第四話 ガレア、竜司と旅を決意
2048年 某県某市
「やあ、こんばんは。
今日はどこからだっけ……
ああ、ひいお爺ちゃんと一悶着あった所までか」
「今日またひいお爺ちゃん出てくる?」
「今日からは当分出ないよ」
さあ今日も始めよう。
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誰も居なくなった広い廊下で僕は泣いていた。
声を殺して静かに。
自分の無力さと自責が入り混じって泣いたんだと思う。
蘇る事件の記憶。
フラッシュバックが僕の頭を駆け巡る。
どこまでも続く扇形の荒野。
次第に聞こえてくる人々の悲鳴。
僕は気持ち悪くなり、トイレに駆け込み吐いた。
ここで小六の時、僕が起こした事件。
街が消えた話をしよう。
今は神戸だが、その頃は横浜に住んでいたんだ。
小学六年になる四月の春休み。
祖父から声がかかり、近くの神社へ向かった。
何でも竜儀の式を執り行うと。
竜儀の式とは簡単に言うと思春期に初めて竜と接触する儀式の事だ。
大体が神社で行われる。
神社の神主様は祖父と懇意にしている人で優しい人だった。
同級生の息子と僕もすごく仲が良くてね。
どっちが先に立派な
変わった世襲制なんだよ。
父親は忙しかったので祖父の黒の王から紹介を受けた。
紹介されたのが雌の白竜だった。
陸竜でその時初めて竜に跨ったんだ。
竜の体は思った以上に柔らかく座り心地は良かったよ。
そこで式を終われば何て事なかったんだけどね。
けど僕は触れてしまったんだ……
逆鱗に。
逆鱗て言うのは小学校低学年に習う。
竜の触れてはいけない箇所の事で絶対に触れてはいけないと教わった。
ちなみに触れたらどうなるかは先生も知らなかった。
ほんの一瞬だった。
一瞬なんだ。
僕の目の前が真っ白な光と耳の奥、脳に響くぐらいの爆音が僕を包んだ。
あんな大きな音は今まで聞いた事が無かったよ。
そしてその後の前に広がった惨劇も。
僕が目を開けたら、そこに知ってる神社は無かった。
地面が半円状に抉れて、僕の位置から扇形に広がった荒野……。
理解できなかった。
僕は声も上げずずっと前を見つめていたよ。
僕はそのまま気を失った。
起きたら病院だったよ。
兄が傍に居て事の顛末を聞いた。
嘔吐が止まらなかった。
兄の話によると僕は逆鱗に触れてしまったらしい。
逆鱗に触れてしまうと竜の闘争心が刹那で目覚め、魔力を放出すると聞いた。
雌竜の逆鱗の場所が下腹部でおそらく足が当たったんだろうと言っていた。
兄が帰った後、僕は病室のTVでニュースを見ていた。
家と家族を無くしたもの。
被災地生活を余儀なくされているもの。
僕が引き起こした事と考えると気持ちが悪くなった。
猛烈に。
ニュースで身元が判明した死亡者リストに神主様と同級生の名前があった。
僕はまた吐いた。
我慢できなかった。
泣きながら吐いた。
吐きに吐いて胃の中のもの全て外に捻り出す様な感覚だった。
退院し、帰宅した僕を待っていたのは祖父の侮蔑の目だった。
「落ちこぼれが……」
祖父の最後の声がこれだったよ。
これが僕のトラウマで、引き籠もる事になったと。
別に引き籠っていても別段、生活に困る事は無かったよ。
生活費は兄が口座に振り込んでくれてたから生活に困ることは無かったからね。
事件のフラッシュバックが止み、泣き止んで部屋に戻って座っていたら窓からガレアが窓からやって来た。
【よっ竜司!】
普段通りのガレアにホッとした半面、何かバツの悪い感じになったのをよく覚えているよ。
【確か今日は第三十六話”脅威! シャイニングアステバン”だよな?
ネタバレおもしれー!】
僕は出来るだけ普段通りに接しようとしたが頭の中に落ちこぼれの文字がぐるぐる回ったんだ。
30分後
【カ……
カッコイイ……
スゲーカッコよくね!?
シャニングアステバン!】
「……そうだね」
僕は放送の内容なんか頭に入ってなかった。
当たり障りのない受け答えをするだけで精一杯だった。
【竜司?
どうした?
何かあったんか?】
優しさからか何からか解らない。
だけどその僕の様子を見て言ってくれた一言で僕の我慢の糸が切れたんだ。
プツッと。
僕は泣いてたんだ。
大声を出して、ガレアの名前を言いながら。
【ちょ!?
どうしたんだって。
まあまあ泣き止めって。
ほら竜司ちゃん?
ばかうけでも食ってさ。
どうしたんだって】
僕はべそをかきながら静かにばかうけを食べたんだ。
そして静かに事の顛末と僕が悔しかった事を話した。
【そっかー……
んで竜司って何したの?
その人間にそこまで言われるって】
僕はガレアに事件の話をした。
そしてそれがきっかけで引きこもりになった事。
家に居場所が無い事も全部。
【うわー……
ひくわー、竜司……
逆鱗に触るのは駄目だぜ。
街一つ消えたぐらいって事はその雌竜は若かったんだろうな。
年がもうちょっと行った竜なら日本が二つに分かれるぜ】
僕は話を聞いてゾッとした。
【でも、そんな凹む事でも無いんじゃね?
だって触れようとして触れたんじゃないんだろ?
こうゆうの何か難しい言葉でなんて言うんだっけ……
不義の四股……】
「不慮の事故……?」
【そうそれそれ。
わざとじゃ無いんなら別にいいんじゃね?】
「そんな簡単にはいかないよ……
僕はこの手で友達を消してしまったんだ……」
【友達なんてどうでもいいじゃん?】
「竜にはわからないよ」
【でもなあ……
竜司がこのままでも俺が困るんだよ。
お前は俺とアステバンを見て!
そしてそれについて語り合う!
それに支障が出るのはなあ……】
ガレアはばかうけを食べながらそう言ったんだ。
「はやく大人になりたいよガレア。
大人になってこんな家から抜け出たい」
【じゃあ出ればいいじゃん】
「えっ?」
【出てしまえよ。
家出っていうんだろ?
漫画のドラ座衛門で読んだよ。
出てくるのび夫は速攻で家に戻ってたけどなハハハ】
「でも僕十四歳……」
【のび夫は十一歳だったぜ】
「どこに行って良いかわからないし……」
【とりあえず東でいいんじゃね?】
「でも一人じゃ何も出来ないし……」
【え?
俺も行くよ?
だってお前とアステバンについて語れないと誰と語るんだっつーの】
ずるくて恥ずかしいけど、多分ガレアの一緒に来てくれるって言葉を待ってたんだと思うよ。
「じゃあ……
行こうか……?」
【よし決まりだ。
竜司、手持ちのアステバンを貸せ】
「どうするの?」
【亜空間に格納する】
「?」
最初何を言ってるのか解らなかったが、とりあえず渡した。
【よし……
それじゃあホイ】
ガレアの右側に渦が出たと思ったらその中にひょいひょいと手早くDVDを入れてしまった。
【よしこれでOK。
これで晴れてアステバンのDVDは俺のものと……】
「ちょっと待てっ!
おかしくないか!?」
【何だ竜司知らねえのか?
お前のものは俺のもの、俺のものも俺のものって】
「どこのガキ大将の理屈だ!」
結局その日はケンカして笑って終わったなあ。
正直アステバンのDVDはガレアにあげても良いと思ってた。
それだけガレアの気持ちに救われたって事さ。
あと僕は一つ気がかりがあった。
竜儀の式だ。
ガレアは前に式はまだだと言っていた。
僕と契りを結んでくれるのだろうか?
僕を背中に乗せてくれるのだろうか?
僕はガレアともっと深く繋がりたい。
そんな事をグチャグチャ考えている内に僕は寝てしまっていた。
その日は久しぶりに悪夢を見た。
ガレアの背中に乗って空を飛んでいる時、逆鱗に触れて惨事を起こしてっしまうという内容だった。
そんな事もあって充分寝付けない内に朝を迎えた。
遠足の前夜の様な感じとは少し違う。
不安と開放感に包まれた出発の朝だ。
この旅を終えて感じたのは楽しい事しか思い出せないって事だね。
本当にガレアには感謝しているよ。
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「さあ、今日はここまで。
続きはまた明日だ」
「パパー。
結局の所、ガレアってホントにいるのー?」
「いるよ、今は竜界に居るけどね。
じゃあ、おやすみなさい……
また明日」
バタン
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