第6話 酔いも覚める

しゅうきややんなする?」(集まって何をやろうっての?)

「前の続きだ。これでどうだ」

 溜め息をついて、座る。

 相も変わらずその喋り方を持ってくる。

 どうせ直ぐにこっちに合わせるくせに。

 酒を出せば、素早く受け取って一口飲んだ。

 すると、ビクンッと身体を跳ねさせて目を見開いた。

 真っ直ぐ上、空を見上げて固まる。

 少ししてその酒を持った手を膝の上に下げて顔を伏せた。

嗚呼ああ……久しゅうこって……。一口が重い…」

 これはいけるんじゃないかと、今ので自信が出てきた。

 なにせ、陰陽師おんみょうじを集めて気を込めた。

 これで駄目ならあとは量で勝負だ。

「さて…いくつ飲めるかな」

 酒を眺めてそう呟き、もう一口とはまだいかない。

 効きすぎたのであれば希望は大きい。

 と、その瞬間一気に飲み干した。

 さっきのはなんだったのか、また同じように手を伸ばす。

 酒を次々と飲んで、もう数は30を超えたくらいか、ふと、手を止めた。

「あんたら、もしかしてこちとらが酔うとでも思ってる?」

「え」

「いや、酔いはするけどね。けど、あんたら陰陽師おんみょうじの前で酔うほど馬鹿じゃないっていうか、さ。だから、これ以上は遠慮するわ」

 名残惜しそうに手放す辺り、飲みたいっていう気持ちはあるようだ。

 それでも、目的がわかっている以上は、飲んで酔ってられないのだろう。

陰陽師おんみょうじが何故ダメだ?」

「そりゃ、こんだけ数居たら、怖いじゃないの。殺してしまいそうで…さ」

 陰りを見せた笑みでそう答える。

 どういうことだ。

 やはり、陰陽師おんみょうじのことを良くは思っていないから脅しをかけるのか。

「ま、酔わない自信はあるんだけどね。もしものことを考えると、飲むのはここまでにしとかないと」

「酔ったら殺しにかかるもんなのか?」

「さぁね。でも、陰の神は皆酔うと豹変するから。こちとらが今こーんな愛想良くしてたって酔えば狂い殺すさ。酔いにくい神ほど、危ういんだ」

 煙管きせるを手に取って、クルクルと弄んだ。

 酒を遠慮する代わりに吸うのだろう。

 どうやら神自身もそういう自覚や知識は持ってるものらしい。

「神は酒には酔わない代わりに、酒に混ざり込んだ気で酔う。この酒みたいにドギツイ気だったら、こちとらは酔わないにしても大抵の陰も負けるんじゃないの?」

「酔わない……!?」

「だから量で勝負する気だったんでしょうが、あんたらは。じゃなきゃそんな量を苦しくも用意しない」

 指差しながら、まだ大量に余っている酒を見やる。

 そりゃそうだ。

 それくらいはやっぱり見ればわかるレベルだろう。

「全部飲んだら酔うか?」

「あっはは、こちとらは影神だよ?陰の塊…いや、陰そのものだっていいくらいなのに?陰が気を呑み込むって知っててその自信かえ?」

 途端に可笑しいとでも言うようにケラケラと狐のようにわらった。

 知っている。

 陰の神は皆酔いにくいのも、気で神が酔うのも知っている。

 気を呑み込むのが陰だから、呑み込みきれない気で酔うと。

 陽は気を呑み込めないから酔いやすい。

 それくらいは陰陽師おんみょうじなら知っていて当然のはずだ。

「知ってるはずだよね。影神は陰の神の中の頂点に君臨してるっていうこと。この程度を飲み干して酔うなら世界の異常の知らせだよ」

「なら何故飲むのをやめる?」

「世界の異常だからだよ。今のこちとらじゃ、酔うだろう。一口目でそれくらいは測れる。まさか、あんたら…陽の神、光神を酔わせたな?」

 ギロリと睨み付けられて体が動かなくなる。

 息が苦しくなる

 なんだ……これは?

「光神を酔わせて手懐けようとした。違うか?そしてお次は調子に乗って影神だ。光神よか難易度が高いとも知らずに、さぁ?」

 立ち上がり、見下した目をする。

 殺される…!

 そう思ったが、動くことが出来ない。

「酔ってる間はいいだろう。光神がもし酔いを覚ましたら、陰陽が狂う。既に陽が弱まってる。神をどうこうするなんて、あんたらが手を出していい問題じゃない。さて、ここで問おう。陰陽を狂わせてまで、神を手懐けてまで、望むことは何?何を願う?」

 影神はパチンッと指を鳴らした。

 すると、オレだけが解かれる。

 そうだ、影神は陰性の願いを何でも叶えられるとか書物にもあった。

 陰性…といえば、死に関わるんじゃないか?

 陽性なら、生に関わるはずだ。

 陰と陽、つまり光神と影神は真逆なのだから。

「願いがあるなら、いっそ条件付きで叶えてあげるけど。このままあんたらに好き勝手やれちゃこの世界も終わりだわ。」

 呆れた声で大袈裟な溜め息と共にそう言った。

 条件がなんであれ、そうならそうしてもらうほうがいい。

「今のところ、こちとらに願いを叶えさせた奴はたった一人だけどね。覚悟はいるんじゃない?何せ、神呼祭しんこさいじゃないのにやるんだから、それなりに難易度も上がるんだからさ」

 一人……?

 話じゃまだ誰一人として叶えてもらった奴はいないと………。

「誰であろうと手加減しないよ。ちなみにその一人ってのはこちとらの旦那さん♡願いは勿論こちとらだったわぁ♡もぉ、ほんっとかっこいいことしてくれるよね!!」

 きゃっきゃっとはしゃぎながら、嬉しげに言う。

 待てよ…?

 そんな事が可能なのか?

 影神を嫁に貰うなんてこと、願われて叶えるのもどうなんだ?

「なら…もしオレが同じように影神を望んだらどうなる?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る