第19話 ダイヤ編 女子高生、バトル!バトル!バトル!
「ヒカリ、まずは銃を構えろ!標的に照準を合わせれば、攻撃開始だ! 」
銃のような剣を持った男が、ヒカリに指導し始めた。誰だか分らないが、とりあえずバトルのやり方を教えてくれるらしい男性。
ヒカリは言われた通り、銃を構える。すると自然と照準が定まる。自動で照準が合うらしい。やはり乙女ゲームの戦闘だ、それほど技術は必要なさそうだ。
そしてヒカリは銃を何度か相手に向かって撃った。しかし、相手は素早くかわしてしまう。そして相手のターンがきて、攻撃をヒカリにしてくる。相手は銃ではなく、大きな剣を持っていた。剣は光りの剣のようなもので、レーザーのようにヒカリに閃光が伸びてきた。
「これ、反則な武器! 」
近距離戦に使え、遠距離の攻撃にも応用できる武器。こんな武器はチートである。
あっという間にヒカリのライフは減っていき、倒れてしまう。強制的に負けるチュートリアルなようだった。バトルが終わると、ヒカリは地面に足をついた。
「ハハハ!まだまだだな、ヒカリは。まだ一人前とはいかないな」
「こんな武器に勝てるわけない! 」
ヒカリは息を乱してはいたものの、チュートリアルであったのでケガは特になかった。
男性をみると、今までは好感度の表示はなかったが、頭上に好感度の数値が見えてきた。彼も攻略対象のようだ。好感度は普通。好感度の横に名前が表示されていた。
彼の名前は、ソード。確かに剣を持っているから、ソード。わかりやすい。そうして少しばかり談笑してから、戦い方を指南してもらう。どうやら話では、ヒカリの兄弟子であるソード。暗殺家業をしている組織では、ナンバー2の地位があるようだ。小さなころから一緒に戦いを学んだ仲間であり、家族。乙女ゲームでもよくあるパターンの兄属性である。
「ヒカリ、俺はこれから仕事がある。お前は、偵察でいくつかの場所をまわってほしい。これが行く場所のメモだ」
メモを受け取ると、3つの偵察場所が書いてあった。偵察という名目であるが、序盤にいろんな場所を一通りまわって、フィールドに慣れておけ!というゲームからのご指導でもあるのだろう。ヒカリはソードと別れ、建物から一番近い貧民街に行くことになった。
******
「ちょっと!なんでいきなり抗争しているのよ! 」
「仕方ないヤン、貧民街だから危ないヤン! 」
貧民街を選んだのは近かったからと言う単純な動機。ここについてから、連戦でバトルが続いている。相手を殺してしまっているかはわからない、とりあえず銃を持ってバトル!料理したら経験値が増えて、成長するらしい。
今回のゲームには、成長をあらわすパラメーターがあるのだが、特に身体的な数値が増えるばかりで、強さを実感することはない。ただ出てくる敵は、ほぼチンピラはやギャングであり、プロの暗殺者であるヒカリは簡単に勝てた。今まで何人にも囲まれてバトルになっても、1人で勝っている。どれだけ身体能力が高い主人公なのかと、ヒカリは思っていたが、それでなければ物語は進まない。
「おい、女! 」
今まで戦っていたギャングの親玉らしき男が立ちはだかる。ピアスをたくさんつけていて、ドクロのネックレスをつけている。現代でいそうなロックバンドの格好に近い。相当お怒りのようであるドクロ男。しかし、ヒカリがその男をみてチェックしてこと。それは彼の頭上に好感度があったこと。彼も攻略対象であるようだ。
もちろん、バトルをしてもヒカリがあっさり勝つ。悔しそうに涙を浮かべる親玉。彼は、ドクロという名前だった。貧民街のギャングのボス。ヒカリがいる組織とは別の組織の末端組織であり、敵対関係であるようだ。
「暴れなければ、見逃してあげるわ」
ヒカリが彼らにこれ以上手を出すつもりはないと言えば、慌てて逃げていく彼ら。こんな化け物みたいに強い主人公で、あの親玉のドクロと恋愛関係が成り立つのかとふと思った。とりあえず、攻略対象と会えたのでよしとした。
ヒカリは次に、一般市民が集まる地区へ偵察に行く。今回は偵察するのは、警護を依頼してきたクライアントに会うためであった。組織は暗殺だけでなく、警護もするらしい。
ヒカリは暗殺組織といっても、ソードのように大きな仕事を請け負うというよりは、警護や偵察が多いようだ。ヒカリが得意とする武器は、銃。警護の時ように、TN-Kのほかにも小型銃を携帯している。TN-Kをそのまま携帯しているのはセキュリティ上問題があるらしく、ケースにいれて持ち運ぶ。何かあったときは、小型銃の出番である。
今回依頼されている護衛は、一般市民階級でも、それなりの地位である人物。大手会社の社長の息子であるようだ。敵対する会社は、同じ系列の事業を展開し、この世界では邪魔なものは暗殺されることもそう珍しくはない。そこで依頼されたのがこの任務。
ソードに渡されたメモには、会社に入るためのセキュリティチップが付属されていた。これをもっていれば、会社に入ることができるという。市民が生活している中であるので、近未来ではあるが貧民街に比べれば、発展して、治安はよいと思われる。ただあちこちで、銃をもった警備員がいる。だとすれば、ここも治安がすごくいいわけではなさそうだ。
油断はできない。
ヒカリは応接間に通される。今回の警護する相手、マニーである。お金持ちそうだから、マニー。そのままではないかと思ったが、この乙女ゲームに名前のセンスを求めてはいけない。ヒカリは一目みて、彼が攻略対象だとわかった。
一般市民階級の、おぼっちゃま。少し生意気そうな瞳と、育ちが良さそうな見た目。警護をされるのは不本意らしく、父親からおとなしくするように注意されても、面倒そうに聞き流すだけだ。
まだ学生らしく、体つきは大きいが、まだ若いのだろう。ヒカリと同じくらいか、もしかしたらもっと年下かもしれない。
「こんな、女に警護されるくらいなら。1人で行動した方がいい」
やはり不機嫌な理由は、ヒカリが女であり、ひ弱そうであるからもあったようだ。
確かにヒカリは頼りない外見をしている。それはそうだ。一般女子の背格好だから。ただこのゲームの中では、屈強な戦士に余裕で勝っているのだから、恐ろしい身体能力をもった女子だ。それを知らないぼっちゃん、つまりマニーはヒカリを冷たく見下した。
どうすれば納得してもらえるのだろう。
すると、マニーがソファから立ち上がり、ヒカリにファイティングポーズをとった。これは戦えということだろうか。銃で戦うのが得意なヒカリであるが、体術はどうなのだろう。しかしイベントが発生したようだ。マニーが殴りかかってくる。
ヒカリはマニーの動きが止まって見えた。緩慢な動きで、彼がどちらを殴ってくるかも予想できた。それに勢いもない。ソードと戦ったときは、武器ももちろんだが、動きも俊敏で彼の動く影さえも視線で追うことができなかった。
だがマニーの動きは、素人に毛がはえた程度。
ヒカリはさっとかわし、背後にまわった。マニーはかわされたことに苛立ち、さらに力任せに拳を振り上げる。重心の合っていない拳など、当たったとしても痛くはない。ヒカリは力を流して彼の腕を掴むと、背後に回り腕をひねった。
「痛い!話せ!ばけもの女! 」
言い得て妙である。確かにヒカリさえ、自分の体とはいえこの身体能力の高さに頭がついていけないレベルである。マニーが化け物というのはわかる。
「実力は納得して頂けましたか? 」
「馬鹿力、腕を離せ! 」
「全然力を込めていませんよ。ただ殴ればいいというわけではありません」
自分でも惚れ惚れしてしまう強さである。先ほどソードに負けたのは置いておいて。マニーは舌打ちをして、ソファに座った。
様子をみていたマニーの父親は、気に入ってくれて報酬ははずむといってくれた。マニーは慣れてしまえば、キャンキャン鳴いているチワワのようなもので、相手にしなければ可愛いものだ。リアルの世界にいるならば、お金持ち大学生で、毎晩パーティーをしている感じである。背格好も大学生という感じだし、ヒカリの好みとはかけ離れている。
後日仕事を請け負うということで偵察は完了。最後は、街で頼まれたものを買いに行き、組織の馴染みの店を見回りするということだった。
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