手を
花。
花だ。
濃い桃色。赤と云うには淡く、朱と呼ぶには明瞭な黄が混じらず、紫と語るには藍が足らぬ。濃い、桃。
まるで明星の様に漆黒の水面に浮かび、夜帳を己の色で染めたかの如き若々しき緑を纏う。そして真中で笑みを湛えて、華々しくしかし楚々と咲く。艶やかな花弁を幾重にも重ね、毒にも似た美彩を心の赴くままに咲かしている。
私は目を潰されぬよう、レンズ越しにそれを見つめる。宇宙に花開いた太陽にも似るそれは、見るものの眼球を灼くだろうから。
羽虫が独り、祈るようにふわりと翡翠の葉に吸い込まれていく。
ああ、いけない。思っていても口に出せない。花に燃やされ命を吸われてしまう。重石を載せられた猿に成ってしまう。それでも私は私が惜しい。無数の眼が大輪を見つめる。硝子越しですら心臓に早鐘を打たせるそれを、覆い無き眼差しで。
私は祈る。か弱い羽虫が命を吸い取られぬよう、手を合わせ、太陽に向かい、願わずにはいられない。
陽光発する蓮華は益々輝きを増し、私は次第にか細くなっていく。光りに晒され灰へと還っていく。
嗚呼、あの蓮の花の向こうから、レンズ越しに私が覗かれている。私が覗いている。
風に吹かれ、私は掌の上から流されてしまった。
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