第13話 召還命令

彼らが、悠城想人の前に姿を現したのは、着ぐるみたちのパレードが終わり、フロアでふれあい会が行われて、子どもたちに交じって想人と天音月葉が彼らと少しの時間を過ごした後だった。

次の子どもたちに順番を譲り、自然とモールの中央フロアの外周へと移動していた二人の前に、彼らは現れた。

その数は10人ほど。

黒いスーツにネクタイ、黒い髪と……黒い面貌で顔の下半分を覆い隠した黒装束の男たちだった。

何より異常なのは、そんな異様の集団を、周囲の誰一人として気にも留めなかったことだ。

そして悠城想人もまた彼らの出現に驚くことはなかった。

だから、その出現に絶句したのは天音月葉一人だった。


「——意外ですね。ここまで邪魔をしなかったとは……」

皮肉めいた悠城想人の言い回しにも黒服たちは表情一つ変えない。変えたとしても、口元は見えないのだが。

むしろその冷ややかな言い回しに、自分の後ろに下げさせた月葉が唖然として後ろから見上げる目線を感じながら、想人は平然と黒服たちと対峙している。

彼にとっては全ては予測の内だ。

「——想人様、総代がお呼びです。ご支度を――」

師父せんせいには、すぐに行くとお伝えしてください」

淡々と事務的な言い回しの黒服に対し、想人もまた冷ややかに返す。

この会話も彼らにとっては形式的なもの以上ではない。

「いえ——総代からは、想人様をお連れするように言われています」

やはり、と想人は驚きもしない。

どこまでも、事態は彼の予測を出ることはない。

必要なら電話一つですぐに飛んでいけるものを、わざわざ人をやって呼びつけるのは他の人間へのパフォーマンスに過ぎない。

それが必要な場面だということだ。

「——わかりました」

目を閉じ、静かに想人は答える。

そのまま、後ろに控えていた天音月葉に視線を向ける。その仕草に、びくりと少女が身を震わせた。

悠城想人がどんなに優しく笑顔を浮かべていても、少女が怯えているのを止めることは出来ない。

――それをどうにかしようと思うことはなかった。

「すみません、月葉さん。急用が出来ました」

「あ……はい」

長身の青年が上から見下ろす視線を受け、月葉はかろうじてその言葉だけを返す。

その姿にすでに関心を示すことなく、想人は視線を巡らせた。

その先に、彼の監視役だった赤金達郎が立っている。すでに身を隠していたコーヒーショップの会計を各務党史に押し付け、悠城想人の声の届くところに来ている。

そういう役割だ。

「——赤金。彼女に説明を」

「……どこまで話せばいーのさ?」

「——わきまえているでしょう」

挑発めいた赤金の言葉に、どこまでも冷ややかに想人は返した。


まったく、と黒服を引き連れてその場を去っていく悠城想人の姿を見送り、赤金達郎は小さく吐き捨てる。

その姿に命じられ、連れ戻される立場を感じることはない。

悠城想人は悠然と立ち去っていく。

「なに、なになに、なんなのアレ?」

その後ろから、次々と少女たちの声がする。

天音月葉の様子を伺いに来た彼女の友人たちだ。隠れていた彼女たちも、この事態に姿を現していた。

彼女たちにも説明はしなければならないのか、と赤金は頭を抱えた。

「あなた、誰なんです?」

天音月葉に見据えられ、赤金は嘆息して頭をかく。

「あー、僕はあいつのお目付け役ってとこかな?」

「……おめつけやく?」

時代がかっているのは承知の上だ。つくづく、そう思う。

いつの間にか、赤金の前に天音月葉を筆頭に少女たちのグループが形成されている。

これが質問攻めされそうな状況でなければなかなか嬉しかったのだが。

「……まあ、あいつ、見ての通りのお坊ちゃんだからね」

嘘は言っていない。普段からの言動一つとっても、悠城想人がそうであることは明白だ。本人もそれを隠す気はなかった。

「厳しんだよ色々とね」

説明は簡潔に、核心は外して上手く誤魔化す。赤金達郎にとってこのようなやり取りはこれまでも何度もあった。

「まあ、まさか女の子とデートしただけで呼び出し食らうのは予想外だったんだけど」

そう、それだけが予想外の事態だったのだ。

その言葉に、天音月葉は小さく震え、彼女の友人たちがそれを支えた。

「これ、僕も怒られるパターンなんだよね。勝手に何させてんだ―ってさ」

そう言って笑う赤金はすでに少女たちを見ていない。彼にとっては何の関わりもない他人に過ぎない。

困惑する少女たちを他所に赤金達郎は、自身に課せられる罰則ペナルティを想像して、天を仰いだ。

そのやり取りを横から眺めていた阪本一騎と各務党史が、赤金の態度にため息を吐くのを、彼は無視した。

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