第3話 此処は神の域 神の職場
俺は目覚める。
そこは記憶の世界に入り込む前にいた白無垢の空間だった。
どうやら俺は無事に戻ってきたようだ。
そして俺の前には嬉しそうな表情で白い空間に佇む神様がいた。
「よかった。無事戻ってこれたようですね」
「…まぁ…だいぶ無事とは言い難いがな…」
「それでも魂が無事です。生きてさえいれば何でもできます!」
「いや…全部思い出したからわかるが…俺…死んでるよな?」
「体は死にましたがまだ魂が残っています。
魂があれば生きているといえ…いえ……言えますかね?」
神様は話している途中で自信なさげに聞いてくる。
…それを俺に聞かれてもなぁ。
「知らないよ…はぁ…
…そんなだから同僚に威厳がないって言われるんじゃないか?」
「うぐっ!?」
図星を突かれた神様が呻く。
「ごほんっ!…それで大丈夫ですか?確かに魂は壊れていませんがダメージは受けたはずです…後悔してませんか?」
急ぎ気味で話題を元に戻す自称神。
まあ追及するのも可哀そうだから俺は返事をした。
「確かに苦しかったよ。地獄にいたようだった。
でもあのまま大切な妹達のこと忘れていたら…あいつらとの幸せな思い出まで無くしていた…それは多分あいつらが生きていた証を消すのと同じことだと思う。
だから俺は忘れない…後悔も、そして罪も全部…引きずってでも持っていくさ」
「そうですか…あなたらしいですね」
優しい笑顔を彼女が浮かべる。
それによりその場の空気が弛緩した俺の脳裏にふと疑問が過ぎる。
「なあ神様。俺死んだんだよな?なんでこんなとこにいるんだ?」
「はいっ!よくぞ聞いてくれました!」
若干のドヤ顔で神様がいう。
さっきまでのシリアスな表情はどうやら死んだようだ。
「ここに呼んだのはあなたの功績を称え、
あなたに転生の権利を与え別の世界で第2の人生を歩んでもらうためなんです」
「転生?」
「はい、転生です。
あなたにわかりやすく言うなら生まれ変わり、ですね」
俺は理解できずに神様に尋ねる。
「功績なんてあったか?俺はあの感じだとどう考えてもただの大量殺人鬼だし、
どちらかというと地獄行きのチケットだと思うんだが?」
すると神様はむっとした顔になりこっちを見た。
「そんなことありませんっ!
確かに最後はあんなことになってしまいましたが…あなたはあの世界にいる人間を平穏へと導いた紛れもない救世の英雄なんですよ?」
…英雄?俺が?
「言っちゃなんだが俺はただ仲間と協力して敵国を倒していただけだぞ?
それこそ俺と同じ隊長格の友人のほうがよっぽど英雄だと思うんだが…?」
「それはあなたが気づいてないだけですよ。
あなたは仲間ならば立場など関係なく助け、悩んでいる友人の支えになり。
そして罪がないなら敵でも手を差し伸べる、そんなあなたの姿に惹かれ、
導かれ、救われて、あなたの仲間たちは終戦までたどり着いたんです。
紛れもなくあなたが連れて行ったんですよ。」
…そうなのか?そんな自覚一切ないんだが…
あまり納得のいってない様子の俺を見て神様がため息をつきながら何か聞き取れない声で呟く。
「……そんなだからずっと傍にいた幼馴染の想いにも気づかないんですよ……」
よく分からないが神様に呆れられた。
この神様にだ。誠に遺憾である。
「俺は…戦争で数えきれない程の人を殺しているし…自分のことは殺人鬼のようなものだと思っている。第2の人生の資格なんてないんじゃないか?」
俯き気味に俺が言うと神様は微笑みながら言った。
「戦争中に他人を気にすることは自分の命を危険に晒すだけです。
それでもあなたはその心を失ってないんですね。……あなたは優しいですね」
…そうだろうか?
俺は自分の我儘で他人を切り殺していただけなんじゃないだろうか?
そんなことを考えていると神様が、
「私はそんな優しいあなただからこそ転生させ第2の人生を歩ませてあげたいと思ったんです。……もし、それでも気になるというのなら殺した人の数だけ人を助ければいいんではないでしょうか。あなたは早くに死んでしまいましたが人生は長いんです。第2の人生で誰かを助け続ければきっと、奪った命よりも救った命のほうが多くなります。」
と優しい表情で言った。
…確かにそうかもしれない…少なくともこのまま死ぬよりは贖罪になるだろう。
そう考えていると神様が再び口を開いた。
「そしてこれは私個人の願いです。
あなたは…あなたは自分を殺しすぎていました。
あなた自身が選べるものがなかったのです。
だからこそあなたには…第2の人生で自分の思うように生きてほしいと、
私はそう願います。」
おそらくその言葉には他意はなく浮かべた彼女の笑顔は本物だろう。
その言葉には俺を思う優しさが込められていたから。
…確かにそうだな。
俺は貴族として生まれその流れで軍人となり戦い、そして死んだ。
そこに俺の選択肢はなく、ただそれが当たり前だと思って生きていた。
貴族の立場と軍人の規律に俺は従って生きてきた俺は自分の意思で選びとったモノはほとんどない。
それこそ自分と幼馴染で鍛えた剣術と格闘術くらいのものだろう。
…なら自分の生きたいように第2の人生を生きるのもいいんじゃないだろうか?
誰かを助け償いながら自分で選び取る未来…それも悪くないかもしれない。
「…それも…案外悪くない…かな?」
そう言った俺に神様が喜びながら言う。
「はいっ!それがいいですっ!」
喜びながら神様はぴょんぴょん跳ねてはしゃいでいる。
うん。確かに威厳はないな。
こうして俺は異世界に転生する方向で話はまとまった。
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