第33話 閉幕のち新魔法、そして
全試合が終わった後、優勝賞品の授与と閉会式でイベント的にも締めて、新人戦は大盛況のうちに閉幕した。
未だ冷めやらぬ興奮から、観客達は会場を後にしても飯屋や酒場に突入するようだ。盛大なお祭りだけあって街中が活気づき、緩んだ財布は経済効果にぐぐんと貢献する。お祭りというものは、実に上手いこと出来ているものなのである。
俺達からすれば、試合展開としては一方的で呆気ないものではあったが、全試合を一撃で決着し、用いた魔法もド派手なものだっただけに、そうそう見られはしない戦いだったと観客達は大いに満足したようである。相手との実力差からなるゴリゴリの力技でもあったが、盛り上がったのだから作戦は成功したと言えるだろう。
そして、優勝賞品をゲットした俺達はと言えば、大満足のホクホク顔で祝勝会すらも後回しにして一目散に宿へと戻り、俺の部屋に全員で引きこもった。せっかく手に入れたレアアイテムだ。その稀少性から不心得者が現れないとも限らない。とはいえ、会場だった訓練場あたりですぐに使ってしまうのもなんだかもったいない。お宝を手に入れた余韻にも少しくらいは浸りたいとの全員一致の見解なのである。
ちなみに、高品質の武具とやらはオーダーメイドとのことで、用意の関係もあり後日の贈呈となるようだ。
「まあ、まずはなかなか爽快な試合だったと言っておこうか。全試合を一撃決着とは楽しませてくれる」
客席から見ていたヒルダは試合を思い出したのか、くすくすと笑う。
「完全な初見殺しだけどな」
俺もまた、思惑通りにいきすぎた結果に満足して笑いを返した。
しかし、実力に開きはあれど、一対多の優位を活かせばまた違った展開になった可能性もなくはない。俺の相手だって、同じ魔法剣士ならレベルが高い分、引き出しが多いのだ。厄介な魔法を持っていた可能性もある。
つまり、それをさせなかった俺達がやはり上手だったとも言える。卑怯な手を使ったわけでもないし、文字通り全力の一撃を見舞ったわけだから恥じるところはない。祭りやイベント的な色合いが強いとはいえ、戦いの場に相手がどう臨むかなんてことまでは、知ったこっちゃないのだ。
ただ一つ、俺達にツキがあったとしたら、最近のヒルダとの特訓で対人戦への慣れがあったことだろう。あの地獄の修行が今日の結果に大きく作用したことは言うまでもない。
「さて、そろそろこいつを使うか?」
俺は手の中の宝玉を
その名も《
飲み込むだけで新たな魔法を習得出来るという代物ではあるが、効果が現れるのは生涯で一度きり。一人で複数個と飲もうとも無意味なのだとか。
「懐かしいな。私もお前達のようにわくわくとしていたものだ」
ヒルダも新人戦での優勝経験を持つ。しかし、上級者との戦いには残念ながら破れてしまったそうだ。その時のパーティーは急造だったらしいので、それが主な敗因だろう。
「ねえねえ、誰からいく?」
新たな魔法の習得とあって、この場の誰よりも、魔法使いのリーナが胸を躍らせているようだ。
「まあ、リーナがメインイベントだってことに異論はないだろ? トリに決定として……よし、俺からいくか」
ここは俺が先陣を切ろう。
「いくぞ……」
宝玉を指でつまむと、俺は一息に飲み込んだ。
「どう? 何か変化は?」
リーナはその碧眼をキラキラと輝かせて、実に興味津々だ。
「今のところ、何ともないな……」
「本当に? もっとちゃんと集中してよ! どう? どう?」
「んー、そうだなあ……。お?」
「なになに? どうしたの?」
「腹が熱くなったぞ……」
ほんのりと胃の辺りに熱を感じる。
「それで? 他には?」
「熱いのが全身に回るような?」
血の流れと共に熱が身体に巡るような感じだろうか。
「それから?」
「んー、収まってきた……かな?」
「えー、それだけなの?」
「いや、俺に言われてもなあ」
どうやら全身に回ったあたりが効果のピークだったらしい。
「はははっ、何を戯れているのだ、お前達は。《
ヒルダの言う通り、それが早い。
「《
────────────
名前:グレン
年齢:15歳
性別:男
職業:魔法剣士 Lv.16
習得魔法
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────────────
「おー、増えてるな。《
「さあ? 聞いたことない魔法ね」
「ふむ。私も知らん魔法だな」
「なんとなくで言えば《
「確かにな、そのうち試してみりゃ分かるか」
使用回数が一回なだけに《
「ま、次にいこうぜ!」
「うん。僕の番だね」
と、《
「《
ナルシスは首を傾げた。また謎の魔法が現れたようだ。と思いきや、ヒルダは知っているようで、
「その魔法は耳にしたことがあるぞ。確か、他者のダメージを自身に引き受けるとか……そのようなものだったかな。小耳に挟んだ程度なので仔細は分からぬが……高レベルの僧侶系の者が習得したという話だな」
──とのことだ。
「てことは、なかなかの魔法ってことだよな?」
「そうね。使いどころが難しい気もするけど、使ってみないことには何とも言えないわね」
「役立てば良いんだけどね。まあ、弱きを守る聖騎士らしいと言えなくもないのかな? さて、次はリーナだね」
「ええ、早速いくわよ」
待ちきれないとばかりにリーナは早々と《
そして──
「ふふ、ふふふふ……。来たわ、来たわよ! 《
リーナのテンションが爆発した。
「馬鹿な! 《
そして、ヒルダも思わせぶりに驚愕の表情を浮かべてからの高笑いだ。
「なんだか分からんが凄いらしいな」
「うん。僕はリーナの場合、何が飛び出してもおかしくはないと思ってるけどね」
「違いねえ」
無知なる俺とナルシスは自身が習得した魔法の価値に気づいていないだけなのだが、それは後日談となる。
「さて、これで当座の目標も無事にクリアしたわけだな」
リーナのテンションが落ち着いたところで、俺は切り出した。
「俺とリーナとナルシスは適正レベルの15も超えた」
「つまり、最後の敵を倒しにいくってわけね」
「ああ、いよいよだ」
「いよいよと言っても、おそらく僕達は最短記録を叩き出しそうだけどね。勝てればの話だけど」
「ふ、負けるつもりなどなかろうに」
「ああ、当然だな。最短記録とやらを出して、大手を振って先に進もうじゃねえか」
それは、全ての冒険が始まる、この街を後にするための指標だ。遥か北へと赴くための、最後の戦いに挑む時が来たのである──。
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