第7話 問題

「ま、決まりだしね。見事条件を満たせられれば、こちとらの旦那さんが二人になるくらいだよ」

 サラリとそんな答えを出す。

 神からしたら、大したことじゃないっていうことか?

「なら、オレだけの嫁だと言ったら?」

「きっと、あんたがこちとらの旦那さんにぶっ殺されて終わりかな。新しい願いの方が優先されて当然だから、願いは叶うだろうけど、こちとらの旦那さんは不老不死だからきっとあんたが死ぬ」

 またこれも、サラリと答える

 とんでもない旦那を持ってやがる。

 嫁にするのは難易度が、えげつないということか。

 しかも、不老不死……。

「じゃぁ、オレの下につけと言ったら?」

「どっちが本心なわけ?まぁいいや。下につくとなれば、あんたがこちとらのあるじだ。それだけのこと。」

 即答する辺り、変わった返答は来ない。

 例外はないってことだ。

「条件はなんだ?」

「こちとらと舞いきること。最後まで舞えたなら叶えてあげる。もし、舞いきれなかったなら、神呼祭しんこさいじゃないんで遠慮なくあんたを影ごと喰う」

 簡単なことだと言った。

 簡単でも、誰一人として最後まで舞うことは出来なかったとされているんだ。

 いくら、その一人が舞いきれたんだとしても、難易度は上がると言っていた。

 きっと最中は陰陽師おんみょうじの力は無効化されるだろう。

「可能なら、旦那さんを呼んでお手本といくけどね。一旦見てから判断した方がいいんじゃない?死にたかないでしょ?」

 煙管きせるをバキンとその片手で砕いた。

 笑みと言葉とその行為は最早もはや脅しにもなる。

 失敗したら死ぬんだぞ、という脅しだ。

 無駄死にはしたくない。

「影神か?」

「おや、あんたはカラスさんじゃないの」

「用があってきた」

「まぁ、そうでしょうね。才造サイゾウまで連れてきて」

「二人でもう一度舞ってくれ」

「は?」

「舞いきれるのはこのしのびだけだと聞いた。ならば、そうするしかない」

「才造、お手本も兼ねて、どう?」

「難易度、上がると聞こえたが」

「忍にゃ余裕でしょうが」

「新たに願っていいのか?」

「何を願ってくれるの?」

「カラスに頼まれたことだ」

「じゃ、失敗したらそのカラスさんを喰うとして……何頼まれたわけ?」

「世界を変える」

 影神は黙った。

 難しい顔をして、空を見上げる。

 何か、思うことがあるのだろう。

「カラスさんさ、それってあんたの願いじゃないよね」

「あぁ。国王様だ。」

「その国王さんが何て?」

「世界各地で、問題が起こっている。戦争も大規模になってきた。このままいけば……」

「壊滅の危機かな」

「そうだ」

「絶望は好きだよ。なんてったって、人間が己の罪を悔やむに丁度いい状況だからね」

「つまり、協力はしない……と?」

「うん、しない。いいんじゃない?なんなら、逆に壊滅への道を整えてあげようか?」

 そのセリフは影神だという名がふさわしいかのように、恐ろしい。

「光神なら、協力しただろうに。残念だったね。こちとらは、陰のお仕事しか出来ないわけよ」

 ヒラヒラと手を振って、諦めな、と言った。

 そして、座ると頬杖をつく。

「才造はどう思って来たわけ?」

「いや、別に」

「あっはは、忍にしたらどーでもいいってね。」

「ワシからすれば、異世界なんざ興味無い」

「うんうん、じゃぁ、何も聞かずにきちゃったと?」

「まぁな。お前のところへ行くとだけ」

 いい加減な会話だ。

 命がかかってるっていうのに、どうでもいいなどと。

「安心しな。人類滅ぶ前にゃ光神は酔いを覚ますさ。ただ、立ち直れるかは知らない」

「さっきから黙って聞いてりゃなんだそれは!!死ぬんだぞ!?オレたちはそれを食い止めようと…」

「うるっさいなぁ。あんたらが余計なことしなけりゃ光神がどうにかしてたんだよ。影神に頼んだってしょうがない話じゃん」

 カラスはただ、黙って聞いている。

 しかし、それ以上はない。

「カラスもやっぱりどうでもいいのか!?なんで黙ってる!!」

「わかっているからだ。影神は陰、死に関わることに手を下す。生のことを頼むのは間違っている。」

「そうね。わかっててカラスさんは来てる。さて、それは何故?」

「光神が何者かによって無力化されたからだ。だから、影神しか頼りはない。」

「その何者かはここで文句を吠える…と。嫌なんだよねぇ、光神の仕事をするのは」

「可能なのか?」

「陽の神は光神だけじゃない。あれが陽の頂点だってだけで。全員集めればそれ相応の力は出せる。」

「なるほど」

「それが簡単じゃないってこった。全員を集めるなんて、陰の神にゃ出来ませーん。陽の神は陽の神が集めるモンだからさ」

「…だが、それしか手がない」

「そう。土下座でもして命乞いすれば集められそうだけどね。なにせ、陰じゃないから」

「陰じゃないだけマシ…か?」

「土下座程度じゃ誰も相手にしてくんないからね。陰陽師おんみょうじは行かない方がいいよ。なんてったって、光神を潰して信用失ってる粗大ゴミだからね」

 口が悪い神だ。

 これが陰の神の悪いところだろう。

 カラスとそう会話したあと、こっちを振り返る。

「可哀想だから、こちとらも出来ることはしてあげるけど…ね」

 小さい声でそう呟いたのを最後に、カラスも影神も、そしてその旦那も姿を消した。

 残ったのは、陰陽師おんみょうじと神酒だけだった。

「どうする?」

「……待つさ」

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