第5話 乗るしかねえ
状況を整理しよう。
ネットで性別を偽って活動してたらオフ会することになった。
なので不思議なランプの力で女性になってオフ会に行ったら、遊んだ相手の女性とラブホに行くことになったゾイ☆
…………いや、なんだこれ。
とりあえずシャワーは浴び終えた。
いやなんだこれ。
でもって今はバスローブを着ている俺である。
いよいよなんでだよこれ。
どうも頭が混乱しているようだった。いや確かに俺は非モテ非リアな根暗オタクだけどここがラブホテルっていうのはおかしくないですか⁉
……どうも混乱しているみたいである。
たった今、ふうかさんはシャワーを浴び終えて髪を乾かしているところだった。俺はやけに広いベッドの上に、ぽつりと内股に座って、手を脚の間に入れて所在なげに待つばかり。
少しして、ドライヤーの音が止まる。その音が止まるのを合図に、俺の緊張は最高潮に達した。
「……お待たせ」
そう言って現れたふうかさんは、ほんのり頬が紅潮していた。それはシャワーの温水のためか。
それとも。
ふうかさんは俺の隣にやってくる。顔が近い。でもって顔がすごい整っている。
ふうかさんの髪が揺れると、芳しい花のような香りが漂ってくる。その香りは、俺の思考を酔わせるのには十分だった。
どうしてこんなことになったのだろうか。いや後悔とかじゃなくて純粋な疑問というか。
ちなみに、この状況をどう思っているかと脳内インタビューを取ったところ。
ガッツポーズをしながら、最高です! という回答が返ってきた。
そうなのです。最高です。
美少女になって美人なお姉さんとなんかこう……キマシ……的なことをするのは……いいですね……いい……。
これはもう、こういう流れなのだろう。その流れの内容が具体的には思いつかないけれど、まあそういう流れだ。
少年ジャンプじゃなくて、ヤングジャンプやビジネスジャンプ的な、あるいはヤングアニマル的な。
これはそんな流れである。
俺はもう考えることをやめて、この状況を享受し、この流れに乗りに乗ることにした。
乗るしかねえ、一夜限りのこのビッグウェーブに。
「……えっと、ここで何を」
とはいえ、少し不安なのでつい尋ねてしまう。俺の問いを聞いたふうかさんは、にっこりと笑みを浮かべた。
「大丈夫。一緒に映画を見るだけだから」
なんてことを言うふうかさん。俺はたぶん嘘だと思った。その一方で、俺が想像しているような流れでも良いな、と内心思っているのであった。
「……とりあえず、ベッド行こっか」
「……は、はい」
言われるがままに従う。
俺はこのままどこまで行くのだろうか。童○より先に処○を先に失うことになるのだろうか。
ふうかさんはベッドに腰掛け、自分のすぐ隣の場所を、手でぽんぽんと叩く。
「おいで」
優しい声色が俺の耳をくすぐる。俺は言うとおりにして、ふうかさんの隣に座った。
俺もふうかさんもバスローブ姿である。その下には、下着を着けているだけだった。
「えっと、その……」
「大丈夫。私がリードするから。……服、脱ごっか」
ふうかさんがバスローブを脱ぐ。その下には、まるで無駄な肉が一切ない、流水に磨かれた氷の如く滑らかな四肢。
俺もふうかさんのようにする。二人して、バスローブを適当な場所に置く。
ふうかさんが俺の腰に片手を回し、空いた手で俺の頬を撫でる。ふうかさんはそのまま目を閉じて、ゆっくりと俺に顔を近づける。
キス。そんな単語が頭の中に浮かぶ。ああそうか、俺は今からこの人とキスをするのだ。
美人だなあ、と目を閉じたふうかさんを見て思う。まあ、今の俺は美少女の姿なわけだけれど。
この姿でずっといるわけにもいかない。たぶん、今回でふうかさんとリアルで出会うのも終わりだろう。
そう思うと、行けるとこまで行ってやれ、と思えた。
俺も顔を近づける。互いの吐息が肌に感じられるような距離。
俺も目を閉じ、顔を近づける。
そして。
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