第6話 踏破
永森家を出た四人を待ち受けていたのは無数の蛇の群れだった。
結界を出た四人へ一斉に襲い掛かる蛇の群れに向けて、閃光が奔った。
光の軌跡が、宙を埋め尽くす。
それは、光速にも達する剣閃だ。
それも一度や二度ではない。一瞬にして数千の光速の軌跡が網のように空間を張り巡らし、周囲から迫りくる蛇の群れを吹き飛ばす。
だが、その剣閃は蛇に触れることはない。
あくまでその余波で吹き飛ばしたのだ。
「——
「……それ結構、無駄多くね?」
光速剣を放った
だが、その無駄こそが莫大なエネルギーの余波を生み出し、大型の大蛇を含むほぼすべての神使がはるか遠方まで吹き飛ばされている。
ほぼ、と言ったのは、死角があるからだ。
地面から、アスファルトで舗装された道路を突き破って人間ほどの白蛇の群れが姿を現した。
地面は、地下は人間にとっては死角となる。
蛇を害することでの祟りを警戒し、直接切断できない以上、想人の剣は、地中の蛇には無力だった。
もっとも、そんなことは想人にとっても予想の内だ。
「——真人」
小さくつぶやいた想人の声に、想人を囮に母娘を連れて蛇の群れの外周に移動していた愛居真人がその両手を地面につけた。
「
地につけた真人の両手が高速で振動し、大地を割り、さらに液状化させる。
皮肉にも、舗装道路を破壊したことで、逃げ場を失った蛇たちは液状化した土中に次々と飲み込まれていった。
「おにいちゃんたち、すごいね~」
「そーだろそーだろ」
二人の見せた力に無邪気に喜ぶ永森紗那に、愛居真人は朗らかに答えた。
その横で、悠城想人は周囲を睥睨する。
「これで少しは時間稼ぎになりましたか」
周辺の蛇の群れを一掃し、想人は一息つく。
遠方まで吹き飛ばされ、地面に溺れる蛇。
だが、一方で視界の彼方では、想人が最初に召喚した巨人が蛇に全身を蝕まれて倒れ、霊体を維持できなくなって消滅した
「——チャーチルが墜ちたか」
「まあ、反撃できないんじゃあれで限界だろ」
冷徹な想人の口ぶりに、真人は肩をすくめた。
「だいたいアレクはどうしたんだよ?」
「アレクサンダーなら、彼女のところに置いてきましたよ」
「……あれが手持ちで一番強えのに、勿体ねえ」
「——だから置いてきたんですよ」
責めるような真人の言葉に、憮然とした口ぶりで想人はその両手に新たな法術陣を出現させる。
「――ニコラ・ダヴー」
想人の召喚に応じ、大地から新たな巨人が出現する。全身を鋼鉄に包む、見上げるほど巨大な青く燃える巨人の姿に、少女の歓声が応えた。
「……前から聞きたかったんだけど、どんなネーミングセンスだよ」
「特に理由はないのですが――何となくです」
「ヒトラーとかもいたりして?」
「——呼びにくいからいません」
そんな理由、と横目で見る真人を他所に、想人は冷静に返した。
「——彼らの方は?」
「……言われた通り集めてる」
真人の言葉に、想人は小さく頷き、さらに次の法術陣を出現させた。
「――フォン・ブラウン」
次に出現したのは6メートルほどの巨大な鏡、その中に時計の針を映し出した手足の生えた鏡だった。
その鏡の中から次々と怪物が出現する。
巨大な甲虫、蜘蛛、怪鳥、蛇、鼠を始めとした人間を超える巨大な魔物たちが、鏡を通して現れたのだ。いや、鼠はそれでも40センチもないのだが。
「想人様――真人。命令を」
「……毎回思うんだけど、なんで僕より想人のほうが扱い上なんだよ。僕の眷属なのに」
怪物たちを代表して、人型の甲虫が指示を待ち構える姿に、真人がぼやく。
だが、想人を含む彼らはそのぼやきを無視した。
「——ここでダヴーとともに足止めを、すでにこの街に住民はいません。好きに暴れて構わない」
その言葉に、怪物たちが一斉に頷いた。
その間に、愛居真人が永森母娘を促して、永森家の正面からつながる参道の入口に立つ。
「ここを登って祭儀場まで一直線、か」
見上げる山の向こう側から漂う霊気に、三人は身を震わせた。
身を突くような寒気は、神の怒りを思わせる。
怪物たちへの指示を終えて合流した想人もまた参道を見上げ、そして永森母娘に視線を向けた。
「——怖くはありませんか?」
優しく問う想人の言葉に永森紗那が、そして娘に釣られるように母の永森紗枝が頷く。
「だいじょうぶ。へびさんにはやくごめんなさいしないとね!」
その言葉に、想人と真人の兄弟も頷き返し、顔を見合わせる。
「——ヘンリー・フォード」
想人の召喚に応じ、第四の霊体が出現する。
クラシックな車そのものに、左右に機械式の腕を複数生やしたいびつな自動車である。
それが、永森母娘を自ら腕を使ってその座席に乗せる。
「我々が道を切り開きます。しっかり掴まっていていてください」
その言葉に、娘のシートベルトを固定しながら、永森紗枝が慌てて頷く。
そうしている間にも、参道の左右の木々の間から人間ほどもある白蛇が次々に現れ、彼らの行く手を塞ごうとしていた。
「おにいちゃん、がんばって」
後ろから投げかけられた少女の無邪気な言葉に、二人は振り向くことなく、正面に向けて戦闘態勢を取った。
ここを突破すれば、神との対面が待っている。
その先にあるものを悠城想人はすでに見据えていた。
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