第11話 援軍来れり

「さて、流石に舞ってても飽きてくるんで、忍らしく、もしくはあやかしらしくまたは鬼らしく……どれがいい?」

「そんな余裕がまだ残ってたか」

「まぁね。だって、そろそろ寒くなってくる頃だろうから」

 意味がわからないと言うように首を傾げた。

 気は足りずとも、妖力は有り余っている。

 体力だって忍術を使うにしても、鬼になるにしてもまぁ足りている。

 だったら、好きなように暴れるが吉じゃないか。

 影から妖刀が浮き上がる。

 それを引き抜いた。

にんようさつ以下いかしょうりゃく!」

 指を組んだなら唱えるだけ。

 全て言うには面倒だ。

 身が弾けるよな痛みを伴って、望んだ答えは飛んでいく。

 焼けた身体を癒す間も知らずに。

 会いたい、殺したい、ねぇ手伝って。

 会いたい、守りたい、ねぇ雪よ降れ。

 伸ばした手に触れたのは、未だに体温を残した血塗れの片腕だった。

 その片腕を口に運んで、骨ごと飲み込んだ。

「嗚呼、美味しい」

 頂戴、頂戴、その美味な脳ミソも。

 頂戴、頂戴、ねぇ食べたいの。

「んな話聞いた事ないぞ!?」

「鬼の食事はこの世にあらず。されど鬼は今此処参りやる。さぁ、逃げれどその心の臓も脳ミソも抉り食ってやろう。恐れや、人間。死にたかないなら逃げれ」

 この額から突き出す二本の角、この口に見えるは鋭い牙、この手から覗くは鋭き爪。

 弱者を潰し喰らう為にある鬼の姿。

 お腹が空いた。

 頂戴、頂戴?

 もっと、血を見せて。

 伸ばした手から逃れようと、式紙を召喚する弱者。

 鬼の目からは逃れられない。

 悪鬼あっきになる。

 もう片腕を貰おうか。

 片膝をついて、荒い呼吸を繰り返す。

「神で勝てぬなら他で挑めば良かろ?それが鬼ということよ。」

「何者だ……。神でもない、悪鬼あっきになりやがる…。お前は……」

「なら、どうして欲しい?まさか、その状態で舞いでも踊って望みを叶えられるとでも?」

「残念だったな。時間切れだ」

 再びバチンッと弾かれる。

「はっ、お馬鹿さんのお戻りか」

「騙したな?」

「さぁて、なんのことやら。ちゃんと言ったけどねぇ。」

 きっと、才造は子供と共に門をくぐれたんだろう。

 ならば、入れ違いにここへ向かってくれるお人がいるはず。

 腹を貫かれる。

 光がこの身体を焦がしてくる。

 熱い、熱い、熱い………。

 嗚呼、ほら、やっと。

 熱いから、冷やして。

 和らいだ。

「ちと、遅れたかの」

 ふわりと雪さんが舞い降りる。

 辺り一帯の温度が急激に下がった。

 雪が降って直ぐに積もり始める。

「我のみにせぬ。ぬしを愛す九尾を連れ参じた」

 九尾の狐が九匹。

 なにこれ、すごい。

 異様な風景。

 八重桜が咲き誇り、雪と花弁が舞う中で、足元は水が広がり、強い風が吹き、空からは雷鳴が響き始め、月と太陽が並び、嗚呼、表すのが難しいことこの上ない。

 こんなに久しゅう九匹の九尾を揃って拝めるとは。

 あやかし九匹集まりて、神が一人で囲まれて。

 こんな心強い味方は他にそうそういないんじゃなかろうか。

「じゃぁ、鬼になるのも合わないね。だったらこちとらも、」

 傷が塞がって消えていく。

 おうさんの癒しの妖術。

 ここで間違ってはいけないことを一つとしよう。

「我ら九尾に勝てよう者なら、さぞ血に混ざっておろうのう」

「いやはや、人の子に何が出来ようか。自然に勝てぬが人よの」

「神と名乗るが、さて、こやつは未だ赤ん坊だ。我が子が勝てぬわけがなかろう」

「慢心じゃな。余裕は慢心にあらず。馬鹿の慢心、付きおうてやらねばならぬか」

「知らぬは罪なり。神の力、使う手に無知さえ見ゆる。故に、ぬしの罪は深うことよのぉ?」

「やれ笑え。異世界らしゅうなき実よ。摘み取って喰らいてやろうぞ」

「飛べぬ泳げぬ変えられぬ。力無きが、口を開けほざきやる。我は好かぬなぁ」

「無力を知れ。逆らうを悔いよ。神であろうと人であろうと、世を崩すは許されぬ」

「あまり怒らすでないぞ。妖は、そう一息では殺さぬ故、長く苦しむことになろうぞ」

 それぞれがそう言う。

 九匹がそれぞれの感情を、それぞれの力を、それぞれの声で揺らがせる。

 こんなに楽しい戦はあるか?

 いな

 存分に味わわなければ勿体無い。

 これからやっと、始まるってことだ。

 本番まで、数秒もない。

 さぁ、いざ!

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