第3話 新展開です!
私にとって、いい人とは、心から人に優しく寄り添うことが出来る人です。
最初は、それは出来ないだろうと思いました。でも、懸命に皆を想い続けている間に、何となく人のことが大切になって、故に優しくしたいと考えられるようになったのです。
私は人が困っていたら助けに向かいますし、目の前の不良を慮ってみたりもしますね。気づけば他の心配してばかりです。
少しはいい人になれているのではないかな、って思ったりしていますが、果たしてどうなのでしょう。
変わりますが、いい人とはことを荒立てることのない人のことでもありますよね。いい人はどうでもいい人でもある、とはどこかで聴いたことのある言葉です。
まあ、私はそれでもいいと思いますよ。ただ、後悔したくなくていい人を目指しているだけですし。もっとも人の子ですから、良くした後に良いものが返ってきたらとても嬉しいですが。
話が逸れましたね。つまるところ、いい人、とは別に人に好かれるばかりの人ではなかった筈なのです。
それなのに、好意の返報性が思っていたよりも大きい。世界が違うためか、それとも私が私のためなのか。結構、好まれてしまうのですよ。
それを拗らせて告白やそれもどきをしてくる人も結構居ました。中には、変わった人も紛れていましたね。
ストーカーなんて、まだ普通。同性に迫られたこともあります。俺たちは前世で恋人同士だった、とか言われても、いや前は私、男でしたよ?
三越君の恋情も、そんな面白い思い出の中の一つになりそうです。何時か、彼も私から離れていくのでしょう。私は私を差し出せませんからね。
報いなんて期待していないだけに嬉しい誤算、とはいえますが、少々居心地悪くもあります。ホント、何なのでしょうね、このセカイ。
学校は、楽しいです。
勉強はそれなりに楽しめていますし、運動は前世から大好きでした。多くの人と、共にあることが出来るのも、良いですね。
学生たちの、奔放。私には若さが輝いてみます。少し、年を取りすぎたのでしょうか。それなりに彼らに構われて、くすぐったい思いを楽しみながら、しかし私は離れてお昼をとります。
校庭の端にて、ぽつんと独り。どうにも、私と違ってアイツは人が多いのを嫌がるのですよね。孤独を好むには、早すぎると思うのですが。後で、適当な友達を紹介してみましょうかね。
そうこう考えている内に彼が来ましたので、私は先に挨拶をします。ご飯を食べる前に、昨日のもやもやは消化していたので、何気に準備は万端でした。
「こんにちは、奏台」
「ちわ。ったく、星。何だかまた面倒なのに絡まれたんだって? ご愁傷様」
「ん? 面倒なのって誰です?」
面倒といえば、それは多くが当てはまってしまうもの。よく分からず、私は首を傾げます。
「三越の取り巻きの三バカだ」
「彼女たちのことでしょうか。奏台、そう呼ぶのは止めなさい。実際、大一さん達は別にバカではありませんでしたよ。少し、自由なばかりです」
「星は本気でそう言ってっから、どうしようもねえな……」
「そうですか?」
私は次に、首を左にこてり。何しろ、バカは悪い言葉です。余程酷くなければ、そう呼称したくないと思うくらいには。
そういえば、私の中ではどれくらい抜けていればバカになるのでしょうか。私自身のことはバカだと思いますが、他の人に当てはめようとすると、ちょっと判りませんね。
首を捻る私に反して訳知り顔で頷きながら、奏台は靴を脱いで勝手にランチマットに侵入してきました。なんだかムカつきますね。私の隣にどかりと座り込んで、彼は菓子パンを齧り始めました。
「ん。終わってんだよ、星は」
「酷い言葉ですね……私はまだ人生始まったばかりの、ピチピチの十七歳ですよ?」
「本当にそうだってのに、選ぶ言葉に若さがねえな……いやまあ、そういうことじゃなくてな」
「もぐもぐ。どういうことです?」
私は目を細めて、もそもそと水気を摂らずにパンを頂く奏台の姿を眺めます。相変わらず悪い目つきです。隠しているだけで、とってもいい子なのですけれどね。
それにしても、終わっている、とは酷い言い草です。私は終わって、始まって、これからだというのに。
お弁当箱に箸をつけながら、ぷんぷんしている私に、しかし奏台は言います。
「決めるのは、ずっと前に終わってんだろ? 星はどうしようもなく、変わんねえんだよな」
「む。変わらない良さ、というのもありますよ?」
「星の場合は変わらないバカ、だ」
「むむむー!」
自認しているバカさを、私は否定は出来ません。だから、私はくぐもった声を発するばかりです。図星はちょっと、痛かったのですね。
素知らぬ顔して、ペットボトルのお茶を飲み込んでいる奏台への怒りを解消するために、私はご飯を掻き込みます。すると、急に苦しくなりました。私は慌てて喉元を、押さえます。
「むぐぐ……」
「喉を詰まらせたか。ドカドカ食うからだ……あ」
「ごくごく……ぷはぁ! あ、危なかったです。お茶、助かりました!」
危うくまた、亡くなるところでした。酸欠で二の舞なんて、いけません。三途の川の先に、前の自分の姿が見えて、焦りましたよ。
「あー……」
「ふぅ。どうしました?」
「なんでもねえ。それ、やるよ」
「はい。遠慮なく、頂きますね」
一息ついていると、私とペットボトルの間で目を彷徨わせてから、奏台はそっぽを向きました。取られたのが嫌だったのですかね。それにしては、妙な態度ですが。
おかしな奏台です。
ええ、確かに奏台はおかしい。彼は、どうしてだか不思議な力を持っているのです。それを、彼が頬の赤みを瞬時に覚まさせて、強張った顔付きになったことで、思い出しました。
奏台は、言います。
「おい、来るぞ」
「こんな真っ昼間から、
そして、私も察しました。始まるは、予兆。私達の周囲の光はどんどんと消えていきます。
昼に滲み出る、闇の世界。入り得る奏台と違い、私が関わることの出来る筈のない余所の世界から、悪意が顕になってきます。
そして、足元、濃い影の闇から突端が。私は奏台の瞳の中に、鋭いそれを見つけました。それは彼の目の中の一人の少女へと吸い込まれるように差し出されていきます。つまり、それは私に向いたものであるということですね。
「どうにも、ワンパターンですねえ」
しかし、死角狙いの攻撃を識っていた私は、振り向きざまにそれを軽々と払います。咄嗟に奏台が纏わせてくれた暗闇の小手を持ってして、ですね。
そして、私を殺傷しようとした悪意の小人を、奏台は影から引きずり出して、掴み上げました。彼か彼女か不明な、奏台曰く闇人は、叫びます。
「ピー!」
「相変わらず、可愛いですー」
思わず、私はそう口にせざるを得ませんでした。黒い、小さな槍を持った小人のようなもの。キャラクターチックな、生き物らしさの必要最低限ばかりが目立つ丸っこい生き物。それが、私達の命を狙った存在でした。
「こんなの、持ってるのは危ないですよ」
「ピ!」
「よしよしですー」
「ピー……」
振り回す槍を怪力でぽっきりと折ってから、私は闇人をなでなでします。そして、ハグに頬ずりを楽しみました。
あれ、優しくしているはずなのですがちょっと怯えてますね。心外です。
そんな私達の様をどう思ったのか、奏台は、闇人を私から取り上げました。
「こっちの世界だと弱体化するってのに、懲りねえな、お前も」
「ピ、ピー!」
「闇人さん、仲良くしましょうよ」
「ピ!」
「無理だとさ」
「そんなー」
闇人は私達の殺傷を目論んでいるようですが、実際のところ、あまり力はないのですね。あの攻撃も、おっぱいの弾力で防御できるくらいです。前に出来たので、確かですよ。
そんなひ弱な闇人と私は友好を結びたいと思っているのですが、どうにも上手くいきません。奏台が言っていた創造主の命令とやらのせいでしょうか。会ったことがないのでどんな方か判りませんが、闇人を使って奏台を殺そうなんて、困りますね。
「てい」
「ピィ!」
「デコピン! あ、闇人、逃げちゃいました!」
そうこう思っている内に、闇人は弾かれ、奏台の影に落ち込み、闇にとぷりと沈み込みます。そしてそのまま逃走。痛かったでしょうし、これは、当分出てきませんね。今回も仲良くなれず、残念でした。まあ、これも何時ものことですが。
途端に陽光戻った中で、ふんぞり返りながら、奏台は口走ります。
「俺の女に手を出すな、っての」
「もう、違いますよー」
「……ったく」
承諾なしに、勝手にモノにしようなんて、困りますね。闇人が聞いて、勘違いしていたらどうしましょう。
残念無念に一息吐いた、その時に、私達以外の声が響きます。
「何? 貴方達、何を捕まえていたの? 何だか、雲の加減か薄暗くてよく見えなかったけれど……」
それは、少女のもの。学年色から伺うに一つ上らしき彼女は、闇人と私達の交流を目撃していたようです。彼女は驚きに、ポニーテールを揺らし、その大きな瞳を瞬かせました。
「あ、見られてましたか」
「待ってろ、直ぐに……」
奏台は彼女に向けて、その手をかざします。能力を使うようですね。勿論、悪意を持って力を働かせるわけではありません。彼はずっと己の力を隠してきましたが、別に、今回のことだって見られても構わないのです。
何しろ奏台は、目撃者の記憶やカメラの記録ですら闇で覆い隠して忘れさせることが出来ますから。そうして、今まで彼は自分の力を私以外から隠してきたのですね。
私は悪用でなければと、それを黙認します。異常が広まっていくのは良し悪しですし、闇人は可愛いですけれど、何だかんだ悪意で動いていますから、無闇に関わらせることはないと思うのですよ。
けれども、私の思惑は外れていきました。
「どうしたの? あ。君、生命線、長いねー」
「あれ、まだですか?」
「とっくにやってるよ……でもコイツの記憶に認識、隠せねえ」
「本当に、何なのかな。それに、私はコイツじゃないよ。
「新展開です……」
何時もの私達だけの世界に、闖入者が一人。小柄で愛らしい先輩は、胸を反らして大人ぶりました。
これは、どうにも困ったことになりましたね。奏台と初めて手を繋いだあの時のように、また、何かが変わっていくのでしょうか。
私は思わず、予感に胸をドキドキさせてしまいました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます