第9話 お化け集会に出ました!
お化け友な後輩、丸井力君と、その自称守護霊の罰さん。随分仲良くさせて頂いていますが、しかし彼らと仲良くなったのは、比較的最近のことだったりします。
きっかけは、入学式後、部活案内のビラ配りに圧されていた丸井君をちらと見て、その隣の罰さんを発見した際のことでした。
私は、罰さんの着物が負っているズタズタ斬り傷、即ち肌が見える数多のスリットを目撃し、その豊満と合わせて、なんとエロいのでしょう、と大声を出して称賛してしまったのですね。
ええ、途端に丸井君達にガン見されましたとも。いや、それどころか私の唐突な発言によってその場の殆どの人の視線が集まってしまいましたね。恥ずかしくなって、私が逃げたのは仕方がないことでしょう。
しかし、追いかけられ、私は彼らに早々に見つけられました。走って紛れたのに見つかったのは、何か丸井君がフーチ? とかいう道具を霊的な手段で強化したものを使ったからみたいです。何だかズルいですよね。追っかけっこには自信があったのですが。
まず、丸井君から、問われます。罰が見えているの、と。それに私は頷きました。幽霊が見えるのは本当ですからね。罰さんみたいに、高密度でちっとも幽々としていないまるで人間みたいな霊は初めて見ましたが。
そうすると、罰さんからは、霊力が欠片も見当たらないのに、どうして私が分かったのだ、と訊かれました。確かそれにも、私は正直に答えましたね。一緒だからですよ、と。
彼らは目を丸くしました。それもそうでしょうね。まさか、この世に未練を残してへばりついた残滓と等しい人間が居るなんて、考えたこともないでしょうし。
そこから知り合い、存外仲良くなって、それから私は幽霊を救う、丸井君の活動に参加するようになりました。
丸井君は川園高校に入るために、四月から一人暮らし、いや憑いているので二人ですかね。まあ先ごろから罰さんとアパートで過ごし始めていたようなのです。
土地勘のない彼らの行脚に付き合ったり、何かマニアックなボードゲームを一緒したりして、一時はアパートに夜な夜な入り浸りましたね。
あんまり長居するのでおかーさんおとーさんに怒られました。せめて、迷惑かけている相手の名前くらいは教えなさい、とのことでしたが、丸井君に請われたので秘密なのです。
そうして黙っていたら、おねーちゃんが、大丈夫、また男の子をたぶらかしているだけだから、と言葉を挟みました。それであわや喧嘩の家族会議は終わりましたが、何だかそれで納得されるのも微妙ですね。
それに、おねーちゃんはどうして丸井君を知っていたのでしょうか。気をつけて隠していたつもりなのですが、謎です。
まあ、そんなこんなで、今日も半ば黙認の丸井君達との夜の出歩きをしてるのですね。
現在、夜の十二時。中々の夜更かしですね。でも、丸井君と罰さんは、凛としています。可愛い顔立ちの少年が澄ましている様子も、なかなか良いものですね。
それにしても、睡眠時間が短くても平気な体質の私はともかく、丸井君は何時眠っているのでしょうか。これも気になりますね。
何時もは、悪そうな幽霊を丸井君がフーチで探し回るのに付き合うのが常です。しかし今回は明確な目的地があるのですね。
それは、藪の中の汚い廃屋。土地持ちのお婆さんに許可を貰って、今日もそこに入るのですよ。あの、廃屋は、私みたいなもののたまり場です。
そして、今日は特別な日でした。満月キラキラ、いい天気です。
「おばけ、おばけー♪」
『上機嫌だな』
「何しろ久しぶりの、お化け集会ですからね。丸井君に罰さんという知り合いも増えて、連れて行くのが楽しみです!」
「人間の僕が行っても、良いのですかね?」
「勿論ですよ、なにせ、主催は歴とした人間の私ですし!」
「僕、時々山田さんが人間と思えない時がありますけれど……」
『私は常々そう思っているぞ』
「酷いです! まあ、私は確かにヒトモドキですけど!」
「あはは……」
『自虐なのか本当のことを言っているだけなのか、判別がつかんな……』
「ばけばけー♪」
本当に、楽しみですね。私には、お化け系のお友達が結構居るのです。
大概が拳で分かりあった仲ですが、どうにも幽霊よりも都市伝説系の妖怪に偏っているような気がしますね。
まあ、幽霊は幽かで怨に偏り過ぎてお話がしにくいというところもあります。古からの妖怪さんはレアですし、何だか偏屈な上に強くて中々私一人では勝てないという現実が。
でも、何時か仲良くなりたいので、丸井君と罰さんに、助力を頼んでみるのもいいかもしれません。天狗さんに狸さん、首を洗って待っていて下さいね。
あれ、そういえば何だか戦って勝つことが目的となっています。血気盛んなところが出てしまいました。反省です。
にこにこしながらそんなことを考えている内に、目的地が随分と近くなりました。
冬場は大分大人しくなるのですが、誰も手入れをしないために、草ぼーぼーです。まあ、頻繁に行ったとしてもここに集まるのは月いちですからね。
それに、こんなもので痛むのは私くらいでしたから。もっとも、今は丸井君も居ます。ですので、注意をしておきましょうか。
「これから、藪を突っ切ります。気をつけてくださいねー」
「長袖長ズボンで来て、っていうのはこういう訳だったのですか……」
『私には何の問題もないが、これでは目的の場所とやらに居心地は期待できそうにないな』
「菊さんは、住めば都と言っていましたよ?」
『それは、これだけ界を歪めて恨みの場としていればなあ……』
「うっ……」
一歩、敷地内に入ったその時に、丸井君は顔を歪めました。私には、何やら辺りが恨みの感情で暗いなあ、といった程度ですが、霊力持ちでしかない一般人の彼には、結構な霊である菊さんの地は辛いのかもしれません。
私は、丸井君に声をかけます。
「大丈夫ですか?」
「……糸で、払いました。これなら、指に糸を結んでいる間は大丈夫です」
「無理そうになったら、言って下さいね?」
「こんなところに、山田さんを一人には出来ませんよ……」
『まあ、ヒトの居るべきところでは、ないな』
「そうでしょうか?」
丸井君は、白い糸を宙に廻した後、それを指に巻き付け、安堵します。彼は、霊力を通した糸を自在に使って、結界を操るのですね。それを使えば、先に行った百々目鬼っぽい何だか良く分からない幽霊の昇華も楽々でした。
今までそれは幽霊退治にしか使っていなかったのですが、緊急に使用するなんて、それほど菊さんは霊的な強さがあったのでしょうか。話、結構通じるのですがね。
この土地の持ち主であるお婆さん、戸口りささんも近くに住んでいるので平気なものかと思っていました。そういえば、幽霊は怖ろしいものでしたね。反省です。
そのまま私は丸井君の様子を見ながら進み、そうして崩れかけの門戸を叩きました。
「まあ、ちょっと顔を合わせるくらいはしましょうか。では、失礼しまーす。こんばんは!」
『こんばんは、星ちゃん』
「星!」
「いらっしゃい」
「あれれー。三人しかいませんね。……それになんと、ニホンカワウソのすぐらちゃんもいないではありませんか!」
ボロボロの中に居たのは、幽霊の菊さんに、高名な花子さんこと花子ちゃん。そして、私の宿命のライバル、口裂け女の三井さんです。いや、皆笑顔で出迎えてくれて、嬉しいですが、しかしどうにも何時もと比べて数が足りない。
それに、可愛い可愛いすぐらちゃんがいません。ああ、私の癒やし枠が。仕方ないので、もう一人の癒やしてくれる存在をナデナデです。
「あの、どうして僕を撫でるんですか?」
「すぐらちゃんの代わりです!」
『この女、私の力を畜獣代わりにしているな……』
ツヤツヤの髪を撫でていると、ほっこりしますね。それを微妙な恨み目で見つめてくる罰さんがその場に登場したその時、異口同音に近い評がなされ出しました。
驚きにおかっぱ頭を弾ませた花子ちゃんから、その口火を切ります。
「エロい!」
「エロいわ」
『痴女?』
『……なるほど確かに、星の仲間のようだな』
罰さんは、その表情を、怒りに歪めました。何時もクールなので、珍しいです。
いや、でも仕方ないと思うのですよ。だって、肌を見せつけ過ぎですし、その出たところが出っ張りすぎている。局部を隠していればいいってものではないと思うのですよ。
前にそれとなく注意したら、これは変えられないとの返答が。なんだか、可哀想ですね。
『星、貴様私を哀れんでいるな?』
「だって、罰さん、その無残服ばかりしか着れないというのは、残念でして……」
『無残というな! ふん、私は恥ずかしくないから良いのだ』
「……僕はちょっと、恥ずかしいけれどね」
『力!』
丸井君からの、衝撃のカミングアウト。罰さんもびっくり、ちょっと涙目になってしまいました。
これはいけない。このままでは、長年の仲に亀裂が走ってしまいそうです。話の方向転換をしましょう。
「それにしても、本当は何時もあと三人は居るのですが……ターボなお婆ちゃんは、また腰を痛めたのだとしても、すぐらちゃんに高子さん、そして赤マントはどこに行ったのでしょう?」
「よっと。みんな気ままだからねー。まあ、すぐらが居ないのは、間違いなくその子のせいかな」
「相変わらず、遠慮ない抱きつきっぷりですねー、花子ちゃん。それで、その子とは、誰ですか? 丸井君?」
「そんなの、そこの痴女さんに決まっているじゃない」
『罰、さんでいいのかしら。彼女ちょっと、力が強すぎて、アヤカシ半分な動物くらいじゃ、それはもう逃げちゃうよ。私の土地も、立ち入られただけでズタズタよ? 後で直すのが大変そう』
「はぁ。罰さん、そんなに強いのですかー」
私はスキンシップを取ってくる花子ちゃんを抱きしめ返しながら、三井さんと菊さんの話に多少驚きを感じながらも、また納得を覚えもします。
幽霊が、実体に近くなればなるほど強力になるのであれば、もはや罰さんの存在密度は究極に近い。どれほどの未練が形を作っているのか。
内実が気にならない、といえば嘘になります。しかし、教えてはくれないでしょうね。それに、罰さんは、鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまいました。
仕方なしに、手近の花子ちゃんに聞きたいことを訊いてみます。
「最近、どうですか?」
「お友達、増えたから寂しくないよ。赤マントがちょっとウザいなあ」
「あいつ、ストーカーを越えた粘着さんですからね。あいつがまた何かやらかしたら、言うのですよ?」
怪人赤マント。本名も正体もどうでもよく思えてしまうくらいの悪人ですが、まあ、花子ちゃんに迷惑をかけることかけること。昔のことですが、あの時私が止めなければ、花子ちゃん、追い詰められて何をやっていたか分かりません。
酷いやつですよ、本当に。
それにしても、花子ちゃんって、トイレの芳香剤の匂いがするのですよね。なんだか、抱きしめ続けていると、おトイレに行きたくなってしまいます。
ぶるりと尿意を断ち切ってから、私は宣言しました。
「また、あいつをシメてやりますから!」
『赤マントに対して、強気に出れる人間って、星ちゃんくらいだよね。あ、その子も意外といけるかな?』
「はぁ……」
『力は私の秘蔵っ子だからな。それはそこらへんの怪人なんか目ではないだろう』
「アレを私らと同じ怪人として欲しくはないんだけれどねー」
「あれは確かにやばいです!」
三井さんが言ったことに、私は同意します。色々と霊や何やら見てきたのですが、赤マントは特別にグロいのですよね。
害悪さもとんでもありませんし、出来るならば丸井君に退治して欲しかったところです。
まあ、同族嫌悪というのもあるでしょうか。アイツも私も、命にしがみついているから、見苦しい。三井さんが隠している口元なんかより、よっぽど醜いのです。
『やばいと言えば、ここから中々帰ろうとしなかった星を連れ戻しに来たお姉さんもやばかったわね』
「赤マント、姿を見るなり逃げたものね。お姉さんの方は、隠れた私達を見ることが出来なかったみたいだけれど……」
「私もなんでか、勝てる気はしなかったわ。星だって餌食に見えるのに……」
「ふふー。おねーちゃんは最強ですから!」
『こいつ、姉も人間らしくないのか……』
「おねーちゃんはすっごいだけの、人間ですよ?」
「一度、会ってみたいですね。……美人のモデルさんらしいですし」
『力も、余計な色欲がなければなあ……』
何だか、おねーちゃんの話になって、嬉しいですね。私は鼻高々です。
おねーちゃんは、自分を【どこにでも居る女の子】と自称していますが、絶対に違うと思うのですよ。きっと何やら特別なのです。それが何かは分からないのですがね。
なんだか本人も乗り気のようですし、丸井君とおねーちゃん、何時か会わせてみたいです。多分、癒やしパワーが大変なことになるのですよ。そこに、すぐらちゃんが居合わせたら、とんでもないですね。
『あ、すぐらが通ったわ』
「え、菊さん、どこですか?」
「おっきな穴の先ー」
「こっちですね、えいっ!」
「星、ジャージが脱げて、パンツ見えてるわよ!」
「うー、穴の端に引っかかっちゃいました。それに、このジャージ緩いですー」
「白、か……」
『力……』
そんなことを考えていると、すぐらちゃんの目撃情報が流れました。それに飛びつき、私はぼろ小屋の外へと通じる穴に突貫。
その際に、ちょっと引っかかってパンツぺろんとなってしまいましたが、どうでも良いですね。純な丸井君は、気にしないでしょう。目を逸らしてくれたかもしれません。
さて、すぐらちゃんの大捜索、開始です!
そうして、バカな私はなんと丸井君を放置して、絶滅種探しに邁進。ホラースポットに後輩を置き忘れてしまったのに気付いたのは、十分は経ってからでした。
罰さんという保護者が居たとはいえ、知らないお化けだらけでちょっと怖かったかな、と思い泥を落としながら帰ると、何故かその場に赤マントが増えています。
酷いこれを見てはいけないと、私は丸井君を背中にかばいました。すると、アイツは笑顔のようになってから消えていきます。ぐちゃり、どぼんと。本当に気持ち悪い存在ですね。
「気をつけなヨ?」
しかし、赤マントの最後の忠告の意味は、何だったのでしょうか。よく分かりませんね。
まあ、そんなの何時もしていることと割り切りましょう。振り返り、苦笑いをしていた丸井君を笑顔で撫でてあげてから、彼女らと手をふりふり別れます。
そうして私は何時も通りに、暗い暗い帰路につくのです。
今日も私は、お化けに何一つも、怖さを覚えることもありませんでした。
これは、間違っているのでしょうか。きっと何時かは、思い知るのでしょうね。
でも、私は彼らにも優しくしていたいと、そう思ってしまうのですよ。
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