第10話 逆転

「世界を変えさせないわ

 思い通りなんてさせないわ

 嗚呼 どんなに足掻こうと

 この影からは逃れられない

 ねぇ 陰陽の神々の

 頂点から降りる気はないの?

 そんないい加減は何回目?

 そろそろ飽きてくるでしょう?」

 扇を片手に舞いながら、歌で煽る。

「妨害なんぞ許さぬぞ

 今も明日も我らのモノ

 嗚呼 どんなにもがこうと

 この光は止められない

 なぁ 陰陽の神々の

 頂点から降りるのは影

 舐めた手加減要らぬから

 そろそろ本気でぶつかりに来い」

 歌で返しながら刃をぶつけていく。

 それをヒラリとかわしていく。

「生憎朝日は昇らない

 あんたの居場所も此処にない

 陰陽の神々に愛されし

 この世からどうぞ消え去りな」

「黙れ朝日は昇るのだ

 お前の存在を消しながら

 陰陽の力に頼らずとも

 この世は我らの手の内に」

 怒りが前に進むのか、雑に歌いながら光神はきりつける。

 それを舞いながらかわしつつ、歌を歌って笑う。

 酔えば暴走すると言っていたがそうでもない。

「知らないようだから教えようか

 この世界の鍵は影の中

 産まれて間もないあんたが

 触れられないように沈めてるの

 知らないようだから教えようか

 この世界の全ては影の中

 未だにガキなあんたには

 扱えないように此処にあるの」

 影を広げて黒い巨大な鍵を浮かばせる。

 それを再び閉じて楽しげに笑う。

「知らないようだから教えようか

 この世界は……影のモノ」

 ザァと陰陽師の足元の影が伸びて影神の近くまで寄った。

「知らない光神に教えようか

 この世界の影はこの手の内

 嗚呼 死に関わるが陰の力

 この影を切れば死に至る

 知らないガキに教えようか

 この世界の死はこの手次第

 嗚呼 死を望むなら今すぐに

 この影を切れば?」

 光神は手を伸ばす。

「やめぬか!!」

 挑発するように、繰り返し同じ歌を歌詞だけ変えて歌う。

「知らないあんたに教えようか

 この世界の生はあんたのモノ

 影が殺せど光は生を与えるでしょ

 繰り返せばトラウマね

 知らない赤ん坊に教えようか

 この世界の秘密は影の中

 ほら 油断すれば死に至るでしょ

 繰り返せよもう一度」

「止めろと言うておるだろう!」

 また、バチンッと弾く。

 歌と舞いは途切れる。

 影神は後方へ飛ばされた直ぐに顔を上げた。

「歌と舞いには敵わないでしょ?なんてったって、そういう風に[設定して]おいたんだから。怖いでしょう?憎いでしょう?息苦しいでしょう?」

「どういう…ことだ……?」

「知らないあんたに教えようか

 この世界の鍵は影の中。

 ねぇ、聞いてた?あんたが産まれる前からこちとらが、この世界を握ってたんだよ?」

「ふざけるな!」

「こちとらを殺せはしない。奪うことも出来ないさ。鍵が何であるかがわからないあんたなら特に無理がある。ねぇ、才造?才造には、なんで不老不死の呪いが掛かってると思う?」

 振り返れば、忍は心臓に手を当てて、膝をついた。

「まさか、アイツに仕込んだのか!?」

「こちとらの好きに出来るもの」

「クソが!」

 光神は忍に向かって走った。

 その手を振り上げて心臓を狙った。

 バチンッ!

 弾かれる。

「馬鹿じゃないの」

 忍から、そんな声がした。

「忍の本領は、騙し討ち。」

 マスクを降ろせば、影神だった。

「鍵を持った奴が、未だにここに立ってるとでも?もうそろそろ向こうの世界に子供と一緒に帰るところかな。門は開いたから」

「答えろ!何処にやった!!」

「さぁて、何処かしら?可笑しいと思わなかった?神が皆この場から消えたこと。こちとらたちが舞ってもあんたらに害はなかったこと。もう、手遅れさ」

 さっきまで歌を歌っていた影神は影にドロリと沈んだ。

 分身…だったということだ。

「ただじゃすまんぞ」

「ただじゃすまないねぇ。どうする?門はこちとらでないと開けない。でも、そのこちとらが門を開く余裕なんて残ってない。門はもうすぐ閉じる頃合いだ。いくら神でも難しいんじゃないの?だって、他の世界なんざ知らないからねぇ」

 ケラケラと馬鹿にしたように笑った。

 余裕なんて残ってない、と言うくせには笑って挑発する余裕は残っている。

 光神は空を見上げた。

 竜の巣が出来上がっている。

 アレの中に作られたんだと思った。

 そこしか、今は有り得ないから。

 直ぐに向かう。

 飛び去った後で、影神は微笑んだ。

「忍の本領は騙し討ち、だよ?」

 残った陰陽師おんみょうじにそう言う。

「あんな馬鹿なら騙されてくれると、信じてた。」

「使えねぇな」

「でしょう?まだ、赤ん坊だもの」

 影が大きく広がった

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