第8話 旅は道連れ 世は就活

 どうやら馬車に乗っている人は先ほどの狼の魔物たちに追われているようだ。

 

 瞬時に馬車の隣まで走り並走する。

必死の形相で馬車の手綱を握っている男はこちらに気づいてないようだからこちらから声をかける。


「そこの、後ろの魔物は私が倒すからもう少し走り続けなさい」


「……!?えっ!あっ!お、お願いします!どうかと助けをっ!」


「言われなくてもそのつもりよ」

 

 そう言って後ろに走り寄ってきている狼たちに向き直り走り出す。


「こい!スカーヴァティ!」

 

 走っているスピードにあわせこちらに直線状で来る狼をすべて斬り裂く。

大口を開けたその口、爪をたてようとするその腕ごと。


今ので3匹、あとは横にばらけながら走っている4匹の狼たちだ。

地面を強く蹴り迫る狼に近寄る。


すると他の仲間が一斉に倒されたことにより危機感でも湧いたのか狼たちが全員こちらに向き直り襲い掛かってくる。


咄嗟にその狼の動きに対応し横薙ぎですべての狼たちを斬ろうとしたとき異変が起こる。


脳裏に何かの感覚が湧き出るとともに体が無意識に動き、

わたしを囲っている狼たちの中心で円を描くように体を素早く回しながら神刀を光の速さで振り抜く。


「【月天斬鬼げってんざんき雛菊ひなぎく】」


 自然と口から洩れた技名のようなものと同時に魔物を斬り裂く。

 

 体の自由が戻った時には、周りにいた狼たちは全て真っ二つになっていた。

…そして宙にばらけた狼の死体から血が巻き散らかされるのを見て回避する。

 

 周りに他の狼がいないことを確認した私は馬車に向かって走る。


 さっきのは何?…これはスカーヴァティの説明にはなかったわね…

…彼女の場合は言い忘れてる可能性もあるんだけど……とりあえず今は保留ね。

 

 そう思いながら馬車に追いつく。


「すべて倒したわ。足をとめても大丈夫よ」


「もうですかっ!?ほ、本当に?」


「止まればわかるわ」


 そう言われた男は馬車を止め周りを確認し、


「ほ、本当だ……いない…た、助かった……」


 と、いった後その場にへたり込んだ。


 そのあと落ち着いた男性が馬を休ませるために短めな休憩をとるというので私も付き合うことにした。


疲労しきって走れない状態でもう一度襲われても困るもの。


 ポットで入れたお湯で飲み物を作り私に渡しながら男は言う。


「先ほどは助けていただきありがとうございました。

私はテンパラス商会で商人をしております、マニル・ロッツと言います。

以後よろしくお願いします」


「ご丁寧にどうも。私は紅よ」


「それで紅様、まずお礼の話をしましょう」

 

 今日2度目のお礼の話が出てくる。


 …あらデジャヴかしら。


「お礼目的で助けたわけではないのだし、気にしなくてもいいわよ?」


「とんでもありませんっ!私は商人です!

自分の命の恩人にお礼の一つも与えないとあっては商人の名折れですっ!

どうか私にお礼をさせてくださいっ!」


 そう言って頭を下げてくる。

ここまで言われたら断りづらいのでさすがに渋々お礼を受け取ることにする。


「こちらをどうぞ」


 そういいながらマニルが金色の小さな袋をわたしてくる。


「……これは?」


「はい。それはディメンジョンポーチと言いましていろいろなものを別の空間にある倉庫にしまえる魔道具です。その大きさでは想像もつかないほどの大量のものを念じるだけで出し入れできる優れものです。」


「それは……便利ね。でもこれ高いんじゃないの?」


「私は金で買えない『命』をあなたにいただいたんです。

どうぞ受け取ってください」


「……ありがとう。大切に使わせてもらうわ」


「はい。品質は保証しますのでどうぞ使ってやってください」

 

 そう言いながら笑いあう。

……そして。


「では次のお礼を……」


「えぇ……」


 そのあとさんざん説得しても断り切れず、

私は血もよく落ちる高級石鹸と少量のお金をもらった。


 お礼の話もようやく終わり一息ついた私たちは向かい合いながらこれからの話を始める。


「それでマニルはこれからどうするの?」


「はい、もう少し馬を休ませたら予定通りこの先にある町に向かおうと思っております」


「それならマニル、よければ馬車に一緒に乗せてもらってその町に行きたいんだけどいいかしら?もちろん護衛もしてあげるから」


「それはもちろん構いません!むしろこちらから頼もうと思っておりましたから」


 一緒に町に行くことで話がまとまり魔物も来ることもなく休憩も終わり、私たちは馬車に乗り込む。


馬車で森を抜けその先の平原で手綱を握っているマニルと雑談をする。


 今はなぜマニルはあの森にいたか、という話の最中である。


「…ははは……お恥ずかしい話ですが商品の納期がぎりぎりで急いで町に行く必要があったため森を通り抜け早く町につこうとしたんです。

 ……結果はあのざまですがね。紅様はどうしてここに?」


「私は知らずに入り込んだだけね。

まあここがどこなのかなんてわからないんだけどね」


「ここがどこかわからないのですか?大陸についても?」


「まあそうね。

この世界にどんな大陸があるかとかそういうのは全然知らないわ」


 それを聞いたマニルが少し考えたあとにこちらに提案してくる。


「よろしければお教えしましょうか?どうせ手綱を握っているだけで暇ですから」


「ええ、お願いするわ」


 そうしてマニルからこの世界の情報を仕入れる。

 

この世界は五つの大陸でできており中心に中央大陸、

そしてその周りを囲うように東大陸、南大陸、西大陸、北大陸があるらしい。

 

この五つの大陸のなかで人族がいるのが中央と東、それと南大陸とのことだ。

他の大陸には人族がいないためどんな種族がいるのかは正確には把握されてないらしい。

 大陸の説明を終えマニルが周りを見ながら話し出す。


「紅様は町で何をするんですか?」


「ん~……仕事探しかしらね。

マニル、何かお手頃な仕事はないかしら?」


「ふむ。仕事ですか……紅様ほどの実力者なら冒険者がよろしいかと」


「冒険者?……他の大陸の探索でもするの?」


「いえ、そういう仕事ではないですね。

簡単に言うなら魔物を狩るのを主な仕事にしており、依頼によっては護衛や採取などをこなす便利屋のような仕事ですな。

実力さえあれば身元や職歴なども問われることもないので簡単になることができます。犯罪などをしていればわかるらしいですが」


「ふ~ん冒険者か。都合はいいかもしれないわね」


「冒険者になるんでしたら今向かっている町に冒険者ギルド支部がありますからそこに行って登録してもらってください。紅様なら簡単でしょうから。

登録料はお礼で少々渡したもので足りると思います」


「わかったわ」


 そう話していると遠くに灰色の大きな壁のようなものが見えてくる。


「マニル、もしかしてあれが?」


「はい、あれが私たちの向かっている町『エビリム』です。

今、私たちの前に見えているのは魔物の群れが来たときのために町に張り巡らされてる防壁ですな」

 

 そんなことを話しながら馬車に揺らされること少々、私たちは町の入り口である大きな門にたどり着いていた。門の近くに近寄ると軽鎧の男たちが近寄り話しかけてくる。


「おや?マニル殿でしたか。いつも商品の納品ご苦労様です」


「いやいやこれが仕事ですからな。そちらも門番ご苦労様です。

今身分証を出しましょう」


「いえいえマニル殿なら顔見知りですし身分証は不要ですよ。

……えーとそちらの女性は…」


「こちらの方は私の護衛をしてくださっている方でしてな。

私の命の恩人なんです。身の潔白は私が保証しますよ」


「なるほど…そうでしたか。わかりました。お二人ともどうぞお入りください。

改めて……ようこそエビリムへ」


 笑顔で門番が言って門の内側へ通してくれる。

 

 そしてしばらく町の中を進んだところで馬車から飛び降りる。


「ここまででいいわ。私は冒険者登録に行ってみる」


「そうですか。ギルドは町の中央にある建物ですからすぐに見つかるでしょう。

ここまでの護衛ありがとうございました」


「こっちこそ世話になったわね。

役に立てることがあったらまた声をかけてね」


「わかりました、その時はよろしくお願いします」


 私はマニルと別れ町を歩く。

町の奥へと入っていきそこで剣と杖の旗が掲げられた大きな建物を見つける。

外には大きな看板で『冒険者ギルド』と書いてある。


どうやらここで間違いないようだ。


「さてと……就職活動ね」


 そういいながら私は扉を開けて中へと入っていく。

 

 未知の新しい一歩を踏み出すために

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