第3話「行かない」
時間とは誰であっても平等に流れている。
そう言明したのは誰だったか。偉大な哲学者かはたまた陳腐な自己啓発本だったか。いずれにしても、時の流れは平等である一方で、それを短縮するサービスを受けるにはお金が必要であることも事実である。「時は金なり」とはよく言ったもので、とりわけ現代においては「時を金に換える」こと自体に勤しんでいるようにも思えてならない。
実際に生まれてから亡くなるまでの間、その「時間」をどのように消費し換金するのかという営みが、まるで人生の価値そのもののように語られることもある。
しかし、願わくはこのもふもふのような穏やかな日々を静かに過ごしたいとおもうのだよ。
私のベッドにある猫ちゃんの抱き枕は至高の一品だと胸を張って言える。無論、張る胸がないのはご愛嬌だ。そういえば、読んでなかった漫画とか文庫本を積読したままだっけ。丁度いい機会だし普段は活字なんてたいして読もうとも思わないけれど、今ならなんとなく読んでやってもいい気がした。
澄んだ秋空が心地よい朝だった。
巷では読書の秋ともいうが、私は何か漠然と新しいことを始めたくなる「再起の秋」とでも名付けたいと思っている。つまりこれまでの諸般の雑事に区切りをつけ、新たな自分を探すのである。それはとてもいい提案のように思えた。でも、どうにも「再起」というのはなんとなく居心地が悪い気がする。まるで再び瞼を開き、半身を起こしてどこかへと向かわなければいけない気持ちにさせるからだ。
そう、スヌーズを完全に止めてしまった時のような居心地の悪さだった。
はぁ。
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