第3話 昔日、あるいは思い出話
それからしばらく経ち、互いの家が近いとわかると、人懐こい性格の彼女は度々登下校を僕と一緒にするようになった。他に家の近い同級生でもいればまた違ったのかも知れないが。
僕はと言えば、あの頃は人見知りがちで今以上に内向的であったので、寄ってくる遥の事を少しだけ厄介な存在であるという気持ちが半分、もう半分はそれでも接してくれる優しさが嬉しいといったやや複雑な気持ちを抱いていた。
そんな僕も、遥の身長を追い抜こうかという頃にはある程度には社交性らしきものを身に付けて、それなりに振る舞えるようになっていた。
そんなある日の事だった。その日の僕は近所に住む兄貴分とその友達たちと一緒に学校から帰り、そのまま皆でTVゲームをするつもりでいた。そうして下校しようとしたら、遥が近づいてきて、直くん一緒に帰ろうよと言い出したのだ。
友達と帰るから、と言ったのにどうしても付いてこようとした遥が鬱陶しく感じて、どうしてそんなに付きまとうのか聞いたら、遥は笑顔でこう言ったのだ。
「だって直くんのこと好きなんだもん」
ガツンと頭を殴られたような気分になった。そして困惑のあまり、僕は走って逃げた。当時の自分は色恋などよくわからなかったし、好いた惚れたもよくわかっていなかったし、そうした感情が自分に向けられる事など夢にも思っていなかった。ただ、家に帰ってから、あの仕打ちはあんまりだったのではないか、と罪悪感のようなものを感じて、翌日になったらせめて逃げた事は謝ろう、とそう思っていた。そう。確か、そう思っていたのだ。
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