3/11(パンダの日)
急に動きを止めた人間達を見て、パンダ達は一瞬戸惑ったようだ。だが、直ぐに興味を無くし、先程までの行為を各々続行した。
俺はというと、檻の外に備え付けられた柵に寄り掛かり、通路の側をぼんやり眺めている。わざわざ動物園くんだりにまでやって来たのに、だ。
人々のほとんどが俯く中、缶コーヒーを呷る。
俺の社会性は、今朝方会社に有給申請をした段階で消耗し尽くした。今日は人間でなく人の気分だ。
飲み終えた空の缶を見て思わず苦笑が漏れる。貨幣の使用はもっと社会性が高いだろう。
貨幣。貨幣か。
振り向く。呑気に笹を食む白黒の生き物が沢山転がっている。
貨幣価値で言えば、俺よりもこいつらの方が遥かに高い。一週間の食費は俺の年収では到底賄えない額だ。そしてこいつら目当てに来る客も多く、それなりの入園料を集めている筈だ。
そういう意味では、こいつらの方が俺より社会的なのか? 今日も明日も明後日も、死ぬまで檻の中で餌食って寝転んで子作りさせられるだけのこいつらが?
馬鹿らしい。
明日は、今日サボった仕事や、俺の分の仕事をした同僚の仕事もある。代替が利かないようで利く。こいつらはそうじゃない。文字通りの客寄せパンダがうっかり死んでしまえば、換えは中々呼べない。
くそ、これが社会性か。
溜息と同時に再び園内放送。それを合図に人間が動き出した。
空き缶を近くの籠に投げ入れ、入園料分は見て回ってやろうと決心した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます