃなかったら怪我してる所だ。これだから乱暴者は困る。


下水道から出たら目の前には古ぼけた協会が立っており、窓から中を覗いた所、怪しげな連中が見受けられる。

しかし謎だ。


この協会は街から離れた場所にぽつんと立っている。

周りには人家は一切なく、鬱蒼とした森が広がるのみだ。

何が謎かと言えば、この一軒の為だけに下水道がこんな街はずれまで引かれていることだ。

税金の無駄遣いにも程がある。


そして謎はもう一つ。


「何であいつらマスク被ってんだ?」

「そんなの私に聞かれたって知りませんよ」


耳元で囁こうかと思ったら少年が嫌がって耳を遠ざけるので、仕方なくひそひそ声で話す。

敵に気付かれないように注意を払わなければならないのに、本当に困った少年だ。


「とにかく、作戦通りお願いします」


作戦はこうだ。まずサーチアイで敵アジトに隠し通路が無いか確認して、無かったら結界張ってドーンだ。

隠し通路があった場合、結界を張った後、テレポートで隠し通路を封鎖してドーンだ。


あれ?この作戦って、少年いらなくね?

アルビダと俺の二人で事足りるじゃん。こいつ何でついて来たんだ?

いなけりゃアルビダと二人っきりだったのに…


憎々し気に少年を睨む。


「言っておきますけど、僕が居なければ今頃下水道で迷子になってますよ」


どうやら考えていることが読まれていたようだ。


「そういや気になってたんだが、何で下水道なんか通ってきたんだ?」

「軍や勇者様が表立って動けば、敵に逃げられる可能性があったからですよ。ていうか、これは勇者様が立てた作戦なんですけど?」

「ふふふ、当然覚えてない」


というか、知らないと言うのが正解か。

夢の外で進んだ話なんぞ、俺が知るわけないからな。


「あんた本当に勇者なのかい?」


あの日か何か知らないが、さっきまでずっと不機嫌そうに黙っていたアルビダが、変な質問を投げかけてくる。


「勇者じゃなかったら何だってんだ?俺が神々しすぎて神にでも見えるのか?」

「そういう訳じゃないけどさ。さっきまでと様子が余りにも違うもんだからね」

「過去は捨てた。今の俺だけを見てくれ」


ふ、決まったな。


「今は隠密活動中なんですから、私語は慎んでください」


折角かっこよく決めたのに少年が横やりを入れてくる。

まったく野暮な奴だ。

まあ気持ちは分からんでもないがな。

リア充のいちゃつきを、ボッチの身で見せつけられたら堪ったもんじゃないんだろう。頑張れ!来世には良い事があるさ!


「今なにか失礼な事考えてませんでした?」


勘のいいガキだな。

まあいい、少年の相手を一々していたら夜が明けてしまう。

さっさと仕事を終わらせてしまおう。


スキルを発動させ、手早く教会内部を確認する。

どうやら隠し通路はないようだ。


「んじゃ結界張るから少し下がってな」


呪文を唱えると、手の先から天まで届く光の柱が出現し、その柱が薄い膜のように教会全体を覆うように広がっていく。

内部の人間が異変に気付き外に飛び出して来るが、それよりも早く結界は完成した。


「んじゃあ、ちょっくら行くる」

「あ、勇者様。ちゃんと敵の幹部は生かして確保してくださいよ。紫髪で顎髭を生やした大男です」

「善処する」

「いや、善処じゃなくて。ちゃんと確保してください。絶対ですよ!」

「善処する」


美女ならともかく、デカいおっさんの確保なんて全くやる気が起きない。

出来たらラッキー位で良いだろう。


「いや、だからですね…」


少年が言葉を続けようけようとするが、無視して突っ込む。


そのまま結界内に飛び込み、手近な相手の首を一撃ではねる。手刀で。

こんな雑魚如きに武器などは不要。

次々と視界に入る者達を一撃のもと始末し、教会内部をずんずんと進むと、巨大な体躯を持つ大男が行く手を遮ってきた。

その手には10尺はあろう薙刀を携えており、まるで挑発するかのようにその切っ先が此方に向けられている。


でかいな。ひょっとしてこいつがさっき少年の言ってた幹部か?

紫髪に顎髭だったかな?でも相手マスクしてるし、確認しようがないぞ。

取り合えず死なない程度に叩きのめして、それから確認すりゃいいか。


「貴様何者だ!」

「通りすがりの勇者様だ。」

「な!勇者だと!!さては俺の首が狙いか!」


ビンゴだな。

まさか只の雑魚がこんな台詞口にしないよね?


「まあ、そんな所だ。所で、お前ら何で全員マスクなんて被ってるんだ?全員隠さなきゃならん程不細工なのか?」

「ほざけ!闇に生きる者が堂々と顔を晒すわけが無かろう!」

「でもお前の人相ばれてるぞ?紫の髪に顎髭生やしてるだろう?」

「ば…馬鹿な…、何故それを…」


どうやら幹部とやらはこいつで間違いないようだ。


「アルビダが言ってた」

「何だと!己あの女狐め!男の純情を踏みにじりおって!!」


どうやら闇に生きる者とやらも、スケベ心には勝てなかったようだ。


!?

男の体が一瞬揺らめいた。瞬間、俺は後ろに飛び退く。

確認すると、先程まで自分の居た辺りに薙刀の刃が煌めいている。

突きだ。それも恐ろしく静かで速い。

さっきまで雑魚ばっかりだったから油断してたが、こいつ結構やるな。


「ほう、今の突きを交わすとは、さすが勇者といった所か」

「いきなりだな、せっかちさんは女に嫌われるぜ?」

「それで長生きできるなら、それぐらい我慢するさ」


視線と視線がぶつかり合い火花を散らす。

わけなどなく。

男同士が見つめ合う気持ち悪い状態をさっさと終わらせるべく、こちらから積極的に動く事にした。

さっきから見下ろされてて腹が立っていので、礼拝堂に並べてある椅子に飛び乗り、無詠唱で魔法を放つ。


「上から見下ろしてんじゃねぇ!スピリットランス!」


天に掲げた掌から青白い光りの槍が生まれ、その槍を相手めがけて投げつける。

相手が手にした薙刀で魔法を弾こうとするが、薙刀が当たる寸前槍は砕け、光の刃となって敵に降り注いだ。


「ぬぅ、小癪な」


やっぱ一発じゃ倒れないか。

光の刃を無数に受けたにもかかわらず、大男は倒れない。しかもマスクを着けている為表情が読めず、ダメージがどの程度入ったかも分かりずらい。

少年が殺すなと五月蠅かったため、死なないように手加減しているのだが、雑魚ならともかく、そこそこ腕の立つ相手にそれをやるとメンドクサイ事この上ない。


教会事吹き飛ばせたら楽でいいのに


「今度はこちらから行かせてもらう!」


大男がそう叫ぶと、大男の体が揺らめき、体の中から大量の大男が飛び出してくる。

分身?いや幻覚か…むさ苦しいからマジ辞めろ。


「ふははは、どれが本物の俺か分かるまい!」

「本体しか口動いてないぞ?」


勿論はったりだが、大男は見事に引っ掛かり自分の口を咄嗟に抑えてしまう。


「本体はてめぇだ!スピリットランス!」


敵めがけて飛んだ槍がはじけ、光のシャワーとなり敵に降り注ぐ。

だが、無数の刃が敵を貫いた瞬間、敵の姿が煙のように消えてしまう。

げ!?騙された!

よもやおつむの足りなさそうな大男に一杯食わされるとは…


「馬鹿め!本体はこっちだ!千手突き!!」


大男が凄まじい速度で此方を滅多突きにしてくる。

男の手が何本にも見えるのは、恐らく先程の分身と同じ幻術の類だろう。

男が勢いづいて此方を突きまくる。


だんだん腹が立ってきた。

なんで俺がこんな奴の攻撃をチマチマ躱さないかんのだ。

一瞬少年の顔が浮かんだが、気にするほどではないと判断し、直ぐに頭の隅に追いやる。


腰にある剣を抜き放ち、一閃する。

すると大男の動きが止まり、薙刀が縦に真っ二つになる。続いて大男の体も中央から2つに分断し、ぐろいオブジェと化す。


ふ、正義は勝つ。

勝利の余韻に浸りたい所だが、まずは少年への言い訳を考えなければならない。面倒な事だ。

しかしこの大男、何故マスクにパンツ一丁の出で立ちだったのだろうか?

余りにも男が堂々としていた為、逆に自然に感じてしまいスルーしたのだが、今更になって気になってきた。

こんな事なら先に聞いておくべきだったぜ…

まあ些細な事だし気にするだけ無駄か。



少年への上手い言い訳を考えついたので、教会内部に生き残りが居ない事を確認してから、教会を後にする。

すると、何故か少年が結界の外で大の字になって眠りこけていた。

おいおい、人が汗水たらして働いてるときにテメーはおねむかよ。

全くいい御身分だぜ。


ぶん殴って起こそうと少年に近づくと、起きていたのか此方に話しかけてきた。


「す…すいません…勇者様。アルビダに…逃げられてしまいました…」

「へ?」


予想外の報告に思わず変な声が出る。

良く見ると少年の体は傷だらけで、肩のあたりの傷は相当深い。

仕方がないので少年の傷を回復魔法で癒すと、少年が言葉を続ける。


「申し訳ありません勇者様。アルビダは何らかの方法で呪いを解いたようで…逃げられてしまいました…」

「怪我はアルビダにやらたのか?」

「はい。呪いが掛かっていたので、完全に油断しておりました」


油断してたからって、武装してるやつが素手の女に負けるなよ!

と普段なら言っているところだが、少年が本格的にへこんでいる様なので辞めておいた。

代わりに教会へ限界突破オーバーリミット魔法マジックフレアを叩き込み、粉々に粉砕する。


「な…何を一体?」

「いや、逃げられたってなると不味いだろ?だから死んだって事にしておこうかと」


証拠隠滅ってやつだ。

しかし痛いな。

せっかく美人の助手が手に入ると思ったのに、また少年と2人かよ。

がっかりにも程がある。


頼むから明日こそは美人のヒロインとイチャイチャ出来る夢を頼むぜ…

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