第2話 もののけとの出会いは派手に?
なんじゃ! なんなのじゃ! このオナゴは! なんで次々と恐ろしい事を笑顔で言ってくるのじゃ。どう見ても全力で楽しんでおるのじゃ。こやつは妾を水責めにする気満開なのじゃ。
「ふっふっふー。動かない人形だからなー。どんな事をしてもいいよねー。他は何がいいかなー? 掃除機で汚れを吸い取ってみる? 洗濯機に放り込むかな……。あ、ダメだ。ネットに入れないと痛んじゃう」
『痛んじゃう』じゃないのじゃ! ちょっと待って欲しいのじゃ。何を言っておるのじゃこやつは? 掃除機で吸い取る? 洗濯機に放り込む?
こんな可愛らしい人形を虐待するとは! 鬼じゃ、鬼がここにおるのじゃ! こやつは本当にやばい。本物にやばい奴じゃ。恐ろしい顔で妾を追い込んできよる!
な、なんじゃ、今度は何なのじゃ。急に黙りこむでないぞ。急に無表情とかやめるのじゃ。本当に怖いのじゃ! なにを考えておる? 妾をベッドに運んで何を――何をする気なのじゃ!
なんとかせんと! 早くこやつから逃げる方法を考えんと。なにをされるか本当に分からん! こんな奴の側にいてられるか。
そうじゃ、逃げよう。
悩む必要なんぞなかったのじゃ。妾の妖力を使えば、握られているだけの拘束なんぞ簡単に抜けられるのじゃ。そして逆にこやつを拘束して水浸しにして、掃除機で吸い取ってやるのじゃ!
ふふん。驚くが良いわ。そして妾の力に仰天して驚いてビックリするがよいぞ!
「そこな者! 妾を誰だと思っておる! 100年生き、伏見稲荷大社に名を連ねる妖孤であるぞ。そちの今までの狼藉を許すわけなく、妾が直々に断じてくれる。己の極悪非道さを後悔するがよい!」
「わー。また喋ってくれた!」
ふん。その余裕に満ち溢れた腑抜け顔もここまでなのじゃ! このような時のために秘蔵しておった100円玉じゃ! 懐から取り出した100円玉に残っている肌のぬくもりを感じながら妾は真言を唱える。
「ダギニ・バザラ・ダトバン・ダキニ・アビラ・ウンケン・オン・キリカク・ソワカ!」
「え? 妖狐なのに真言? なんで?」
なにやら戸惑った声が聞こえるが気にせん。妾は思いっきり100円玉を投げつけてやった。妖力をまとった100円玉が淡い光を放って女に向かっていく。くっくっく。後悔しても遅いのじゃ! ん? なんじゃ? 100円玉の光が徐々に弱まっておるのか?
ペチ
なにやら、しょぼい音を立てて100円玉が女の額に張り付いたのが見えた。
え? なんで?
◇□◇□◇□
「……。えっと?」
「なんでじゃー! 妾の妖力が! みなから褒め称えられた妖力が! こやつには効かんというのかー」
愕然とした表情で叫んでいる人形ちゃんに、なぜか罪悪感が生まれた私。申し訳ない気分になってきたから謝った方がいいよね?
「ごめんね?」
「なんで疑問形なんじゃー。びぇぇぇぇぇぇ! なんで妾の妖力が効かんのじゃー。もう、やじゃ! こんなところなんてもう居られん! 妾はおうちに帰る! びぇぇぇぇぇぇん」
「や、それって密室の屋敷で2番目の被害者が殺害されるフラグじゃ――」
「うるさいのじゃー。うえぇぇぇぇん!」
誰が聞いてもフラグな発言に思わずツッコむ私だけど仕方ないよね? あんな台詞を言われたら誰でもツッコむよね? そんな事を考えていた私の耳に人形ちゃんの絶叫が続いていた。
「えぐぅ。えくぅぅぅ。ひっく、ひっく」
30分は経ったかな? 泣き続けていた人形ちゃんが、やっと落ち着いてくれたようだ。なにかよく分からないけど、まずは人形ちゃんに謝罪が必要だと思った私は恐る恐る話し掛けてみた。
「えっと……本当にごめんね。ジュースでも飲む?」
「にょゅむぅぅぅ。えぐえぐ」
私がジュースを飲むかと問い掛けると、人形ちゃんは目をこすりながら頷いて渡されたコップを受け取るとコクコクと飲み始めてくれた。
やだ。めちゃくちゃ可愛い。
はっ! そうじゃない。そうじゃないぞ、私。癒やされてる場合じゃないんだ。この目の前でジュースをのむ人形ちゃんが何者なのかを確認しないと。昨日からテンションがおかしいぞ、私よ。
「どう? このお菓子も食べる?」
「たべうぅぅ」
はぅ! なにこの子。可愛い過ぎる! お持ち帰りしたい! どうしてこんなに可愛いの? どうしたいの! この子は確実に私を
駄目だ、駄目だ。この子が何者かをしっかりと確認しないと。昨日から続くこの摩訶不思議現象を理解しないと、今日の夜は寝れそうにないよ。
人形ちゃんを鞄に詰め込んで持ち帰りそうなのを自制心を総動員して押さえ付ける。そして美味しそうにクッキーを頬張っている人形ちゃんに声を掛けてみた。
「ねえ。お名前を教えてくれる?」
「ん? 妾の名をか? その前にお主が何者かを名乗るのが筋じゃないかの? 人に名を尋ねる時は、自ら名乗ると学校で教わらんかったか?」
「ふん」との擬音が聞こえそうな感じで、人形ちゃんが鼻で笑ってきた。ちょっとイラッとしたから、半眼になって睨むと「ひっ!」との小さな悲鳴が上がる。いけない、いけない。脅してどうする。
「私の名前は
極力、優しい声色を意識しながら伝えると、オドオドした感じでこっちを見てた人形ちゃんが、気を取り直したのか胸を張って名乗ってくれた。
「まあ、よかろう。妾の名は
「妖狐ちゃん? 変わった名前だね。いいよ。一枚と言わずに何枚でもあげるよ」
私が手渡したクッキーを機嫌良く食べている妖狐ちゃんに私は癒やされつつ、次の質問を考え始めた。
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