第9話 最大の抵抗
「影神のことを誤解していたようだな」
カラスがそう呟く。
いつの間にかカラスの数が増えている。
「何さ」
「いや…陽と違い、残酷なものと思っていた。が、そうじゃないな。」
「別に、誤解じゃないさ。残酷な手を使うのが陰だ。昔っからね。けど、こちとらは神のなかじゃ一番長くてね。光神が変わるのを四回見た。それくらいね。」
「物で言うと、愛着が湧いた、と?」
「みたいなもん。守ってきた以上は、捨てらんない。好きなんだもの。皆が、全部が、大切なんだもん」
影神はぎゅっと両手を胸の前で握り締める。
火傷している。
体が酷く、赤黒く染まっている。
「カラスである我々も力を尽くそう。国王様より、出来ることはしろとおおせだ」
「お馬鹿さん。あんたら死ぬよ?」
「それでも構わない」
「嫌だ。絶対死なせないから。」
途端に、影神の気が回復していく。
精神的な何かが作用するのだろうか。
「酒、全部飲むよ。あんたらの込めた気を全部使って抵抗する」
「酔わないか?」
「いいよ、酔ったら暴走するだけだから」
それは大丈夫なのだろうか?
空にヒビが入った。
「来た。調子乗っちゃってさ。」
酒を一気飲みすると、手を空に向けた。
空が暗くなり、夜になる。
ヒビが塞がっていく。
黒い雲が空を覆いだす。
「才造、舞うよ。強く願って」
「何を願えばいい?」
「なんでもいい。願うだけでいい。」
二人の足が影を踏んで、手を繋ぐ。
風神の笛がその舞いを飾っていく。
すると、何処からか、太鼓の音が響いてきた。
雷神だ。
強い風と雷が空で暴れだす。
「手伝おうじゃねぇか。風神がその気なら。影神が、尽くそうとするなら」
雷神は楽しそうに太鼓を叩きながら、そう言った。
雷神だけではない。
この場に、神々が集まりつつあるのだ。
「影神……好かれているな」
影神へ、自分たちの力を注ぎ込む。
壊れるんだ、とわかったから。
変えられない、と知ったから。
間違いだ、と見ることが出来たから。
舞や舞え 強く舞え
全ての音に 酔いしれて
影を踏んで 歌いやれ
舞や舞え 強く叫べ
全ての陰に 酔いながら
空を見上げ 願いやれ
焼ける喉に構わず歌い続ける。
どんどんスピードは上がる。
声がかすれていく。
声が途切れそうになる。
帰らない声を 探して迷う
音もない世も 代わりを知らない
帰らない息を 泣き彷徨う
音もない世の 代わりは無けれど
帰らない今を 歩みつ迷う
音もなく世は 代わりを許さず
影神ではない声が歌を続ける。
焼けた喉では続かない意志を、引き継ぐように。
その手はしっかりと握って、決して離しはしないというように、硬く。
影が濃くなる。
空は荒れていく。
知らない奴が見たらきっと、この世の終わりかと思うだろう風景が空にある。
地面が揺れる。
悪神と言われる陰の神ですら、影神に力を貸す。
そして、存分に暴れだす。
影神が好かれる理由はわからない。
嗚呼 死せよ生きよ 欲を魅せて
我の目に 乞い憎め
辛や苦や 許しはせず
その首望んで 息を呑め
嗚呼 死せや生きや 欲を魅せて
我の目に 悔い戻れ
悲や嘆や 歪みを取れ
その息望んで 首を切れ
今度は悪神が引き継いで歌う。
楽器を持たない神は歌を引き継ぎ、楽器を手にする神は歌や舞いに合わせて奏でる。
空気が重くなっていく。
カラスも、まともには動けなくなる。
これが、陰の本気である。
世界を黒く覆い、光神の力を完全に消し飛ばそうとする為、狙われていなくとも巻き添えは必ず受ける。
バチンッ!!
そう音がして、影神は倒れた。
一転して、全てが解かれた。
「させるか」
その声が迫る。
神々が何かを察して、姿を消した。
影神の手が空へ向けて指差すのを見たからだ。
それが何を示しているか、神のみぞ知る。
「そう簡単にいかせるかよ」
光神とその
忍は影神を抱き上げると、後方へ下がる。
「逃げられると思うな。大人しくソレを差し出せ。死にたくないならな」
ゆっくりと後退りをする。
風神が、その間へと立った。
武器を構える。
「やめておけ。お前に勝てる相手じゃない」
「だからなんだ。勝てないのを理由に守ることを捨て逃げるのが、影神ではない。なら、それに習うべきだ。守られるのが神ではない」
風神の目の前に光神が立つ。
「ならば、お前を消すのみ」
一瞬だった。
竜巻と共に、風神と光神がぶつかった。
しかし、風神は倒れ込む。
影が、立ち昇る。
風神の身体中から、影が溢れ出た。
「なんだ?まさか、何か仕込んだのか?」
風神はゆっくり起き上がり、立った。
「影神が生きている内は、陰の神に死はない。忘れたか?陽の神も光神さえ死ななければ死はない」
構え直す。
意地でも影神を守り生かせば、神は不滅であると。
「ふん。ならば、影神を殺せばいい話だ」
「あぁ、それが可能だと思うなら、そうすりゃいいんじゃない?」
影神は杯を投げ捨て、口を拭った。
うん、と伸びをしてから、ニタリと笑んだ。
忍の手から離れて、ユラりユラりと歩く。
「コタ、下がんな」
「だが、」
「下がれっつってんの。
「……才造。酔わせたのか」
忍は空になった酒瓶の口を下に向けて、頷く。
酒を全て飲めば、今の弱っている状況なら必ず酔える。
「殺したい。あんたを殺したくてたまんない。どうしようねぇ……?殺されてみる?」
「何処からくる。その自信は。死ぬのはお前だ」
「じゃぁ、道連れにして、あの世で始末するのも悪かない」
「雑魚が。口だけは達者だな」
「あは、本気でおいで。骨まで食べてあげるから」
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