第11話 ゴブリン狩りとレベルアップ

 ゴブリンが人の言葉が理解するとは習わなかったので大丈夫だと思うが、何気ない風を装って小声で言う。


「約十メートル先の藪の中だな」


 獣とは違う敵意がこもった気配がする。チュートリアルで散々感じたものに近い……というか、そのものだ。


「よく分かるわね」


「主に人間相手の感覚だが、生き物ってのはそこにいるだけで色んな情報を垂れ流してる。呼吸とか身じろぎとかな。意識にも流れってのがあったりするんだが、ぶっちゃけ何となくとも言える。魔法にはそういうのは?」


「前世でなら索敵魔法も使えたけど……駄目ね。今は全然分からないわ」


「さっきの魔力が濃いってので応用は?」


「難しいわね。そうと感じるだけで魔法ではないもの。大量に魔力を蓄積したモンスター相手なら分かるかも知れないけど、ゴブリンみたいな弱いのは極限まで集中しても多分無理ね」


「なるほど。似て非なりか。そういうことなら索敵は俺が受け持とう」


 言い様に俺は駆けた──と同時に気配がだだ漏れのゴブリンが藪から飛び出すも、その時には俺の長剣が振り下ろされている。


「ギャッ!!」


 と短く悲鳴を上げながら、斬撃の勢いで吹き飛んだゴブリンはそのまま絶命した。亡骸を見れば、やはり腰ミノ装備だ。ギルドに飼われていようが森の中にいようが、これがゴブリンの正装なんだろう。

 先日の金属鎧で身を固めたファイターなら装備を剥ぎ取って鉄屑としてでも売るところだが、腰ミノ装備に用はない。そのまま捨て置き、先へ進む。

 数分と進んだところで再び気配を捉えた。どうやら最初の一匹は斥候だったらしい。


「来るぞ。前方から十匹だ」


「じゃあ、私の番ね」


「ところが何匹かに散らばっててな。俺が前、後ろからリーナが援護ってところだな」


「私、そういうの初めてなんだけど……」


「任せろ、指示は出す。何事も練習さ」


「分かった。やってみるわ」


 敵もこちらに気付いたようだ。力や体格では人間に劣りそうだが、耳や鼻は獣に近いのかも知れない。鈍い者なら気付いた時にはゴブリンに囲まれているなんてシチュエーションはありそうだが……幸い、俺は勘が働く。


「二時の方角から三匹だ! 他は任せろ!」


 俺の指示でリーナが構える。次の瞬間、五メートルと離れていない木陰から三匹のゴブリンが飛び出した。


「《魔弾バレット》」


 間髪入れずリーナの魔法が飛ぶ。

 魔法の光弾を撃ち出す《魔弾バレット》は、使い手が最も多い魔法の一つに挙げられるが、リーナのそれは俺のものよりも遥かに優れていた。

 リーナ目掛けて飛び出した三匹はたったの一発で返り討ちにされた。それも十数メートルと吹き飛んで──。さながら大砲の如くだ。

 その光景に怯んだ最後の一匹を斬り捨てる。結果は上々。リーナは二発の《魔弾バレット》で七匹のゴブリンを片付けていた。


「恐れいったぜ。流石は大魔導士ってか? 俺のとは桁違いの威力だぞ」


「当然ね」


 と、鼻高々のリーナ。

 俺のはゴブリンの顔面を潰すのが精々だったが、リーナの《魔弾バレット》を喰らったゴブリンは全身を潰されて圧死していた。


「しかし、まだ森に入ったばかりだぞ。マジでゴキブリ並にいるんじゃねえだろうな」


「タイミング次第では繁殖して数が増えたところに当たるかもって、講習でコンラットさんが言ってたわよね」


「ああ。ちと警戒した方が良いな」


 俺の勘が不吉を告げる。雑魚とはいえ囲まれるのは厄介だ。それぞれが既に百匹ずつのゴブリンを狩ってはいるが、ここはギルドではない。敵のフィールドなのだ。

 とはいえ、稼がねばならない現実もある。警戒網を広げながら慎重に進めば、やはりゴブリンに当たる。数としては先と同等の襲撃を二度撃退したところで、一度休息を取ることにした。稼ぎが増えるのは嬉しいことなのだが、予想外にペースが速いのだ。


 倒木に腰を下ろして水筒をあおる。たっぷりと水の入った大きな水筒はそれなりの重量がある。更に、食料や様々な状況を想定して装備を整えれば、自然と荷物は増える。しかし、余計な荷を負ったまま連続して戦闘をこなすのはなかなかに厳しい。そんな冒険者にありがちな悩みを解決するのが《空間収納ストレージ》という魔法だ。

状態表記ステータス》と同じく、この魔法もまた冒険者の登録時に得た、もとい呪いの如く左手の人差し指から外れなくなった《冒険者の指輪》を源とする。

 効果は使用者専用の目には見えない収納スペースを作り出すという、冒険者にのみ許されたとんでもない魔法だ。

 容量にすれば三日分の旅が出来る程度のものだが、日帰りなら十分だし、中に入れた物のリストは《空間収納ストレージ》を発動するだけで頭の中に流れて出し入れ自由という、仕組みと意味の一切が不明な驚きの性能を誇る。

 しかし、隣に腰掛けてお揃いの水筒をあおるリーナは、前世でも同じような魔法を使っていたらしく何の抵抗もないそうだ。

 そんなリーナは先程から思案顔をして指を曲げては何かを数えている。何かと思えば……


「ゴブリンは一匹で二百ゴルでしょ? やったわ! もう六千八百ゴルも稼いだわよ!」


 ただの金勘定だった。

 いや、現実的に俺達には金が必要なのだから、悪いことではない。寧ろ、浮世離れでもして、経済観念のない方が困るというもの。

 俺もまだリヴィオンの経済には疎いが、五百ゴルあれば飯が一回食えて腹が満たされる。

 なんとも哀れなことだが、一匹のゴブリンには一食分の価値もないというのがリヴィオンの社会通念ということだ。


 休憩も束の間、累計四度目の襲撃を片付けたところで、二人揃ってレベルが上がったので、早速《状態表記ステータス》を確認する。

 このレベルという概念も俺の世界にはなかったものだ。モンスターを倒すことはノルマでもあり、レベルを上げる経験値にもなるようで、一定数の経験値を稼ぐことでレベルアップを果たすという仕組みらしい。

 人間、技を鍛えれば熟練するのだから、職業とやらもそう捉えて、《空間収納ストレージ》と同じく半ば無理やりに納得している。考えても分からないものはそのまま受け止めるべし。

 ただ、強くなっていくのが目に見えること自体は悪くない。特に、レベルが上がる毎に魔法の使用回数が増えていくのは分かりやすいので歓迎だ。



 ────────────

 名前:グレン

 年齢:15歳

 性別:男

 職業:魔法剣士 Lv.5

 習得魔法

 ・魔弾バレット(6/6回)

 ・魔盾シールド(3/3回)

 ・炎の剣フレイムソード(3/3回)

 ・増力ブースト(1/1回)

 ・状態表記ステータス

 ・空間収納ストレージ

 ────────────



「お? 今回は二つも増えてるぞ。《魔弾バレット》と、《炎の剣フレイムソード》か。こりゃあ良いな」


魔弾バレット》は五回から六回に増え、《炎の剣フレイムソード》は二回から三回に増えている。今まではレベルアップ毎に一回ずつ使用回数が増えており、一度に二回分も増えたのは今回が初めてだ。


「私は《氷矢フリーズアロー》が四回に増えたわ。そう言えば、使用回数の上がり方がグレンとは違うわね。レベル2と4の時にはそれぞれ二回分ずつ増えたけど、今回は一回分だもの」


「職業によってか、才能かは分からんが個人差があるってことだな」


「そうね。魔法使いとしては回数が増えやすいのは大歓迎ね。只でさえ強力な魔法がないんだもの。歯痒いったらないわ」


「俺から見りゃ、十分強力なんだがな」


「どこがよ? 私の世界じゃ、せいぜいで子供のお遊びレベルよ」


 前世でのリーナは国一番の魔法使いだったらしい。リヴィオンに転生したばかり、つまり生まれたての身では仕方がないとも言えるが、力が制限されているような気分なのだろう。俺だって剣が思うように振るえなきゃ、歯痒くて堪らんだろうしな。


「まあ、じっくりやろうぜ。まずは目の前のお客さんからな」


 息つく暇も与えんとするかのように、再びゴブリンの気配を察知した。俺達は迎撃すべく身構えるのだった。

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