⑦ 銃と金棒

 五十口径からド級の弾丸が放たれる。暴力的な衝撃を金棒の真芯で捉えると、その瞬間体ごと吹き飛びそうになった。マジで洒落になんねぇ威力だが、力試しはアタシの土俵だ。


「ウオラァァァァァァァァッ!」


 全力で踏ん張って踏ん張って踏ん張ると、弾丸がフッと推進力を落したのでここぞとばかりに打ち返す――撃ち返す。弾丸は真っ直ぐに百八十度、元来た場所をとんぼ返りで飛翔する。半身で弾丸を避けつつ、ヒュッと口笛を鳴らすとっつぁん。


「危ねぇな! 初手からピッチャー返しかよ!」


「はっ! 次はテメェの頭を場外ホームランと洒落込むぜ!」


 五十口径ニューナンブ・リボルバー改は、絶無の威力と引き換えにすさまじい反動を使用者に跳ね返す。いくら冷静を装っているとはいえ、とっつぁんの手はしばらく言うことを聞かないはずだ。それが五十口径というものだ。


 とっつぁんのドテッ腹に肉薄して一撃キメてやろうと、大上段に大金棒【ブチ殺し】を振り上げる。


「そう焦るな。あんまり大人を舐めちゃいけねぇよ」


 とっつぁんの左手には、別の拳銃が握られていた。それもまた、五十口径クラスの馬鹿デカい銃身を誇る巨銃だった。


 轟音が響くよりほんの一瞬早く、弾丸が頬を掠めた。次の瞬間、パッと血が噴き出して、服の肩辺りが鮮やかな赤色に染まった。


「ヘイヘイヘイ……冗談だろ? まさかとっつぁん」

「そのまさか。俺ぁ両拳銃スイッチャー だ――それも超が付くほどド級のな!」


 とっつぁんはドカンドカンと両手から、大砲みたいな馬鹿げた銃弾を放つ。咄嗟に大金棒を盾にして、どうにか受け止めるものの、一撃の重さが尋常じゃない。支えるだけで精一杯だ。


「冗談キツイぜ! 五十口径なんて馬鹿げた銃で、どうして反動を喰らわねぇ!」


「言ったろ? 俺の正義は生半可じゃねぇってな! この程度の反動、屁でもねぇわ!」


 要するに気合いかよ。昭和の人間かテメェは。

 なんて、言っている場合じゃない。


「っと、足元がお留守だぜ!」


 しまった、と思う頃にはもう遅い。狙いすました銃弾の一発が、大金棒をすり抜け、直後バチッという何かの弾け飛ぶ音がした。


 見れば、かつて右足首があった箇所が血だまりになっていた。その瞬間、すっと頭の奥が冷える感覚に襲われる。


 あ、終わったなこれは、と。


「……いや、アレを足首一つで済ませたかい。恐ろしい反射神経だ。獣の並の直感と言ってもいい。若いのに対したもんだ」


 のんびりした口調で言いながら、とっつぁんは地べたを這いつくばるアタシにド級の銃口を向けた。


「二発目で仕留めるつもりだったんだがな。残念ながら、弾はもう一発分しか残ってねぇが――それで充分ってことくらい分かるだろ?」


「ぐぅぅぅぅぅっ、うう……」


 アドレナリンが過剰分泌しているせいか、痛みは感じない。だが、体が言うことを聞かない。血が流れ過ぎているんだ。


 歯を食いしばりながら、活路を探した。だが、何も見当たらなかった。考えろ、考えろ、考えろ――そう思うたびに、死神の笑い声が近づいてくる。



 サヨナラだけが青春さ、と誰が言ったような気がした。

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