第19話 新たな魔法と豚の王⑤
◇◆◇◆◇
「やるじゃないか」
その戦い振りは俺の満足するものだった。
全長三メートルに達する巨体との戦いなど初めての経験だろう。人と対峙するのとは勝手が違うはずだ。体格差にも怯まず連続で斬りつけるナルシスの姿は、まさに物語に出てくる化け物退治を果たす騎士を彷彿とさせる。
リーナの援護も絶妙だ。ナルシスのピンチを救った《
一見順調ではあるが、そろそろ三分が経つ。それはナルシスの魔法効果の制限時間だ。真に冷静であれば敵との間合いを取る頃合いだが、ナルシスは果敢に斬りかかっていった。
「ま、今後の課題だな」
とはいえ、予想以上の出来だ。正々堂々とした戦い振りには好感が持てる。若干素直すぎる太刀筋ではあるが、長い期間欠かさずに稽古を積んできた剣だ。
──と、そこまで考えたところで、ナルシスはやはり窮地に陥っていた。その身を包んでいた純白の光が消え、鋭さを失った剣がオークキングの肉に食い込んで動きを止めてしまったようだ。この場合の正解は剣を手放すしかないが判断は難しい。
などと、悠長に構えている場合ではない。ナルシスが仰ぎ見たオークキングは今にも振り下ろさんと戦鎚を掲げていた。
「肩を借りるぞ!!」
俺は駆けると共に声を上げた。ナルシスへの呼びかけでもあり、ほんの一瞬だけでも敵の注意を俺に向けさせるためでもある。
狙い通り。近くの木陰から突然現れた俺にオークキングは気を取られ、疾走する俺と目前で佇むナルシスとのどちらに的を絞るかを決めかねているようだ。それだけあれば十分だ。
数メートルの間を一瞬で潰すと共に、レベル10に達して覚えた新たな魔法を行使する。
「《
ナルシスの肩を足場にして宙に身を踊らせる。跳躍と同時に俺の持つ長剣は光を帯びていた。それはナルシスの《
魔力で強化された刃は鋭さを増し、形なき魔力の刃は実体化して敵を斬らんと僅かに射程を伸ばす。効果としては単純だが、ある意味で俺が求めていた魔法でもあった。
それ即ち、斬鉄なり──。
オークキングへと振り下ろした長剣が肩口に吸い込まれるように消える。魔力を纏った剣はなんの抵抗もなく、構えた戦鎚の柄と、鎧に覆われた右腕を根本から切り落とした。
「今だっ!!」
耳元で鳴る凄まじい絶叫に顔をしかめながらも負けじと叫ぶ。
「《
すかさず、《
純白に輝いて飛ぶ光刃は、金属鎧諸共オークキングの左半身を大きく斬り裂く──瞬間、狂ったような悲鳴と共に勢いよく血が噴き上がる。
それと同時に着地した俺は、すぐに全力で走ってその場を離れた。ナルシスも踵を返して素早く俺に続く。
事前に打ち合わせた通りのタイミングだった。俺達が数歩と離れたのを見計らってリーナの魔法が降り注ぐ──
「《
リーナがレベル10で習得したのは、実に恐るべき魔法だった。
宙空に放電する雷球を発生させたかと思えば、一拍の後にオークキングへと雷が落ちる。刹那の間すらなく、閃光と雷鳴が轟いて場を支配する。その一撃は神の鉄槌を思わせる馬鹿げた威力を誇るのだ。
そう、落雷の余波だけでようやく数メートルと離れた俺とナルシスを吹き飛ばす程に。
そして、その余波は俺達にも異常を来たす。全身に痺れが走り、身動き出来ずに大地に身を投げ出して、暫くの間、二人仲良く悶絶する羽目になるのであった──。
「──くそ、ヤバすぎだろ、今の魔法……」
「本当だね。何て言うか……初めての痛みだったと言うか……」
起き上がるまでに数分を要したが、俺達は幸いにも軽傷だった……というか外傷は擦り傷程度なのだが……全身に受けたビリビリとした衝撃はかなりのものだった。ナルシス同様、俺も初体験のダメージである。
「ふふふ、良い魔法手に入れちゃった。やっぱり魔法使いたる者、雷魔法は使えないとよね。もう、一回しか使えないのが惜しいわ」
巻き添えを食らわせた張本人、リーナはにこにこと、かなりご満悦の様子だ。
「雷ってアレだよな?」
「アレだね。空で光るやつ」
悪目立ちしないようにとのこともあって、リーナの新魔法は今日が初めてのお披露目なのだが、前世での知識と経験からリーナにはある程度の予測が立っていたらしい。
「実は話半分に聞いてたんだが……」
「同じく。魔法ってとんでもないんだね」
静かに語り合う俺とナルシスの視線の先では、たったの一撃でまっ黒焦げにされたオークキングの亡骸がぶすぶすと白煙を上げていた。
「僕の苦労はいったい……」
「まあ、察するぜ」
「いや、君も大概だけどね……」
「比較にならん」
「僕からすれば一緒だよ……」
それはどうだか分からないが……ともかく、こうして終わってみれば呆気ない幕切れではあるものの、パーティーとしての成果はあったように思える。それだけでも今日の出来は上々だ。だがしかし……
「こりゃあ、また明日から大変だなあ……」
目当てのオークキングを倒しただけでなく、戦闘でも目立ちに目立ったのだ。戦いの物音につられてやって来たのであろう辺りから感じる他の冒険者の気配から察すれば、また身の回りが騒がしくなろうことは容易に想像がつく。それを思って、俺はまたため息ひとつ、空を見上げるのであった。
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