第7話 二人の姉 そして2度目の
私は少女との自己紹介を始めた。
「私は紅っていうの。あなたは?」
「えっとね、私はフラムだよっ!」
少女は元気に名前を名乗る…私の膝の上から。
どうやらだいぶ懐かれたらしい。
私がフラムの頭を撫でると気持ちよさそうに頬を緩める。
「それで…フラムはどうしてこんなところにいたの?」
私が聞くとフラムは言う。
「私ね、家出したんだ。お姉さまに迷惑が掛かると思って」
「どういうこと?」
「えっとね……」
――フラムが言うには今の吸血鬼の一族は他国との争いを避けるため他種族を襲うことは法で禁止しているそうだ。
だからこそ最近は他種族との小競り合いもなく平和に暮らしている。
だが問題がないわけでなかった。
それは先ほどフラムから聞いた吸血鬼の中にいる吸血衝動が強い個体がいつか吸血衝動で狂って他種族に襲い掛かりかねないということだった。
そうなれば他種族と吸血鬼との問題となり下手をすれば戦争になりかねない。
だから今吸血鬼の国ではその問題の解決方法を模索している。
その方法を模索しているうちの一人にフラムの姉がおり、
無理を続け寝る時間すら惜しんでフラムを助ける方法を探し続けている姉を見てフラムは
「自分がいなくなれば姉は悩まずに済むのではないか」
と、思ったのだという。
そしてフラムは家出したのだそうだ。
その考えは短慮な子供の判断であり間違いかもしれない。
だが、それだけ姉のことが大事だったのだろう。
「フラムはお姉さんのために命がけで国を飛び出したのね」
そう言いながらフラムの頭を撫でる。
すると膝から降りて隣にフラムが座り顔をあげずに話し出す。
「……さっき紅にはお姉さまのためって言ったけど…
…ほんとは怖くて逃げだしただけなんだ……」
「怖くて?」
「うん…もしかしたらお姉さまは国のためにいつか私を殺そうとするんじゃないかって思ったら……怖くて…お姉さまのそばにいられなかったの…。
お姉さまからしたら私は……邪魔なんじゃないかって」
フラムは今にも泣きだしそうな顔でそう言ってきた。そんなフラムに私は言う。
「フラム」
「?」
「大丈夫よ。あなたのお姉さんはあなたのことを嫌ったりなんかしてないわ」
「…どうしてわかるの?」
「わかるわよ。
私にも妹がいたもの。だからわかるわ。
姉はね、世界の何よりも妹のことが大切なのよ。
だから今頃あなたのお姉さんは必死になってあなたを探しているはずよ。
フラムのことが大好きだから」
「……ほんとに?」
「ええ、ほんとよ」
そう言ってフラムの頭を撫でる。
その表情は安心したような嬉しそうな表情だった。
……少しは元気づけられたかしらね。
そう思いもう一度頭を撫でようとしたその時、
意識の外側から強烈な殺気が自分へと降りかかる。
「っ!?」
明らかにさっきまでの魔物とは格が違う相手のいる殺気に向き警戒するとそこには空に浮かぶ翼の生えた人型達がいた。
そして視認した瞬間、危険感知に過去最大の感知がくる。
赤色の紋様が宙に浮かびあがり自分に向けて細く鋭い赤い極光が放たれる。
おそらくあれは魔術だ。
「鬼の衣!スカーヴァティ!!!」
光はまっすぐに自分に向かって飛んでくる。
そしてこれが危険だと体の本能が囁き私は躊躇わずに光に向けて神刀を振りぬき極光を切り裂く。
私の攻撃で極光はガラスのように砕け散りそこにはなにも残らなかった。
だが、そうしているうちに上空にいた人影はいつの間にか正面に降りてきていた。
どうやら6人全員吸血鬼のようだ。
正面に降りてきた銀髪の女吸血鬼が忌々しそうにつぶやく。
「ちっ…神剣持ちか…厄介な」
そう言いこちらに殺気を向けている。
感覚を研ぎ澄ましお互いに身構えて次なる攻防を始めようとしたが、
そこに割り込む者がいた。
「まってっ!お姉さまっ!この人は敵じゃないの!紅もこの人たちは敵じゃないから……だから攻撃しないでっ!」
私たちの間にフラムが入りそう叫ぶ。
「…フラム?」
「……ああ、そういうこと。
あなたがフラムの姉なのね」
「……そうよ……あなたは?」
「お姉さま!この人が助けてくれたの!だから攻撃しないで!」
「………まあフラムがそういうなら…わかったわ」
必死に姉とその周りにいる吸血鬼に呼びかけるフラム。
その様子を見てフラムの姉と周りにいる吸血鬼たちは警戒を解き、
その場はなんとか収束するのだった。
◆◆◆◆◆
フラムの説得により誤解が解け、
私とフラムの姉とその従者たちが一箇所に集まった。
いちおうお互いに警戒は解いている。
フラムの姉が彼女の前へと移動する。
彼女はフラムと違い美しい銀髪の少女だ。
服装は豪奢で無駄のない動きやすくデザインされたな銀色のドレス。
そして妹のフラムよりも少しだけ大きな蝙蝠のような羽をもっている。
吸血鬼の姉妹が向かい合い話を始めた。
「……フラム、無事でよかったわ…」
「お姉さま…ごめんなさい……」
「……本来なら怒るところでしょうけど、あなたが無事だったならそれでいいわ。
…でもなぜ国から出たの?今のあなたがどれだけ弱っているかはあなただってわかっているでしょう?」
「……それは…………お姉さまこれからどうするかずっと悩んでたから…だから…私はお姉さまにとって邪魔なんじゃないかって……私は…いないほうがいんじゃないかって……」
「フラム……あなた…」
フラムは今にも泣きそうな顔で俯いている。
そんなフラムの様子を見た姉はフラムを強く抱きしめる。
「…お姉さま?」
「…ごめんなさいね…私がはっきりしないから不安にさせてしまったわね…
…でもねフラム…あなたがいないほうがいいなんて私は絶対に言わないわ。
……だってあなたはかけがえのない、たった一人の私の妹だもの…」
「………お姉さまぁ……」
二人は泣きながら抱き合う。その様子を従者たちは微笑みながら見守る。
私はそのうちの一人メイドの格好をした従者に話しかける。
「もうフラムも大丈夫みたいだし私は行くわ」
「お待ちください。
妹様を助けていただいた方にお礼の一つもしないわけには……」
「別にお礼欲しさに助けたわけじゃないからいいわよ。
私は私のやりたいようにしただけだもの」
そう言って彼女らに背を向けながらフラムに別れを告げる。
「フラムーっ!またねーっ!」
「!」
気づいたフラムがこちらに叫ぶ。
「紅ーっ!またねー!!!」
そう言って手をブンブンふっている。
肩越しにそれを見た私は元居た方角に向かって走り出す。
また会えるといいな、と心に思いながら。
◆◆◆◆◆
フラムたちと別れた私は元のフラムが襲われていた位置まで戻ってきていた。
そして改めて町探しのために森を進もうとした私の耳に再度誰かの声聞こえる。
「誰かぁーっ!助けてくれぇーっ!」
それは必死な男性の声だった。
第2の人生が始まって1日経たずに2度目の救助要請を聞き少しだけげんなりする。
……確かに人助けするとは言っけど……多くないかしら…。
少しこめかみを押さえながら鬼の衣をまとう。
まぁ…助けを求められている以上見捨てはしない。
そうして今日2度目の救助に私は全速力で向かう。
声の主はここからそう遠くないことを気配感知で確認して一直線に移動していく。
そして走る私の視界には疾走する馬車が映るのだった。
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