呪縛なのだろうか

隠された言葉、もう戻ってくることのない人。


松山君の死んでいる姿に、目を疑いながらもそっとやさしく手をつないだ。状況を飲み込めない私がした、最初の行動だった。

そして間もなく、彼は運ばれていった......。そこにいた医師は、まるで大仏と言ったように、心を吸い取られている顔をしていた。悪魔の時間だった。あの瞬間はずっと忘れることはない。と。


恐怖心から、その場を逃げ出した。そして病室から出ると暗黒の霧が漂っていた。

それもまた苦しく、吐き気を催す、死んだ者が地獄へつながる入口のような。

私はそのとき、とりあえずここから逃げ出したいという焦りで、黒煙の中に走って行った。

煙の中を走り続けると、壁が見えてきた。何も見えない中で壁が見えたということに安堵して、より一層私は速く走った。

しかしそのゴールに油断したと同時に何か見えないものを踏み外してしまい、私は終わりのない底なし谷へ落ちてしまう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


すると、鳥の鳴き声が聞こえた。その声のおかげで、私は目を開けることができたのだ。


「え? どういうこと?」


先程の出来事は、遠い彼方へ行ってしまうような......。そして外は嘘みたいに光り輝いていた。窓を開けると、やさしいそよ風が私の体をそっと包んだ。


その風でもう一度眠くなりそうだったけど、よく考えると目が覚めて、すぐに松山君の部屋まで走った。

さっきとはそれぞれ違う......。例えば太陽の光が、大きな窓のおかげで廊下をずっと照らしてくれていたこと。

子供の笑顔であふれていたり、先生に感情があったこととかも。



考え事をしているうちに病室へ着き、ドアを思いっきり開いた。その病室には、松山君しか入院していないこと。それは変わりがないことだった。


「......」


「どういうこと......。」



そうやってすっかり、誰もいない病室に座り込んでしまった私。


すると、誰かがいきなりドアを開いてきて私に声をかけた。


「あ!おはよう。もう松山君は向こうにいるよ!」

小雪ちゃんの優しくて明るい声だった。


「え? 向こうってどこ? 本当に彼は死んでしまったの......。 」

絶望で言葉を失う私。 それを不思議そうに見る小雪ちゃんは私に寄り添ってくれた。


「どうしたの? もうすぐ松山君も退院だし、今日も一緒に喋りに行こうよ。」



小雪ちゃんに手を引っ張られ休憩室へ行くと、そこにはなんといつも明るくて笑っていた、松山君がいた。

その笑顔は、ある意味薄っぺらくて何かを隠しているような顔。普段はそんなことは思っていなかったが、今改めて彼を見るとなぜか知らないが、恐怖さえ感じた。


そしてその後に、安心がやって来たのだが、それとは比にならないほどの「無理をした笑いがお」が恐ろしくて、そして不思議で仕方がなかった。


あれは夢だったのか、それとも何か神様が、私にメッセージを残したのだろうか......。


そのすべてを知ることになるのは、彼がやっとの思いで退院する日だった。


そして、今までずっと思う。小雪ちゃんは......どこまで、知っていたの......?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る