第二十六話 宴会の中で

「やあ、こんばんは。

 今日も話して行こう」


「パパー?

 あの夢は何だったの?」


「それはこれから話す中でわかってくると思うよ」


 さあ、昨日は僕が眠った所までだったね。


###


 僕は静かに目が覚めた。

 起きたら幾分か痛みもマシになっていた。

 フネさんの薬は凄いなあ。

 僕はそう思ったよ。


 窓を見るとすっかり夜になってた。

 今何時だろ?

 そう思って、僕は布団から出て部屋の外へ出た。


 何か笑い声がする。

 その笑い声の方へ行くと宴会の真っ最中だった。


「ガハハ、ガレアお前凄いやっちゃのう!」


 まず目に入ったのはげんだ。

 片手にビールの入ったグラスを持っている。

 お前十七歳じゃないの?

 そう思ったよ。


【よっほっは】


 続いてガレア、三日前見せた宴会芸を披露している。

 よっほっはじゃないって思ったね。


「あ、竜司。

 起きた?」


 せわしなくビール瓶やらを運んでいるエプロン姿の蓮が目に入った。


「体、大丈夫?」


「若いんやから平気や」


 フネさんも同席し、ちびちびビールを飲んでいる。


「おっ? 竜司。

 起きたんかいワレ」


「うん……

 これは?」


「いやこれはな、竜司にちょっと話があるから待っとんたんや。

 んでも夜になっても起きてけえへんし、このまま待っとてもなあって。

 ねーちゃんもおるし、竜も三人おるしな」


「それで宴会に……?」


「そう、ばーちゃんもいつもメシはワイと二人やからな。

 人数多い方がええやろって思ってなあ」


「さっ竜司も座って」


 蓮の案内で席についた。


「さっきのオカユ暖めてくるね」


 蓮が台所に消えていった。


「なあ竜司、体は大丈夫か?」


「うん、さっきよりは大分マシになったよ。

 まだお腹は気持ち悪いけど」


 げんは話を続ける。


「そりゃ、ワイの震拳ウェイブ喰らったんやから当然やろ?

 でもワイも痛かったんやでぇ……

 ホレ」


 げんが右足を見せる。

 痛々しいギプスがはめられている。


「完治三ヶ月、複雑骨折やて。

 レントゲン見たらバッキバキに割れとったわ」


「ご……

 ごめん……」


 僕は咄嗟に謝った。


「謝らんでええて、ケンカの上での事やしな。

 でも竜司、何でワイが右足首痛めてるってわかったんや?」


「それは僕の全方位オールレンジで……」


「何やそれ?」


 僕は話した。

 自分のスキルの事。

 無意識下で発動した事。

 げんの右足首が赤く見えた事。


「なるほどのう……

 言うとおりそん時足首に違和感は感じてたんや。

 たぶん最初の魔力攻撃の時やろ。

 あれで吹っ飛ばされた時に足首痛めたんやわ」


 僕はうまくいった奇襲攻撃を思い出し少し笑ったんだ。

 そしたらげんが嬉しそうに


「あれは正直焦ったわ。

 全然関係ない方向から来たんやもんな」


「僕もあんなに上手くいくなんて思わなかったよ」


「おい竜司。

 お前もしかしてまだ切り札持っとんのとちゃうか?」


「え?」


「だからぁ……

 全方位オールレンジで出来る事まだあるんちゃうかって聞いてんねん」


「無いよ。

 ないない」


「ホンマけ?

 ワイはあるでぇ。

 まずお前が体験した震拳ウェイブの二連撃。

 あれ喰らうと体ん中で波が共鳴起こして倍加するんや。

 名づけて双震拳ダブルウェイブ!」


 げんはニカッと白い歯を見せて笑う。

 僕に手の内を話すって事はもう信用されてるんだなって思った。


「あと一つ。

 これはあんま使いたないねん。

 高周波ブレイドってのがある」


高周波ブレイド?」


「おうよ、まず獲物を持つんや。

 刃が欠けてるぐらいのほうがええかもな。

 その獲物を震動で震えさすんや。

 そしたら何でもスパスパ切れる刃の出来上がり」


 僕は震えが来た。


「ああ、ビビらんでええ。

 だからワイもこの技あんま使いたないねん。

 普通に人殺してまうしな。

 現にお前とのケンカでも使ってなったやろ?」


 僕はたまらず聞いてみた。


「僕にそんな手の内明かしていいの?」


「ん?

 そんなんええに決まっとるやろ?

 バーちゃんから聞いたでぇ。

 喧嘩両成敗って言うたってな。

 それで思たんや。

 竜司、お前はええ奴やってな。

 友達になるにはまず自分からって言うやろ?」


 げんのその気持ちが嬉しかった。

 その気持ちには答えないといけない。


「僕はもう無いよ。

 多分だけど触れた人間の位置がわかるのと、その人の現在の健康状態が解るってだけ」


「でも出来る事少なないか?

 竜儀の式って大体十二歳ぐらいでやるもんやろ?

 あんまスキル使ってないんか?」


「僕、竜儀の式したのって三日前だから……」


「……どうゆう事や?

 辛いんなら言わんでもええけど」


 僕はげんと仲良くなりたい。

 だから答えたよ。


 横浜事件の事。

 引き篭もりの事。

 家出した事。


「そうか……

 逆鱗になぁ……

 親御さんには連絡しとるんか?」


「兄にはメールを。

 両親は共働きで家にはほとんど居ない。

 お爺ちゃんは連絡してない……

 どうせお爺ちゃんには嫌われてるから……」


「あんのすめらぎのボンはまだ元気なんかいな」


 今まで黙っていたフネさんが口を開いた。


「お爺ちゃんを知っているんですか?」


「あのボンが若い頃、ようウチに来て漢方を買いにきとったわ」


「竜司、旅のアテはあるんか?」


 不意にげんがこんな事を聞いて来る。


「家出だし、そんなの無いよ」


「ヨッシャ、ワイが旅の目的を作ったる。

 竜司、お前横浜へ行け」


「横浜?」


「そうや、横浜の事件現場行って手を合わせて来い。

 まだそんなんしてへんやろ?」


「そうか……」


「死者への供養って大事やで」


「わかったげん

 そうするよ。

 僕は横浜に行く」


「ヨッシャ、ええ目や」


「竜司ー?

 オカユ出来たよー。

 何?

 何の話?」


 蓮が土鍋を持ってきて食卓に置く。


「あ、お水も持ってくるね」


 そう言って立ち上がった時

 バランスを崩して蓮が倒れかけたんだ。

 僕は咄嗟に支えようとしたよ。

 そしたら


 ムニッ


 何か柔らかい二つの物体が頬に当たったんだ。


「え……?

 キャーーーッ!!」


 すぐに蓮は胸元を隠して僕から離れたよ。


「りりり……

 竜司ー……!?」


 明らかに蓮が怒っている。


【何だ?

 竜司、何かしたのか?】


「おうガレア、今なァ竜司がこの子のチチを揉んだんや」


げんっ!

 僕はチチなんか揉んでないよっ!

 蓮が倒れそうになったから支えようとしたら胸が顔に当たって……」


「少々寂しい残念胸やったと」


「そうそう……

 はっ!?」


 僕はしまったと思ったよ。

 げんにやられたってね。

 恐る恐る蓮を見たら……

 もう爆発寸前だったよ。


「竜司のスケベーー!」


 バッチーーン


 強烈な蓮の平手打ちが僕の頬を捉えたよ。

 吹っ飛んで意識が飛びそうになった。


【確かに蓮はちょっとプロポーションがねえ……

 アンタキャベツ食いなさいキャベツ】


【竜司ー?

 大丈夫かー?】


 ガレアの声を聞こえないほど僕はグロッキーだった。


【今よ!

 竜司ちゃんが気絶した隙に襲うのよ!】


【なあなあ、襲うって交尾か?】


「するかーー!」


 蓮の顔は真っ赤になっていたらしい。


「ガッハッハ、お前らおもろいのう」


「また騒がしくしよってからに……

 近所迷惑やっていうとろうが」


 ぼくはそのまま眠りについた。


 朝、僕が目覚めたら布団の中だった。

 体の方は八割回復していた両頬の痛みも無い。


「フネさんの薬は凄いなあ」


 僕はそうつぶやき、昨日宴会をした居間に足を運んだ。

 そこにげんとガレアがいた。


「じゃあ、残ったコップを飲んでみてください」


【ウエーーー!】


 ガレアは飲んだ物を下に吐き出した。


「おっ竜司起きたか?」


【竜司!

 こいつ凄いぞ!

 俺が選んだものが解るんだ!

 いつも酸っぱい水を飲まされるんだ!】


 どうも要領を得ない。

 テーブルには三つのコップが置いてある。


「じゃあ、もっかいやろか」


【おうよ!】


「じゃあ、目隠しをしてください」


 素直に手で目を塞ぐガレア。


「はいええで。

 じゃあ、この中から一つを選んで下さい」


 スッ


 ガレアが選ぶ。


「そしてもう一つ選んで下さい」


 スッ


 もう一つガレアが選ぶ。


「はい。

 では残った方を飲んで見て下さい」


【ウエーーーー!】


 ガレアが含んだ液体を吐き出す。


【なっ!?

 凄いだろ!?】


 僕は察しがついた。

 これはマジックチョイスといって簡単な手品だ。


「そうだね凄いね」


 僕は説明するのもめんどくさいのでそう答えた。


「何やってるの?」


「いや、ガレア使って暇つぶしや」


げん、これってマジックチョイスだろ?

 こんな事も出来るんだ」


「おっ竜司よく知ってるやないけ。

 手品はわいの特技や。

 養護施設、勤めるってなったらこれぐらいできんとなあ」


「そうなんだ……

 って養護施設!?」


「そうや、ワイの進路や。

 格闘家かどっちか迷ったけどな」


 養護施設に勤めた時、子供泣き出さないかな?

 そんな心配が頭をよぎった。

 すると奥の部屋から


 シャンシャンシャンシャンシャンシャン


 薄い金属音のような音が聞こえる。

 奥の部屋に行ってみるとベノムがシンバル持った猿のおもちゃで遊んでいた。

 バランスを崩し倒れるサルのおもちゃ。

 それを見て笑うベノム。


「ああベノムなあ、おもちゃが好きやねん。

 何が楽しいのかわからんけどなあ」


【……良い】


 サルのおもちゃを立て直したベノムはシャンシャン鳴らして遊んでいる。


「竜司、体の方はどないや?」


「うん、八割回復したって感じ」


「ほうか、それは良かった。

 んで今日はどうするんや」


 僕は考えた。

 昨日の夢のように自分のスキルを扱うにはまだまだ練習が足りない。


げん、この近くに誰も来ない穴が一つ二つ増えても問題無い様な所ってない?」


「おっ魔力制御の練習か。

 あるで」


「そこに案内してほしい」


 げんは了承してくれた。


 ###


「はい、今日はここまで」


「パパって結構エロいんだねキシシ」


「そりゃまあ、男子だからね」


 さあ、今日はお休み


 また明日……


 バタン

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