第6話 此処は魔の森 魔の巣窟

 平原の中心から周りを見る。

視界から先には建造物などは何もなく生い茂る草ばかりだ。

 とりあえずここに居ても仕方ないので町を探そうと思い平原の先と森を見る。

 

開けている視界の平原の先には本当に何もない。

だったら…


「森に行こうかしら」


 そう呟いた私は森へと進んでいく。


もしかしたら森の中に人が住んでいるかもしれないしね。


◆◆◆◆◆


 それから少しして私はまだ森の中を歩いている。

 

今のところ魔物などは出ていない。

周辺警戒を怠るわけではないが何もせず歩くのも暇なのでスキルを確認しながら行くことにした。


 まず「刀神LV10」だが


【刀スキルの最上位スキル。刀聖術の上位スキル】


 とのことだ。


まぁ、前世でも周りの人達が大げさに剣聖と呼んでいたしここに疑問はない。


 次に「武神LV10」


【武道スキルの最上位スキル。武聖の上位スキル】


 こちらも幼馴染との組手を繰り返し達人級にまでなっていた。

…まあ刀を使えないときの護身用なのだけれど、一応幼馴染の殺人キックを受け流せるくらいには扱える。


 そのあとはスキル一覧の中で鬼とついているスキルたち。


鬼刃きじん

『刀による非実体物(魔力・術式・精神体スピリット魔物)などへの攻撃が可能になる』


鬼眼きがん

『鬼の殺気を対象(単体)にぶつける。

 ステータスが同程度なら怯ませる。

 自身のステータスが上回った場合、動きを封じる。

 自身のステータスが大きく上回った場合、相手は死ぬ』


鬼の衣

『所持していると身体能力上昇。

 このスキルを発動している間ステータスが大幅に上昇する』


これがスカーヴァティによって私に与えられたスキルたちのようだ。


どれも使い勝手には困らないもののように思える。

…鬼眼はやや物騒だが。


使おうと思えば使い方も頭に浮かぶし必要に応じて使い分けるとしよう。


 その次が


状態異常無効

 『全ての耐性スキルの統合最上位スキル。

ありとあらゆる状態異常を無効化する』

 

 おそらく毒などが一切効かなくなるであろうこのスキルは大いに助かる。

戦場でも麻痺毒などを食らったときは大分苦戦した。

その心配がなくなるだけでも大きい。


 次の「狂気耐性」だがこれはほかのスキルたち比べて少し変わっていた。


狂気耐性

 『精神保護スキル。あなたが狂わないように守るスキル』

【これはあなたを守る光。あなたがまっすぐ進んでいけるように願ってます】


 今までのスキルと違いスキル説明の後にスカーヴァティのメッセージがあった。


 多分、神の世界で貰ったあの光でしょうね。


 そして「冥王神の加護」


冥王神の加護

 『冥王神の加護スキル。

     この加護スキルの所持者に鬼系スキルと

        神剣「冥王神刀スカーヴァティ」を与える』


 どうやら手前で見た鬼のスキルはこの加護によるものらしい。

そして神剣の名前に意識を持っていくと神剣の説明が表示された。


 -名称- 冥王神刀スカーヴァティ

 スキル 斬撃超強化 破壊不能 冥王神の裁き

 

「斬撃超強化」と「破壊不能」は…なんとなくわかるからいい。

 だが「冥王神の裁き」…これは名前ではさっぱりなので説明をみてみる。


冥王神の裁き

 『神刀で攻撃する際、攻撃するものを指定する。

それ以外には一切触れられなくなりすり抜ける』


 …これはなかなかに便利な気がする。

使いどころも多そうだしこれをくれたスカーヴァティに感謝しよう。


 その他の「回避」「行動予知」「危険感知」「気配感知」「隠密」「料理」

 のスキルは読んで字のごとしでそのままだったし省略ね。


前世ではなかったものを学びながら森の奥へと変わらず歩み続けていた私の気配感知に多数の気配が動き足を止める。


ここからやや離れた位置、

動きやスピードを考慮するとそれはどうやら獣のようだった。


そしてその気配の方へと耳を澄ませると遠くから声が聞こえる。


「…て……けて…………助けてっ!」


誰に伝えようとしているのかはわからぬ少女の声が耳に伝わる。


それは願い。生きたいという意思の声だった。


その声を聞いた私はステータスの確認を止め地面を踏みしめる。


迷うつもりも、止まるつもりもない。


間に合わないのはもう嫌だから。


「鬼の衣っ!!!」


 赤色のオーラのようなものが体からうっすらと湧き上がり体に力が溢れる。

 だが細かい確認はあとでいい。今はやるべきことがある。   


 気配感知で大まかな位置を探り全力で声の聞こえたほうへ行く。


森の木々の幹を蹴って足場にしてさらに加速し限界を超えた速度で声の主であろう少女のもとへと辿り着いた私が目にしたのは倒れこみ今にも狼に噛みつかれそうになっている少女だった。


その少女に襲い掛かっている狼を思いっきり移動の勢いのまま蹴り飛ばす。


狼は木にぶつかり体をくの字に曲げ血しぶきをあげて地面に落ちる。


とりあえず少女の危機は回避した。


しかし正面には狼がもう一匹いることによりまだ気を抜くことはできない。

 

私は少女を背中に隠しながら向かい合っている狼を観察する。

その姿は紛れもなく狼だろう。


だが体からは何かうっすらと黒い霧のようなものが見えそれはどう見ても正常なものではない。


おそらくこれがスカーヴァティの説明にあったこの世界のマイナスにして人間の敵である魔物なのだろう。

 

そう考えていると狼は私に向かって口を開きながら飛び掛かってくる。

なかなかの速度…だが。


「それじゃ駄目ね」


 私は飛び掛かってくる牙を体を最小限に動かして避けその動作のまま狼の下顎に膝を入れる。


 『グシャッ』


 顎が砕ける音がした。

だがこのままここに落ちても邪魔だと思い浮き上がっている狼の体をそのまま回し蹴りで吹き飛ばし狼は木にぶつかって血を巻き散らす。

私のズボンに血が1滴飛び散ってきた。


 ……加減を間違えたかしら?

 

 軽く飛ばしたつもりが予想より遥かに飛び驚く。

どうやら鬼の衣の発動中は身体能力はとてつもなく上がっているようだ。


 とりあえず周囲にもう狼がいないことを確認した私は鬼の衣を解除し少女に向き直る。


状況がいまいちの飲めていないのか少女は涙を瞳に溜めたままこちらを見ていた。


「…大丈夫?」


 私がそう少女に声をかけると少女は泣きながらこちらに抱き着いてきた。


「…うぅ……うわぁぁぁん…」


 胸の中で少女は泣き続ける。


私はその頭を優しく撫でながら少女を観察した。

 

年は大体12歳くらい短めの金髪でかわいいピンク色のワンピースを着ている。

 

そして背中には小さな羽があり口に鋭い牙が見えた。


その様子を見ていると脳裏に一つの情報が浮かび上がる。


そういえばスカーヴァティに種族に関する知識をもらっていたんだった。


スカーヴァティに貰った情報だとこの子は吸血鬼のようだ。


 ふと知り合いの言葉を思い出す。


『他種族と他種族は基本的関わりあいません』


 自信満々の顔で言ってた神様の言葉である。


 ……一番最初に他種族の子に出会ったんだけれど……だんだん信憑性がなくなってきたわね…神の助言。


 頭の中で神に呆れていると少女が泣き止んできた。

すると慌てたように少女が手元から逃げる。


「?…どうしたの?」


「…お姉さん人族でしょ?」


「ええ」


「だったら私に近づいちゃだめだよ」


「どうして?」


「……私が時々おかしくなっちゃうから」


「…どういうこと?」


 私がそう尋ねると少しの悩んだ後に少女は躊躇いがちに話し出す。


吸血鬼には吸血衝動というものが生まれつきあり、

それは食事をしたり、動物の血など飲んだりすれば本来は収まるのだそうだ。


だが吸血鬼の中には吸血衝動が通常より高い個体がいてその個体は食事や動物の血では衝動が収まらずだんだんと狂っていく。


吸血鬼は同族の血は体が受け付けないらしく最後には血を求め他種族に襲い掛かったりするそうだ。

 

少女もその本能が強い個体でありその影響でときどき情緒不安定になることがあるのだという。


「なら血を飲めばいいんじゃなの?」


「吸血鬼はみんなに怖がられてるから他の種族とはつながりがないの。

血を手に入れるなら他の種族を襲いでもしないとだめなの…」


 悲しそうな顔でそう告げる少女の話を聞き私にある思い付きが閃く。


「なら私の血飲む?」


「えっ?」


「他の種族の血を飲んでおけば当分は大丈夫なんでしょ?

で、襲い掛かるのは駄目でも譲ってもらう分には何も問題ないでしょ?」


「……いいの?」


「そのくらい構わないわ」

 

 そう言って私は首元を見せる。

 すると少女は少し俯きながら言う。


「……私のこと怖がったり…しない?」

 

 どうやら少女は私に嫌われるのを心配しているらしい。

 私は安心させるために再び胸元に少女を抱き寄せ優しく頭を撫でる。


「大丈夫よ…怖がったりなんかしないわ」


 そういって少女の顔に自分の首筋を近づける。

するとおそろおそる少女が首に小さな牙を突き立て短い痛みとともに血が出る。

それを少女が美味しそうに吸う。


「…んちゅ…んちゅ…」

 

 私は必死に血を吸っている少女がなんだがかわいくて少女の頭を撫でてあげると嬉しそうに少女が目を細める。


そうやってしばらくの間少女の食事に付き合った後、少女は口を離した。


「……ん…ごちそうさまでした」

 

 ペロッと口の周りについた血をなめた後に少女がお辞儀する。


「お粗末様でした。…ふふ…そんなに美味しかったの?」


「うんっ!今まで食べたものの中で一番おいしかったよ!ありがと、お姉さん!」


「どういたしまして」


 さっきまでの不安そうな表情はなくなり代わりにとてもかわいらしい明るい笑顔がそこにはあった。



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