第三十七話 ガレアの器

「やあこんばんは。

 昨日は僕が負けちゃった所からだね」


「うん……」


 たつの表情が浮かない。

 僕が負けたと聞いて悔しいのだろうか。


たつ、心配いらないよ。

 僕はここから何度か負けるけど最終的にはそこそこ強くなるから」


「うん……」


 じゃあ、今日も始めて行こうか。


 ###


 僕の心臓はドクドク激しく鳴っていた。

 あの寝ている僕の上に立っていたヒビキの迫力。

 思い出しても寒気がする。


【おい!

 竜司!

 竜司!

 あちゃあ……

 やり過ぎたかな……】


「はっ!?

 ああ、すいません……」


【ごめんよ。

 でもああでもしないと多分アンタは解らないと思ったからね】


「……どうゆうことですか?」


【言っただろ?

 色々弱点が見えたって。

 まず……


 一、スキルや魔力制御技を使うときに時間がかかりすぎている。

 二、魔力制御技にしてもガレアの口しか使用していない。


 まず挙げられる点としてはこれだね。

 まあ、二に関しては最初にアタシが見てたから対策が打てたってのもあるんだけどね】


 僕は黙って聞いていた。


【ただね……

 本当に致命的なのはアンタの妙な自信と何でも一人で解決しようとする所だよっ】


 ガーン


 氷織ひおりでは無いが頭にそんな音が聞こえる程ショックだった。


【ショックかい?】


「はい……」


 確かにげんとのケンカの時も最終的にはガレアを抜きにして二人で殴り合ってた。

 げんと引き分けた事で自分に自信がついたのも事実だった。

 僕は何より知り合って間もないヒビキにバレてしまったのが何よりショックだった。


【深刻に考えなよ。

 ここからもっと強さを目指すのか。

 それとも強さはそこそこでいいのか。

 別に強さを求めていない竜河岸たつがしもたくさん居るだろ?】


 凛子さんや木場さんの顔が浮かんだ。


「僕は……

 もっと強くなりたい!」


 別に強さが全てじゃない事は解っている。

 凛子さんの様に人助けをするのも良いだろう。

 でも色々な事は僕が弱かったから引き起った事だ。


 僕は強くならないといけない。

 そう思った。


【そうかい、わかったよ。

 ならアタシがアンタを強くしてやろう】


「お願いします!」


【まず、魔力制御技だけど……

 アレ口以外からも出せるようにしな】


「口以外?

 手とかからですか?」


【それもいいね。

 ただ竜司、魔力の万能さを甘く見ちゃいけない。

 その気になったら全身から出せるようになるよ】


「全身からですか……?

 わかりました」


【あと技が発動するまで時間がかかりすぎている。

 一~二秒もかかっていたら相手に間合いを詰められて……

 ズドン!

 だよ】


 ヒビキは僕の腹を殴る真似をする。


「発動を早くするにはどうしたら?」


【それは練習だね】


「でもすぐに技を発動すると周りの被害が凄くなるというか……」


 僕は言い訳がましいことを言った。


「だから威力を絞ってるって言いたいのかい?

 じゃあ一度ガレアの魔力を測ってやろうか?」


「魔力を測る……?」


【そう、魔力が枯渇しないのは知っているかい?】


「はい、魔力が詰まる時があるというのも」


【そうかい、なら無くならないエネルギーを持った竜同士のケンカで勝敗を分けるのは何だと思う?】


「分かりません」


【それは一度に出せる魔力の量だよ。

 これは個人差がある】


「なるほど」


【そして高位の竜ハイドラゴンともなると竜各々の一度に出せる魔力の量を測れるんだよ。

 普通の竜を治めないといけないからね】


「じゃあ、お願いします。

 ガレア?」


【なんだ?】


「今からお前の魔力の最大値を測ってもらう」


【へいよう】


【じゃあ、ガレアちょっと頭をこっちに降ろしてくれるかい?】


 ガレアが素直にヒビキの胸辺りまで顔を降ろす。

 するとヒビキがガレアの二本の角を両方とも両手で握ったんだ。


【はい、行くよー】


【お……

 おう!】


 ガレアも若干戸惑っている。


【ふむふむ……

 何だい……?

 ……これは!?】


 ヒビキが手を放す。


「どうですか?」


【竜司驚かないで欲しいんだけどね。

 ガレアの最大魔力値はかなり高い。

 それこそそれをフルで使えれば高位の竜ハイドラゴンとも互角以上で渡り合えるほどだよ】


「ガレア!

 やっぱお前って凄いんだな!」


 僕は自分の事のように喜んだ。

 祖父に野良竜と言われたのを思い出してざまあみろって思ったよ。

 僕のガレアは凄いんだってね。


【そうか?

 ムフー】


 ガレアも嬉しそうだ。


【多分、普通の竜でも感じ取れるほどの器だよ。

 いやはや参った】


 僕は今までの事を思い出し合点がいった。


 甲子園球場での制止に来た他の竜の反応。

 素戔嗚すさのお神社での帰り際のダリンの言葉。


 あれはガレアの凄さを感じ取っていたって事か。


「ガレア凄いよ!」


【そうか?

 ムフー】


 僕とガレアは喜び合ってお互いの手をパシパシし合っていた。


【……はあ、あのね竜司】


 僕とガレアの喜び合いをヒビキのため息が止めた。


「え……?」


【また、アンタ妙な自信をつけちあってるんじゃないだろうね?

 自惚れと言い換えてもいい】


 僕はドキッとした。


【あくまでもポテンシャルが高いのはガレアであってアンタじゃない】


 僕は反省した。


【ガレアを活かすも殺すもガレアを使役しているアンタ次第だよ】


「……はい……」


 僕がしょぼくれているとヒビキが


【まあ、そんなしょぼくれる事は無いよっ。

 竜河岸たつがしがどこまで伸びるかなんて竜には解らないからね。

 ここからアンタが努力すれば良いだけさっ!】


 ヒビキが笑いながらサムズアップを見せる。


「はいっ!

 ありがとうございます」


【じゃあ、練習を再開するよ!】


 まずは全身から魔力閃光アステショットを出せる練習だ。

 イメージはハリネズミ。


「行くぞ、魔力閃光アステショット!」


 出来た!

 ガレアの全身から数十の閃光が周りに放出。

 その中の一本が僕に向かってきた。


「うわぁ!?」


【全く何やってんだいっ……】


 ヒビキが咄嗟に前に割り込んでくれた。

 閃光はカチカチに凍って下に落ちた。

 ヒビキがコツンと僕の頭を優しく叩いた。


【アンタ練習で自分がケガしてどうするんだいっ!?】


「すいません……

 あれ?」


 何か身体が怠い。

 立てなくなっていた。


【そりゃそうだよ。

 アンタあんなに閃光放ったの初めてだろ?

 まあ手は動かせるようだから十分て所だね】


 さすがヒビキ、十分たったら立てるようになった。


 次はガレアの顔から肩甲骨当たりから三発同時に放とうとした。


魔力閃光アステショット


 次もちゃんと出た。

 だが威力が強すぎたらしく木を数本薙ぎ倒していった。

 三本だとそんなに身体は疲れなかった。


「よし。

 じゃあちょっとだけ休憩」


 僕は地べたに座った。


「ねえ、ガレア。

 さっきの全身からの魔力閃光アステショットあっただろ?」


【うん】


「それに名前を付けようと思うんだけど何が良い?」


【前は俺が決めたから次は竜司が決めろよ。

 二人の技なんだし】


「そう?

 ……じゃあ針鼠ヘッジホッグで」


 見たまま。

 ガレアの身体から針鼠の針の様に飛び出していたから。


針鼠ヘッジホッグな。

 わかった】


【何だい、技に名前なんて人間って変わってるねえ】


 ヒビキが呆れ顔でそう言う。


 その後も練習が続いた。


【おっと気が付いたらこんな時間だよ。

 にしても竜司アンタ昼飯も食わずによく頑張ったね】


 僕は昼食の事などすっかり忘れていた。

 山を降りて天涯駅まで帰ってきた。

 時間は午後十七時四十五分。


【なあ竜司ー。

 ハラヘッター】


 ガレアがご飯の催促をする。


「じゃあ、ガレアは先に帰って晩御飯食べてなよ。

 ヒビキさん、お願いできますか?」


【良いよ、家で氷織ひおりも待ってるしね。

 じゃあ、ガレア行こうか?】


【へぇい】


 ガレアとヒビキを見送った後僕は並河(なみかわ)さんを待った。

 さすが社会人。

 時間ぴったりに現れた。


「待ったかい?」


「いえ、そう言えば自己紹介がまだでしたね。

 僕は皇竜司すめらぎりゅうじ

 十四歳です」


「よろしく」


 僕らは駅前の喫茶店に入った。


「まず、並河なみかわさんに報告があります。

 氷織ひおりちゃんが天涯教を脱会します」


「そうか、それは何よりだ。

 でも昨日の今日だよ?

 一体どうやって?」


「ヒビキの日本語習得に目途が立ったんです。

 それで並河なみかわさんにお願いがありまして」


「何だ?」


「ヒビキが日本語話せるようになったかどうかを判別してほしいんです」


「わかった。

 協力しよう。

 それでこれから先はどうするんだい?」


「次に天涯教本部に行く時に脱会の意思を告げようと思います」


「次って托身の時か?

 それは止めた方が良い。

 あの日は千人近い信者が集まる。

 万が一取っ組み合いなんかになったら千人相手に出来るか?」


「わかりました」


「基本托身の業は週末なんだ。

 祝日関係無しのな。

 あの総本部は天涯の家と直結しているから平日でも会えるはずだ」


 僕は一つ疑問が浮かんだ。


「そこまで知ってて何で昨日托身の業の時に天涯に向かっていったんですか?」


「それは……

 ね。

 最初俺は偵察だけのつもりだったんだよ。

 でも遠目で天涯の姿を見たら頭に血が上ってしまってね……」


 並河なみかわさんは僕と同タイプだな。

 そう思ったよ。


「じゃあ、平日に。

 いつにするかは氷織ひおりちゃんに聞いてからにします。

 並河なみかわさんはどうします?

 一緒に行きますか?」


「平日だろ?

 ちょっと難しいかもしれん」


「わかりました。

 ではいつ出向くかは連絡します」


 僕は並河なみかわさんと電話番号を交換した。

 すると並河なみかわさんが笑いながら


「吉報を期待している!」


 と敬礼した。

 これはアステバンの敵側が良く言う言葉なんだ。

 僕は黙ってサムズアップをした。


「アッハッハ。

 やっぱり君もわかったかー。

 敵組織ボーマが良く言う言葉だ」


「もちろんですよ。

 アステバンフリークなら当然!」


 僕は誇らしくなった。


「俺もあの後TOTEYAでDVD借りて見たんだよ。

 やっぱりテンション上がるな」


 僕はまた無言でがっちり握手をした。

 その後は終始アステバン話で盛り上がって帰ったよ。


 ###


「さあ今日はここまで」


「パパ!

 強くなるんだね!?」


 たつの声が最初の時より明るい。


「ああ、そうだよ。

 たつのパパは誰にも負けないさ」


「うん」


 じゃあ、今日はもうおやすみ……


          バタン



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