お題20190516

「その声は、我が友、李徴子ではないか?」

 如何にも自分は李徴子である。

 その男はしゃがみこみ、いつものように手を出した。そしていつも通り、こちらの方向を正確に把握はしていないようだ。やや首の向きが左向きか。仕方の無いやつだ。

「……李?」

 にゃあ、と一声応じる。差し出された手に頭をこすりつける。

「やはりか」

 うむ。如何にも自分は李徴子である。他の者は勝手にタマだのネコだのと呼ぶが、我が名はこの他にない。

「去年出て行ったきり、随分と探した」

 夜半過ぎに少し出かけると言ったではないか。好い月だったのだ。見つけるのが遅いではないか。

 自分は二、三鳴声をあげ、白杖を持って立ち上がった男の脚に背をこすりつけた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る