エピローグ

 チャチャ=ジュネッタは泣いていた。湧き上がる民衆の前で泣いていた。


 寵愛していたエルフの若い男の首級くびは闘技場の地面の上に転がっていた。


 憎むべき赤褐色の肌の戦士は、喉に致命の一撃を喰らいながらも仁王立ちしていた。


 この武闘大会において、勝者は存在しなかった。


 チャチャ=ジュネッタは嗚咽する。失った後になって、今更ながらに気づいたのだ。


 彼女が嫌悪したシノジ=ザッシュ。しかし、それでも自分を唯一、愛してくれていた男。


 ミサキ=シャンテリティを寵愛したのは、彼に対する当てつけだったのだ。


 シノジ=ザッシュが、一言、『出来ない』と言ってくれれば良かったのだ。チャチャ=ジュネッタは、シノジ=ザッシュを屈服させたかっただけなのだ。


 チャチャ=ジュネッタは、あの日、捨てたのだ。自ら捨てたのだ。この世で唯一、自分を信じ、自分を愛してくれる男を捨てたのだ……。


 ああ、過ぎた時間が、もし巻き戻るのならば、シノジ=ザッシュが宮廷に招かれた日に戻してほしい。


 あの時の自分に『素直になれ』と言ってやりたい。


 チャチャ=ジュネッタは、ただただ、生まれたばかりの赤子のように泣きじゃくるのであった……。

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