第二十五話 竜司と蓮イチャコラ

「やあ、こんばんは」


「パパ、ケンカの怪我は大丈夫だったの?」


 一体いつの話だと思ってるんだ。

 そう思ったけど純粋に心配してくれるたつの気持ちが嬉しかった。


「大丈夫だよ、さあ今日も始めて行こう」


 ###


 ゴリッ

 ゴリッ


 何か側で擦るような音が聞こえる。


 ゴリッゴリッ


 僕は誰だ。

 皇竜司すめらぎりゅうじ

 何で寝ている?

 そうだ、げんとケンカしたんだ。

 それでここはどこだ!


「うわぁぁぁぁ!」


 僕は飛び起きた。

 僕は布団に寝かされ傍でお婆さんが漢方を擦る時に見る器具でゴリゴリと作業中だった。


「お?

 ボン。

 目ぇ覚めたか」


「ここは……

 イタッ」


 両頬に激痛が走る。


「ああ……

 ワシの軟膏を塗ってるけんど、今日一日は安静にせなあかんで」


 するとそのお婆さんは手を止めてこちらを向いた。


「改めてホンマすまんかったなあ……

 ウチのバカ孫がえらいことしよってからに」


 ぺこりと頭を下げる。


「いえ……

 僕も彼に色々しちゃいましたし……

 喧嘩両成敗って事で」


「そないな事言うてもなあ……

 見たところげんより年下やろ?」


「あ、はい。

 皇竜司すめらぎりゅうじ

 十四歳で竜河岸たつがしです」


「ワシは鮫島さめじまフネ。

 元竜河岸たつがしでピチピチの八十九歳です」


 僕は黙った。

 ピチピチ部分を突っ込んでいいのか迷ってたんだ。


「喝ーーッ!

 竜司りゅうじあんなぁ……?

 大阪人がボケとんのやから突っ込まな!」


 流石にハードルが高すぎると思ってまた黙ってしまった。

 そこへ


「こんにちわー」


 天の助け。

 いや僕にとっても天使。

 蓮がやって来た。


「フネさん、買い出しのものってこれで大丈夫?」


「ホイホイ……

 よし大丈夫じゃ。

 蓮や、ほれ」


 フネさんが僕の方に首をしゃくりあげる。


「竜司!」


 蓮が僕に抱きついて泣いていた。


「イタタタ!」


「あ、ごめん……

 でも、本当に良かった……」


「ごめんね蓮……

 心配かけて」


「ううん、私の方こそ……

 私のためにそんなボロボロになって……」


 多分ルンル曰くラブラブフィールドが出来てたんだろうね。

 そしたらフネさんが


「ウヒョヒョヒョ。

 若いってのはエエのう。

 どや?

 蓮がええなら竜司の隣に布団敷いたろか?」


 蓮の顔が赤くなる。

 この顔をもう一度見る事が出来てホッとしたよ。


「もうフネさん!

 からかわないで下さい!」


「ウヒョヒョ、蓮は可愛いのう。

 じゃあワシは店番に戻ろか。

 多分昼過ぎに腹も減るじゃろ。

 そん時は蓮に作ってもらえ」


 フネさんがニヤニヤしながらそう話す。


「台所や食材は勝手に作ってええからな。

 じゃあ、後は若いもんに任せて」


 フネさんはスキップしながら消えていった。

 何がそんなに嬉しいのだろうか


「蓮、そういえばあの時大丈夫だった?」


「うん、あのベノムって子。

 戦う意思は無かったみたい」


「そうなんだ」


「何か通せんぼしてるだけで手を出してこなかったし」


「良かった」


 僕は心底ホッとした。


「そういえばガレアは?」


「ルンルと一緒に散歩に出ているわ」


「そうか」


「ほら、竜司。

 身体は竜司の方がボロボロなんだから眠って」


「うん……」


 僕は安心して眠りについた。


 眠った僕は夢を見たんだ。

 どこかはわからないが、僕は戦っていた。

 ガレアの背中に乗って大空を駆け巡っていた。


 そして全方位オールレンジを展開する僕。

 周りに居る数十匹の竜に照準のような奇妙な印がついた。


「ガレアーー!

 シュートーー!」


 夢の中で僕はそう叫ぶと、ガレアの口から何十もの光の光線が放たれる。

 周りの竜は全て撃墜された。

 ここで目が覚めた。


 僕は黙って考えた。

 僕の全方位オールレンジはこんな感じに進化していくのかって。


「あ、竜司起きた?

 ご飯出来てるよ。

 お腹空いてるでしょ」


 奥からエプロン姿の蓮が顔を覗かせる。

 その姿の可愛さに僕は赤面したよ。


 ぐう


 その声に反応して僕の腹の虫が鳴った。


「何作ったの?」


「お粥よ。

 フネさんが言ってたの。

 胃が滅茶苦茶になってるから胃に優しいものが良いって」


 土鍋と小鉢に梅干しと昆布を載せて蓮が持ってくる。

 ただの真っ白いお粥だったけどそれだけじゃない何か匂いがする。


「じゃあ、食べて……

 あっ……

 竜司、腕が上がらないんだった……

 じゃあ、食べさせてあげる……」


 蓮はほんのり頬を赤くし、土鍋からレンゲでお粥をすくって僕の口まで運ぶ。


「あ、待って……

 フーッ……

 フーッ……

 はい、あーん」


 僕は素直にアーンした。

 口の中に入ったお粥は物凄く美味しかった。

 ダシの深みが凄くて本当に美味しかったんだ。


「美味しい……」


「そう?

 良かったー」


「これって何の味?」


「フッフーン、これは干し貝柱よ。

 それでダシを取ったの」


 蓮が自慢げに語る。


「このお粥、ママから教わったの。

 美味しいでしょ?

 はいっ

 アーーン」


 やはりホントに美味しい。

 三口、四口とどんどん食べていった。

 何だかこの時間が物凄く幸せだったよ。


「ふふっ。

 いい食べっぷりねぇ竜司。

 はい、あーん」


 その空気をぶち壊す二人が帰って来た。


【アーー!

 竜司起きたのか!

 ってか蓮と何してんだ!?

 夫婦か!?

 二人は夫婦なのか!

 そうなんだろ!】


 散歩からガレアとルンルが戻ってきた。

 どうしてこいつらは玄関から入らないんだ。


【あら、アタシ安心したわ。

 蓮、アンタなんだかんだ言ってやる事やってんじゃない】


 すると蓮が顔を赤くしながら


「こっ……

 これは違うのっ。

 竜司が腕が上がらないからっ。

 食べさせていただけなのっ」


「そそっ……

 そうだよ!

 僕も腕が使えるなら自分で食べてるよっ」


 僕の顔も絆創膏だらけだったけど多分顔は赤かったと思う。


「……でも、竜司が食べさせてって言うなら……

 私は嫌じゃないけど……」


 蓮が赤面しつつ、人差し指同士で指遊びしながらそんな事を言う。


「蓮……」


 僕は蓮の気持ちが嬉しかった。

 すると二人が


【まーた二人でラブラブフィールド作っちゃったわ】


【なあルンル。

 これがさっき言ってたイチャコラってやつか?】


【そうよ、ガレアちゃん】


【じゃあ、蓮と竜司もキッスするのか!?】


 ブーー!


 僕は食べていたお粥を吐き出した。


 僕はむせた。

 死ぬほどに。


「竜司!

 大丈夫!?

 何馬鹿な事言ってんの!?

 二人とも!」


 僕も同意したかったが


「そうだゴホッ……

 そんゴホッ……

 やるわ……

 ゴホッツゴホッ!」


 言葉にならなかった。


【ごめん竜司。

 何言ってるかわからん】


 もっともだ。


「お前らーー!

 何を騒いどんねや!

 近所迷惑やろ!」


 フネさんが店先から飛んできた。


「す……

 すいません」


 何回目だろう。

 この謝り方。

 当のガレアとルンルもいつも通りだろうなって思ったら大人しくなっていたんだ。


【ガレアちゃん、止めときなって。

 フネさんには勝てないわよ】


【だってお前悔しくないのかよ。

 あんな人間に……】


【アタシ長いものには巻かれるタイプなの】


【何だそれ。

 わけわかんねぇ】


「竜司。

 お前も食うもの食ったら寝ろ!

 寝てへんと治るもんも治らへんでっ!」


「でもそんなに眠たくな……」


「じゃあ、これ飲めや」


 僕が言い終わらない内に何やら怪しげな薬を口に入れられた。

 水も無しにスーッと消えていった。


「これで後、五分ほどしたら寝むたなるわ」


 本当に眠たくなった。

 そして僕は眠りについたんだ。


 ###


「今日はここでおしまい」


「パパー僕もそのお粥食べたいー」


「そうだね、また作ってあげるよ」


 さあ、今日はもうおやすみ……


       バタン

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