第3話 言葉の

 世界のバランスがズレたのか、違和感を感じる。

 こんなにも、陰と陽が釣り合わないことがあるか?

 陰が弱まったのは、おのれのせいか。

 なら、戻ってきた今何故陰が戻らない?

 祭どころじゃない。

 確かに、影が必要だ。

「やんなすは、あんたかえ?」(やったのは、あんたかい?)

「懐かしい口調だ」

「おや、しゃべきやんなすに。これきことじゃきや?」(おや、喋ってやるのに。これが合わないことは無いでしょ?)

「未だにそんな古めいた喋り方をする奴は見ない」

「そんくちきや、ぬ」(その口、知ってて、合わないねぇ)

「今、何と言った?」

「は、わかわかや。ガキにゃわからんか」

「あぁ、お前にとってはまだガキだろうな。普通に話せるなら、そうしてもらいたい」

「ワガママなこって。」

「神気取りはやめてもらおうか」

「神だもん。人間様は何を思ってやらかすかねぇ」

 傘をクルクルと回しながら、嫌な陽の気に目を細める。

 陽の気が強い辺り、陰陽師おんみょうじのクセにまた偏った事をしてきそうだ。

 神とはいえ、封印くらいされる。

 わざといつかの言葉を使って話してみれば、少々学でも得たか多少の理解は出来る。

 バカじゃないってことだ。

「神もヒトと同じだ。しのびもヒトだ。お前のことは調べさせて貰った。お前がここへ戻ってくるように仕掛けてみて正解だったな」

こわこわや。そんきて、なんやんなすかえ?われおのれや、そんきそちなんやんなすか」(怖い怖い。それを知って、何をするのかな?こちとらかあんたか、それは置いといてあんたは何をやるのか)

「何をするか、と聞いたか?お前は陰が最も強い神だと聞いた。お前を封印してしまえば、世界は変わる。違うか?」

「なして、そんそちのぞきや?」(なんで、それをあんたは望むの?)

「難しいな。仕方ない、式紙しきがみを使うか」

 どうやらこの言葉を使った会話は難しかったらしい。

 式を呼び出しやがった。

「もう一度言えるか?」

き。ぬ」(嫌だ。二度は言わない)

 呼び出された式はその主である陰陽師おんみょうじにこちとらの言葉を訳して伝える。

 あー…便利になったなぁ…この世界も。

「なして…そんそちのぞきや…?」(なんで…それをあんたは望むの…?)

 仕方がないからもう一度言ってやる。

 手間だけど、わざとでもこっちがいい。

「世界を変える為だ。陰が消えれば、明るくなるだろう?それに、死の訪れも鈍る。そうすれば、多くの人が幸せになる。」

「あぁ…そち、がくぬ?」(あぁ…あんた、学が足りてない?)

「何が可笑しい?」

「あのねぇ…お馬鹿さんにゃ仕方無いから教えてあげるけど、あんたがこちとらを封印したって陰は変わらないよ?ってか、今ので計れたわ。あんた程度じゃ、こちとらは封印出来ない。出直しな。まともに会話も出来ないんじゃ話にならんわ」

 早口で普通に喋ってやる。

 日が暮れようとも終わらない気がした。

「何故わかる!?変わらないだと?現に陰は弱まっているのにか?」

「陰が弱まってるのは確かさ。けど、直ぐにでも戻る。何処の陰を封印しても、陰そのものなこちとらにしたらまだ軽いわけよ。まだまだガキなあんたがどうこう出来るレベルじゃないっての。帰んな。それと、あんたの考えは幸せどころか凶を呼ぶ。陰に触れない方がいいよ。特に、あんたみたいに陽ばかりが強い人間はね」

 コイツじゃない。

 じゃぁ、なんだ?

 まだ、誰かが近くにいる。

 陽の気が苦しい。

や。」(嫌だ嫌だ)

 溜め息をついて、傘を飛ばした。

 ガシャリと音がして、また別の陰陽師おんみょうじが現れる。

 こっちが、それと見た。

「なんだ、バレてたか。流石、陰の神」

「そち、われふうすかえ?」(あんた、こちとらを封印するつもり?)

「いいや、そのつもりはない。ただ、学を得に来た」

ぬやいな、そちぬや」(足りないわけじゃない、あんた要らないでしょ)

「神酒飲んではくれないか?」

「そちしゅきや、あやき」(あんたの酒は、酔うかも、危うそう)

 とはいいつつ、興味はある。

 コイツがこちとらを酔わせるのが目的だなんて、気付いてないとでも思ってるわけじゃあるまいて。

 さて、お手並み拝見といきますか。

き。」(いいよ)

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