第4話 冒険者とステータス

「はじめまして。ギルド職員のコンラットです。どうだい? 異世界ってのは珍しいものが多いだろう?」


 コンラットはするりと懐に入ってくるような不思議な印象の男だった。それもあってか、俺も自然と名乗り返していた。


「グレンだ。自分の髪色に驚いてたところさ」


「ははっ、確かに君の髪色は目立つね。なに、すぐに慣れるよ。僕も最初に街を見た時は何色くらいあるのか数えたもんだけどね」


「てことは、あんたも転生者か?」


「そうさ。君の大先輩って感じかな」


 大先輩と言ったが、どう見ても二十代にしか見えない。だが、どことなく漂う雰囲気からは、ほんのりと老練の匂いもする。


「さて、早速だけど冒険者の登録をしちゃおうか。君もこの世界での名前くらいは早く確認したいでしょ?」


 俺の観察に気付いたかどうかはおくびにも出さず、コンラットは部屋の奥の執務机に向かうと何やら準備を始めて俺を呼んだ。


「まずはこれに触ってみて」


 そう促されたのは、執務机の上に置かれた三十センチ程もある水晶玉だった。言われた通りに手を触れる──と突然、水晶玉が白い輝きを放った。眩しさに思わず目を細めるが、光は数秒と経たずに消えた。


「はい、もういいよ。これで登録は完了っと。君も今日から冒険者の仲間入りだ」


「何だ今のは?」


「これはちょっと特殊な道具でね。長くなるから詳細は省くけど、魂に刻まれた情報を読み込むのさ。で、出来上がるのがこいつ」


 水晶玉の置かれた台座からコンラットが取り出したのは金属製の輪っかだった。


「これを好きな指にはめて《状態表記ステータス》と唱えれば色々分かるよ。さあ、言ってみて」


 手渡された細身の輪っかは人の指よりふた回りは大きい。はめるというよりは潜らせるといった感じで左手の人差し指を突っ込むと、言われた通りの言葉を唱える──


「すてーたす」


 ──と同時に起こる摩訶不思議。


「何だこりゃ!?」


 不思議も不思議、見る見るうちに何もない空中にすらすらと文字が綴られていく。先に見たのと同じ文字だ。僅かに発光する文字列が表すのは俺すらも知らない、俺自身についての情報だった。



 ────────────

 名前:グレン

 年齢:15歳

 性別:男

 職業:魔法剣士 Lv.1

 習得魔法

 ・魔弾バレット(3/3回)

 ・魔盾シールド(2/2回)

 ・炎の剣フレイムソード(2/2回)

 ・増力ブースト(1/1回)

 ・状態表記ステータス

 ・空間収納ストレージ

 ────────────



「どうだい? びっくりだろう?」


 得意げに言うコンラットには構わずに、俺は夢中で宙に綴られた文字を追う。


「グレン、十五歳。魔法……剣士? ……魔法、だと……?」


「そうとも。この世界、リヴィオンには魔法と呼ばれる技能があるのさ。ヨゼフ老は教えてくれなかっただろう? あの人、ああ見えて意外と悪戯好きだからね。でも、君は既に信じられないようなことも体験してるはずだ。女神様が現れたり、転生したりってさ。それに比べたらささやかなものだよ」


「そりゃ……そうだが……」


 それらは女神がやってのけたことなのだから、不思議だとは思わなかったのだ。

 俺の世界にだって《魔法》って言葉はあった。子供の時分には誰もが憧れる英雄やドラゴンに並ぶメジャーどころだ。そんなお伽話をいくつか読んだ覚えもある。

 それがこの世界には実在する──。


「凄えな、異世界……」


「ははっ、気に入ったようだね。ついでに補足しておくと、その指輪もう取れないから」


「はあ?」


 一瞬、意味が分からなかったが、思い当たるのは左手の人差し指。見ればそこには、ふた回りは大きかったはずの鈍色の輪っかがぴたりとはまっているではないか。


「うお? 取れねえぞ!」


 縮んだ輪っかが指輪になるまではいいが、取れないとなると不安も過ぎる。


「──呪いか!?」


 などと口走るのも仕方がないというもの。


「いやいや、魔法だってば。正確には魔法の道具なんだけど、その名も《冒険者の指輪》って言って、冒険者であることを証明するものなのさ。外れないのは呪いというか仕様だね。まあでも、何をしても取れないのは確かに恐ろしいかもね?」


 からかうようなコンラットの笑み。してやったりといった色が浮かぶのは気のせいか。いや、悪戯好きなのはヨゼフの爺さんだけでなく、こいつも同じくなのだ。


「ちっ、先に言えってんだ!」


 取り乱したことへの気恥ずかしさもあって憮然とする。逆に冷静にはなれたが、それも手の平で転がされているようで苛つく。


「まあまあ、異世界の洗礼だとでも思ってよ。でも、これで分かったでしょ? この世界には本当に魔法があるってさ」


「けっ、まあな。んで? この《状態表記ステータス》に載ってる魔法は使えるってことだよな? 例えばこの──」


「はい、ストップ! その先は口に出さない方が賢明だね」


「何でだよ? 使えるんだろ?」


「もちろん、使えるさ。というか、使えてしまうんだよね。ってことで、この続きは場所を変えてからね。じゃないと、部屋が悲惨なことになっちゃうからさ」


 その言葉には興味をそそられた。魔法の名前からの憶測だが、少なくとも半分は戦闘用。しかも、そこそこの威力が出るってことだ。

 新たな力、それも未知なる力とくれば、俺でなくとも期待と憧れで胸踊るってもんだ。

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