蛙の唄/断絶

 この時節になると毎年、畦道からけろけろと楽しげな声がする。

 もう少し苗が育てば旅行者もくるだろう。青々と茂った私たちの財布は、今では立派な観光資源でもある。


 けろけろ。


 窓の内側から覗けば、雨音に打たれながら謳う両生類の群れ。

 雨脚が長ければ困る。収穫の時期に雨続きでは客足も遠のく。

 意にも介さず蛙は鳴く。


 げこげこ。


 あの丸い瞳にはなにが映るのだろうか。

 繁殖相手を見つけるための行為の最中にあるそれらは、しかして私をじっと見つめて喉を膨らませている。

 まさか、私が雌の蛙に見えるというわけではあるまい。


 げろげろ。


 なにを、考えているのか。


 ぐわぐわ。


 なにも、考えていないのか。


 ぐえぐえ。


 それとも、考えているのは私か。


 けろけろげこげこげろげろぐわぐわぐえぐえけろけろげこげこげろげろぐわぐわぐえぐえけろけろげこげこげろげろぐわぐわぐえぐえけろけろげこげこげろげろぐわぐわぐえぐえ。


 なにも聞き取れない。

 そういうものだ。


 私はそっと窓を閉じた。

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習作 くろかわ @krkw

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