第4話 逡巡
ひとまず私は脳内会議を臨時招集することに決めた。多数派は圧倒的優位な「行かない」派である。これは出来レースだ、と議長である私は内心呟いた。実質「行かない」派の正当性を追認する儀礼でしかない。これまでの経過を振り返ってみても、「行かない」派の主張の方が説得力がある。つまり“過ぎた時間は戻せない”という至極当然ともいえる物理法則である。結局のところタイムマシーンや死んだらまたやり直せるという都合の良い設定がない現実ではもうお手上げなのである。
「あーぁ。もういいじゃん。くだらないよ、こんな会議。」
私が私に向かって言う。天使と悪魔の恰好をすることが多い脳内会議だが、すでに「行かない」派の彼女は虫歯のコスプレをほとんど脱ぎ掛けていた。
「議長、もふもふして寝ましょう。」
黒タイツをくしゃくしゃに丸めた私は帰る用意をしていた。会議という手前、私は若干焦る演技をしてそれっぽいことをなんとか言った。
「まぁまぁ待って、まだみんなの話しを聞いてないよ。」
「いや~。もはや議論の余地あります?むしろこれから気まずいし、いっそこれを機にもう辞めちゃいましょう。」
そーだそーだと「行かない」派の私が引き連れてきたお部屋のぬいぐるみ軍団が野次を飛ばす。雑踏のなか、お気に入りの猫ちゃんクッションが保護欲をかきたてる眼差しを私に向けていた。そうだ…もういいよね、めんどいし。
「ちがう!それはだめです。人としてッ!」
なんとか振り絞った声ような悲壮感漂う叫びが、場内に響き渡った。辺りはしんと静まり返り、ぬいぐるみ軍団はもとの姿に戻ったように息をのんだ。
「天使ちゃん?」
オーガニックなこだわりを感じさせる白い布をまとった私が精一杯の背伸びをして
挙手していた。彼女はこの会議で劣勢な「行く」派であった。
「…たしかにもう過ぎた時間は戻らないかもしれない。けど、」
「…今日のこと、一生引きずるよ。」
天使ちゃんの目はマジだった。
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