地獄の到来

地獄の到来。誰にも予想できなかったこと。

 やけに細かいことを覚えてる今、その事件をびっしりと記したい。


松山君が退院する日。私もそれを見届けたかったのだけど、あいにくの高熱で寝込んでいた。

 最後の日、彼に会えなかったのは辛いことだったけど以前に連絡先をもらっていたから......。

 その時は、また話せばいいか。向こうも元気だし、どうなるかは私の症状によって決まることだし。と思いながらもやっぱり寂しい感じがしたかな。難しい感情だった。


熱も出ているし何もできなかった私は、白い天井の黒い模様をじっと眺めながらこの前のこと考えていた。


このまえの夢。二度と目にしたくない光景、本当に起こりそうなことだった......。

 こんな熱もあり気分が悪い状態で思い出すのも悪かったなとも思った。



こんこんこんと風邪をひき、寝ている間にもう昼の12時。松山君はもう向こうへ行ってしまったのかな。

静かに窓を眺めながらそんなことを思っていると、私は少なめのご飯をひっそり食べた。


病室は、私だけになっていて誰も周りにはいない。改めて今思うと、悲しかった。



ご飯を食べた後、まだどこにも行けず熱を出していた私は、三人で話した「恋」について考えていた。

 誰のことを言っているのだろうか、その好きな人とは......。今の私みたいに彼の顔が熱くなっていたのを思い出す。

 学校で好きな子でもできたのだろうか。まだ出会って間もないのに。小雪ちゃんは知ってたりするのかな、その子のことを............。


松山君はとても明るい男の子、悩みなんかなくて、もしあったとしてもすぐに吹っ飛ばすような子だったのだろう。

 また、バスケ部に戻ってもみんなを率いて頑張ってほしいな。と自分で勝手に彼のことをまとめて、この中途半端な終わり方を少しでも変えようとした。最後ぐらいハッピーエンドにしたいのだ、私は。


その後、眠りすぎたせいか目をパッと開けて、小説を読むなりぼーっとするなりしていた。




日も傾いてくるころ。大体おやつの時間帯に、若い看護師さんが私のもとへ来た。

毎日見に来てくれ、過去の話から最近会ったことまで、いろんなことを喋る私に彼女はずっと耳を貸してくれた


その日話したことは無論、松山君のこと。

 彼が私に何か言っていたのかとか、気になることすべてを聞こうとした。


「松山君、今日退院ですよね。なにか言ってましたか?」

 

確か私はこう言った。

 

だが彼女は、頭を傾けたまま言葉を返したんだ。


「松山君?あの子は今日退院じゃないけど......」


訳がわからない。どういうことだ?


空白の時間が流れた。


今日退院って松山君言ってたのに、じゃああれは何だったんだ?


「聞いてなかったの?松山君はこの前の検査で......」


彼女が話そうとし始めたときに、もう一人の結構年のいった看護師が私たちのもとへ激しく走ってきた。

 さっきから廊下を走ってくる音は聞こえていたが、ここに来るとは思ってもみなかった。

 そして息がはあはあと荒くなったその人は、私に目を少し合した後、若い看護師に勢いよく話した。



「松山蒼太君が血だらけで倒れていて、今オペ室に運ばれているから、至急来て!!!」



彼に起こったことが理解できず、そのあと悪夢がすべて蘇り震えだしたのは、もう私以外誰もいない病室でのことだった。

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