第31話 新人戦開幕
「冷え冷えのエールはいかがですかー? エール一杯三百ゴルだよー」
「ヴィラム風串焼きが一本五十ゴルだー! 安いよ安いよー!」
「おーい、エールをくれー」
「はいよー」
「こっちに串焼き十本くれー」
「へい! まいどー!」
ヴィラムの街は夏真っ盛りだ。
かっと照る太陽の熱もさることながら、中央広場は人々の熱気に包まれて、売り子の呼び声に、飲めや食えやと、お祭り騒ぎを繰り広げている。
年に二回開かれる
三週間も前から街中では広告が貼り出され、三日前からは中央広場でも準備が進められて、新人戦の様子を映し出すという巨大なモニターなる魔法道具が設置されている。
試合はギルドの大訓練場で行われるのだが、事前に売り出されるチケットは早々と完売してしまい、こそこそとうろつく転売屋と、それを見つけた警備兵が追いかけ回る姿も毎度恒例の様子なのだとか。
「今回はやけに盛況だなー」
「そりゃそうだ! 今年は当たり年だって言うじゃねえか!」
「ああ、間違いねえ! 噂のルーキーってのが楽しみだ!」
「いや、聞くところによると、他にもなかなかの猛者がいるらしいぞ!」
「そいつぁー盛り上がること間違いなしだなー!」
「ああ! 早く見たいもんだぜ!」
そしてついに、今日はその当日。
今年の前期に当たる今大会では、兼ねてより噂に聞こえたルーキー達が参加するとあって、街の人々の期待も高い。試合の開始を待ち望む人々が至る所で似たような噂話を広げていた。
そしていよいよ──
「さあ、お待たせしました! これより、今年度の新人戦、前期大会を開催致しまーす!」
会場からも広場からも、街のあちらこちらからも、開催の挨拶が聞こえた瞬間に、どおっと歓声が湧き上がる。
「まずは本日の出場者を順番にご紹介致しまーす! 冒険者ナンバー711の21、重剣士バルター!」
おおお──っ!! と再びの歓声を浴びて、闘技場のような造りのアーチから砂が敷かれた場内に大柄な男が勇ましく飛び出していく。
「次は、冒険者ナンバー711の22──」
新人戦への参加申し込みは一ヶ月前に締め切られる。参加資格は大会開催日時点で転生してから九ヶ月以内であることと、レベル20以下であることのみ。基本的には五人以下のチームで申し込むことが推奨されているが個人でも参加は可能だ。自信過剰の腕自慢がソロで参加して、あっさりと散っていくなんてことも時折あるそうだ。
転生時期はまちまちなので、参加のチャンスが二回と恵まれる者もいるが、実際に出場出来るのは一度のみ。参加も不参加も完全に任意ではあるものの、優勝賞品が新たな魔法を覚えられる特殊アイテムとくれば、みすみす逃す手はない。
今回も資格を満たした多くの者が参加しているようである。
「次は、冒険者ナンバー712の6、噂に名高いあの二人とチームを組む幸運を得た男! 聖騎士ナルシス!」
歓声が一際大きく上がる中、
「それじゃあ、お先に」
気負う様子もなく、ナルシスは闘技場へと出ていった。
周りを見れば、残る参加者はあと六人。それぞれが緊張の面持ちをしているのだから、ナルシスもなかなか度胸がついたと言ったところか。
次第に一人、また一人と順番待ちの通路から場内へと消えていき──
「さあ! いよいよ登場です! 冒険者ナンバー712の11。噂の超絶美少女の番がやって来た──っ!! その可憐な容姿からは想像もつかない大魔法の使い手。焼き尽くしたモンスターは数知れず。ついた二つ名は《
うおおおお──ッ!!!! と、途端に訓練場が揺れた。地響きのような大歓声が巻き起こる。
「ねえ、何これ!? すっごい出にくいんですけど!!」
「ははははっ、大人気じゃないか! いいから早く行けって! 手でも振ってやればファンが喜ぶぞ!」
煽りに煽った女性実況者の見事なパフォーマンスで、観客のボルテージは一気に高まったらしい。気恥ずかしさから頰を染めて、リーナは渋々といった感じで出て行く。
と、そこで──
リーナちゃ──んッ!! との大合唱。流石に俺も腹を抱えての大笑いが止まらない。
最近では勧誘の声をかけてくる者は減ったが、それでも街を歩けばリーナに視線が集まるものだ。冒険者よりは寧ろ、街の人々から挨拶の声が飛んでくることも多い。
「さあ、皆様、いよいよ最期の出場者の紹介となります! あれは三ヶ月前のこと。突如、東の森から溢れ出した《
歓声が上がる中、俺もまた場内へと歩みを進めた。その最中で──
「この野郎ー! リーナちゃんを独り占めすんじゃねえー!」
「そうだそうだー! リーナちゃんとお話ししたいんだよ、くそ野郎ー!」
「しかも、あいつちょっと前に女が出来たんだぞー!!」
「ふざけんな、馬鹿野郎ー!!」
「死ねごらあー!!」
歓声に混じる罵声を拾い上げるとこんなもんだろうか。
「ぷぷっ、随分と人気じゃない」
「まったくだ」
お返しとばかりに笑うリーナに俺は肩をすくめるばかりである。
「さて、大会の開催に際しまして、まずは領主様からのご挨拶を──」
──と、ヴィラムを預かる領主だという初老の紳士が挨拶を述べたり、実はギルドでは役職を持つコンラットがそれに続いたりと、それなりに式典らしいこともありつつ──
「皆様、お待たせしました! それではこれより新人戦を開幕致します!」
新人戦が始まるのであった──。
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