第三話 竜司、怒る



 2048年 某県某市 すめらぎ邸 寝室



「やあ、こんばんわ。

 今日もお話の続きだよ」


「パパッ、昨日はガレアと友達になったんだよね」


  たつの目は嬉しそうだ。


「昨日はケンカして、仲直りした所までだったね」



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 その日はそのまま終わったんだ。


 けど、そのケンカ騒ぎが原因で小さな事件が起きたんだ。

 翌日コンビニから帰って来た僕は祖父に声をかけられた。


 その頃の僕は家が大嫌いでね。

 両親は共働きで家に居ない事の方が多かったけど、兄と祖父が家には居た。


 日中、兄は仕事の為、不在。

 て言うかほとんど家には居なかったけど。


 家には祖父とヘルパー、黒の王だけだった。

 本当に辛かったよ。


 僕は兄と祖父が嫌いだったから。


 兄は当時警視庁の花形部署の隊長で陸竜に跨って町の治安を守っている。

 その頃の僕は兄が眩しかったのだと思う。


 誰からも慕われてて、引きこもりになった僕の事も何かと気を使ってくれていた。

 でもそんな兄の優しさが僕には辛かった。


 祖父は昭和の戦後、土木建設関係のドンと言われた人。

 竜河岸 たつがしとして劣等生となった僕を嫌い、家に居ないものとして扱っていたんだ。


  すめらぎ家はもともと旧華族の名家で祖父は……


「名家だから竜河岸 たつがしとしても一流なのだ。

 いや一流で無ければいけない」


 と小二の僕に毎日聞かせてくれた。


 それと……


竜河岸 たつがしにも劣等生はいる。

 お前はそうなるな。

 竜司、お前の名前は竜を司ると書く。

 竜を立派に使役し、竜をとりしきる。

 そんな意味があるんじゃ」


 と。


 最後に見た祖父の笑顔だった。

 祖父がそんな態度を取りだしたのは僕が引き起こした「ある事件」からだ。


 二年程から僕は祖父の目もまともに見れないでいる。


「竜司、昨日は部屋で何を騒いでいた」


「友達と話してたんだよ」


「その友達と言うのは竜か?」


「そうだよ」


「ハッ、貴様はまだ懲りていないのか。

 あの日、お前がしでかした事で父親や儂にどれだけ迷惑をかけたと思っている」


 僕は返答出来ずにいた。

 黙ってしまったのは、悪夢を見なくなってもトラウマとしてまだ持っていたからね。


 祖父は話を続けた。


「どうせその野良竜もお前と一緒でろくでもないものに違いない。

 落ちこぼれには落ちこぼれが寄り付くものだ」



「!!」



 それを言い終わるのが早いか僕は祖父に飛び掛かっていたよ。


 言っただろ?

 その頃の僕は熱くなると手が出るって。


 僕の事は良かったがガレアの事を悪く言うのはどうしても許せなかった。

 拳を握り締めて祖父の顔面目がけて放ったんだ。



 けど、その拳は祖父には届かなかった。



 僕の腕は黒の王の手によって捻り上げられてた。


【我がマスターに何をする……

 消してやろうか……

 人間ッッ!!】


 黒の王ってのは祖父が使役している竜の事で、その時の黒の王の目は怖かったなあ。

 殺意っていうのを初めて感じたよ。


「もうよい降ろせ」


【御意】


 僕は祖父に跪く形になったよ。

 祖父はまた蔑んだ眼で僕を見下ろしていた。


「祖父に手を上げようとするなど、やはり落ちこぼれは落ちこぼれか……

 さっさと自分の部屋に引きこもるが良い。

 愚か者が」


 そういって祖父は背中を僕に向けて去っていった。


マスター、そろそろ墨汁が切れそうなのですが……

 あと半紙も】


「そうか、あとで買ってきてくれ」


【御意】


 そんな祖父と黒の王のやり取りも僕の耳には届かず、ただその場で泣いていた。

 静かに泣いていた。


 多分、一人だったらただずっと泣いていたと思う。

 自分の境遇を嘆いて、呪って終わっていただろうね。


 けど、今回はそうじゃ無かった。

 この時、僕が一人だったらこれがキッカケでする決断は思いつかなかったと思う。


 僕にはガレアが居たから。



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「パパ、可哀想ー」


「そうだね。

  たつからしたらひいお爺ちゃんだけど、怖かったよ」


「うん、ぼく嫌い」


「タハハ……

 ま……

 まぁまぁ、さて今日はここまで。

 続きはまた明日……」


 バタン

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