nameless

 地球上のいつか

 どこかで暮らしていた

 名前のない


 ある男


 の頭の中に

 かつて一度も存在しなかった

 すべてのもの

 を煮詰めたスープ

 に浮かんで

       いた

 一片のウミガメ

 の七番目のヒレ

    の網目の中の点



     誰かがスープに息を吹きかけて

         表面が波立った

            ヒレが沈んでいく。




  かつてある男の頭の中に一度たりとも存在しなかったものを集めたスープ




    鍋の底にはありとあらゆる かつて男の頭の中に存在しなかったもの

     たちがひしめき合ってうごめいてい た。




 部屋の明かりが遠ざかっていく。

   ウミガメの七番目のヒレは

     (例えば存在しなかった幸運や不運)

       ゆっくりと異形のものに埋もれてゆく。




かつて世界中のどの神話にも描かれたことのなかった名前のない魔物

 がゆっくりと歩み寄り、スープに口をつけ飲み干してしまった。


    魔物の真っ暗な胃袋の中

    かつて男の頭の中に存在しなかったありとあらゆるもの

    を煮詰めたスープ


  かつて世界中のどの神話にも描かれたことのなかった名前のない魔物

   は宇宙のどこにも存在しない点を結んだ空間の中で

    大きく息をついて

     眠っ

      た

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