第1章 紅き鬼は泣き救い終わりを答え迷う
第5話 新しい世界 神に叫ぶ
気が付くと俺は草原の中心に寝ていた。
寝た姿勢のまま空を見上げる。そこには輝く太陽、そして赤色・青色・黄色の月がそれぞれうっすらと見える。
…あぁ…確かにここは別の世界だな……
ここが別世界だと確認し終えた俺は起き上がる。
周りには建物や町などはない。
見えるのは地平線とその反対にある森の入り口ぐらいだろう。
…どうやら無事転生できたみたいだな。ならあとは神様…スカーヴァティの説明を聞き終えれば俺の新しい人生が始まるんだろう。
…そう思うとなんだか胸が熱くなる。
ここから始まるんだな…、俺の新しい人生が…
そう思い胸の前で自然と力の籠もった手が握り拳をつくる。
………ん?
握りこぶしを作った際に違和感を覚えた。
手首と胸元に何か当たった気がしたからだ。
気になった俺は自身の胸元に視線をおろす。
それで自分の腕と胸に何か当たった感覚が同時だった理由が分かった。
腕に当たっていたのは自分の胸だった。そう胸だった。とても立派な胸だった。
……ちょっと待て。
俺は焦りながら急ぎ確認する。
豊満な胸を軽く揉む。
すると胸に触っている感覚がある。
間違いない、これは自分の胸なんだろう。
そして今度は恐る恐る股の間に手を伸ばしさする。
……なくなっている…男の象徴が。
次に体全体の確認だ。
身長は平均的な男性より少しだけ低い程度だ。
体格は細く筋肉などはあまりないように感じる。
髪は前世と同じ赤色だ。
だが髪型は腰下まで届くストレートロング。
顔は…今は確認のしようがないな。
肌は白く傷一つない。白すぎないかこれ?
服装は、下はぴっちりとしたジーンズ、上は薄手のシャツのような服だ。
そしてシャツの下には立派な胸が強調されている。
………うん。女だな。完全に女だなこれ…。
相手は神なのだし、
こちらの感覚とは少し違うのかもしれないと何とか我慢していた。
…が、いくら俺でも今回は耐えられなかった。
すーっと息を吸い込んで俺は思いっきり空に向かって叫ぶ。
「スカァァァァァァァヴァティィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!!」
マジギレだ、当然ながら。
すると正面に唐突に半透明のスカーヴァティが、
「ひゃいぃぃぃぃぃ」
と、言いながら慌てて出てきた。
どうやら怒鳴られて急いできたようだ。
向かい合った俺は少しの沈黙の後、怒り心頭の口を開いた。
「…おい神」
「…はい」
「まぁ…時間が迫って急いで転生させたのはなんとなくわかった。
あとに説明があるのも聞いていたからそれは別にいい」
「…はい」
「だが確認させろ……転生するとき性別は…ランダムか?」
隠すこととなく怒りの表情の俺の前には正座している神がいる。
そしてその顔は汗がダラダラたれて蒼白になっている。
10秒ほどたってから神が口を開く。
「……すいませんっ!確認し忘れてましたっ!許してくださいっ!」
神はもはや土下座している。威厳?ないな。
「………ちなみに今から性別を変えることは?」
「……………すいません……もう生み出してしまったので体を作り替えるなどの干渉は……できません」
……だろうな。じゃなきゃ半泣きで謝ってくるはずがない。
だが、本気で忘れてたみたいだし神の泣きながら地面に額を擦り付ける土下座をみているとなんだか憐れに思えてきて許してもいいような気がしてきた。
こういう時に「許さん!」となるのは俺には難しいようだ。
思えば前世では友人たちにも言われていた。
「ほんっとお人好しだよなお前…まあそこがいいとこなのかもしれねぇが」
と呆れた顔で。……今思い出すと少し腹が立つな。
「……はぁー…まあいいよ…せっかくの第2の人生だし、女として生きてくのも悪くないだろ……だから顔上げていいぞ」
「…はい…本当にすびまぜん…。」
「もう気にしない……ことにする。
ずっとここに居られるわけじゃないんだろ?残りの説明を頼むよ」
「…はい…ほんとにすいません」
◆◆◆◆◆
そして女になった俺に神様の説明は再開された。
「では改めて説明をさせてもらいますね。
先に何か聞いておきたいことはありますか」
「女としての立ち振る舞い」
「本当にすいません」
素早く土下座する神に合わせて胡坐をかいて俺は聞きたいことを尋ねた。
「冗談だよ。それよりもどうして子供からじゃないんだ?」
転生っていうくらいだから新しく赤子から人生を始めると思っていたが、
今の俺の体はどう見ても20代くらいに見える。
「本来ならそうしたいですが…この世界は治癒魔術という物が存在します。
すべての傷を治すという程、便利なものではありませんが魔力という物さえあればある程度の怪我は何とかなります。
…ですがその力に頼った結果、薬や医学がそれほど進んでいません。
ですので薬を作れる人間も医学を修める人間も希少ですので…」
「体が育ちきる前じゃ病や怪我で死ぬ危険性が高いから
成人の体で転生させる…と」
怪我などの場合、治癒の力を持った
そして病気に対しては治癒魔術は効果が無いとのことだ。
その分、神の祝福などで病気にかかる確率を下げているそうだ。
ちなみにスカーヴァティが付け加えて教えてくれたが今の俺は18歳、
この世界の成人年齢らしい。
前世の世界では成人年齢は15歳だったのですこし違和感があるな。
「ではあなたの世界にはなかった新しいこの世界の概念…ステータスとスキルについて説明しますね」
「ステータスとスキル?」
「はい。意識を集中してステータスと頭で念じてください」
理解こそできないがとりあえず言われたとおりにするすると、
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
-名前- なし LV32
-種族- 人族 -年齢- 18歳
-HP- 2000/2000 -MP- 50/50
-状態異常- なし
-スキル-
刀神LV10 武神LV10 鬼刃 鬼眼 鬼の衣
回避LV10 行動予知LV10 危険感知LV10
気配感知LV10 隠密LV5 状態異常無効
料理LV8 狂気耐性LV2 冥王神の加護
-称号-
英雄 殺戮者 冥王神の寵愛者
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と頭の中に何らかの数値が浮かんだ。
「見えたようですね。
それがあなたのステータス、
つまり今のあなたの体の状態と所持スキルや称号です」
体の状態は
HP =体力・生命力 MP=魔力
という風に状態がが表示されるらしい。
魔力は魔術や特殊技能に必要なものらしい。
そしてスキルについては、
「スキルはこの世界で得ている技術や能力などが表示されたものですね。
あとでどのようなスキルがあるか確認するといいと思います」
と言っていた。
「それで?称号は?」
「称号はその名の通りその人物が行った行動によって得た功績で解放された称号が表示されています」
なるほど。
だが解放条件が分からないしそもそもどんな称号があるか知らない以上どうしようもない。
「あと私の加護スキルをあなたに与えており、それと同時に私の名前を冠した神剣を召喚する権限を与えています。大切に使ってくださいね?」
「神剣?」
「はい。
簡単に言うと絶対に折れず、よく斬れて、特殊な能力を持った武器ですね。
名前を呼べばあなたの前にに出てくるので幅も取りません。
ちなみに使い終わると消えます」
「ふ~ん」
それは便利だな。……よし、試してみるか。
「こい!スカーヴァティ!」
すると自分の手のひらに光が集まり始める。
光が収まるとそこには漆黒をベースにした鞘に金色のシンプルな装飾が施された美しい長刀があらわれた。少し刃を出してみてみる。
その抜きだされた刃を見て俺は息を飲む。
今まで見た武器がおもちゃのように見えるほどに鋭く、それでいて美しい。
これが神刀か。大切に使わせてもらうとしよう。
先程の説明では使い終わると消えるらしいので俺は試しに神刀を宙に手放してみる。すると神刀は落ちる前に光の粒子となり風に流され消えていった。
これはなかなか便利だな。
「ありがとう、大切にするよ」
そうスカーヴァティに言った、が当の本人はなぜか赤くなっている。
…なんだ?
「あっいえっその…自分の神剣なので自分の名前を与えるのですが…使うごとに自分の名前を呼ばれると思うと……恥ずかしいですね…それに大切にするって…」
…なんだかわからないがどうやら喜んでくれているようだ。
ならこちらとしてもよかった。
「これで説明は終わりですね。あとはあなたの新しい名前ですね何か希望はありますか?」
名前か…そういえばさっきステータスでは「なし」になっていたな。
生まれ変わって新しい体だから名前がないのだろう。
名前…名前か。
「なあこの世界で『クリムゾン』と同じ意味の言葉ってないか?」
真っ先に思いついたのはそれだった。
2度目の生だが前世で親からもらった大事な名前を跡形もなく消し去るのは嫌だったから。
「そうですね…『
この世界の一部の大陸の言葉でクリムゾンと同じで『鮮やかな赤色』という意味です」
スカーヴァティは提案しながら宙に赤色の文字の『紅』を描く。
見たことがない文字だが自然とこの世界の言葉だということは理解できた。
そして俺はそれほど迷わずに前世と同じ意味を持つその言葉が気に入った。
「『紅』か…いいな。
よし今日から俺の名前は紅 『紅・ナインスハイロウ』だ」
宣言こそしたがこれがちゃんと認識されたのか分からなかった俺が自身のステータスを脳裏に開き確認すると、
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
-名前- 紅・ナインスハイロウ LV32
-種族- 人族 -年齢- 18歳
-HP- 2000/2000 -MP- 50/50
-状態異常- なし
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
どうやら名前として認められたようだ。
するとスカーヴァティが嬉しそうに言う。
「おめでとうございます。
これで説明も終わりましたし、あなたはこの世界の住民として認められました」
「ようやくか」
「はい、お疲れさまでした。
そして役目も終わったので私は消えようと思います
…あまり神が人の世界に長居してはいけませんからね」
「そうか、世話になったな」
「いえっ!こちらこそご迷惑をおかけしました。
そして世話をするのはここからです。困ったときは間が悪くなければ助言か力添えくらいはしてあげられると思います!」
何故か嬉しさを孕んだ表情のスカーヴァティがこちらを指さしながらもう告げる。
「助言?」
「そうです!これから私の神としての手腕が発揮されるんですよ!」
「ふ~ん」
「あんまり興味なさげ!?」
俺のリアクションを受け涙目で抗議の視線を送る。
その様子を見ているとなんだか胸が暖かくなる。
神と人というよりかは親しい友人の様なおかしな感覚だ。
「期待せずに頼りにさせてもらうよ」
「そこは期待してください!」
からかう俺と拗ね顔で応対するスカーヴァティは、
短い間笑い合いそして表情を解く。
「頑張ってください、紅さん。
あなたがあなたらしく生きていくその先にきっとあなたの本当に欲しかったものがありますから」
「第2の人生、やりたいように生きてみるさ」
返事を聞いたスカーヴァティは微笑むと瞳を閉じて光になって空へと消えていく。
彼女が空へと昇っていくその光景を見送った俺は小さく息を吐き前を向いた。
「…さて始めるか俺の新しい…そういえばこのなりでこの言葉使いはおかしいか」
改めて自身の体を見るがどう見ても女だ。
「俺」と自分のことを呼ぶ女性も見たことはあるが、
せっかくの2度目の人生、このままで行くのはまずいだろう。
過去関わった女性や知り合いなどの口調などを思い出し整理して頭を切り替える。自分が女だと切り替えて私は森のほうに歩きながら区切りをつけるように独り言を漏らした。
「さて……私の第2の人生を始めましょう」
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