第18話 ダイヤ編 女子高生、サバイバルをする
「泣いても、何もかわらないヤン! 」
「放っておいて! 」
先輩がいなくなったことを黙ってみていたのだろうか。ヤンヤンの声がタイミングよく聞こえた。そのよすぎるタイミングに、思わず声を荒げてしまった。いくら気にくわない相手だとしても、八つ当たりである。それは分ってはいた。でも、今は立ち上がることができなくなりそうだ。
「また、先輩を救うヤン。それしかヒカリにはできないヤン」
「わかっている、わかっているよ!でも、怖い」
「なんでヤン?今までは楽しそうにゲームをプレイしていたヤン? 」
「だって、先輩を知っていくたびに、本当にここは現実じゃないかって思えてきて。先輩はわたしが思っている以上に、優しくて穏やかで。そんな人をもし失ったらと思うと、怖い」
「ヒカリらしくないヤン」
「先輩がすごく嫌なやつなら、どうでもいいよ。でも、わたしがいなくなったとしても…………先輩はいなくなってほしくない」
「ヒカリ…………、わかったヤン」
ヤンヤンは姿を消した。何を言っても無駄だと思ったのだろう。ヒカリもぶっ通しで、ゲームをプレイしてきた。肉体的な疲労は感じてはいない。ただ、精神的な疲労は感じている。いつもなら冷静に判断できることが、しんどくなってきた。ヒカリはひとり残され、そのまま座り込んだままになった。そうすると、不意に眠気が襲ってきた。睡魔に抗う力もなく、ヒカリはそのまま、ダイヤの扉の前で倒れ込むように眠ってしまった。
*******
遠くから声がする。若い女の人と、若い男の人だ。2人は白い光沢のある服をまとっていた。彼らは言い争っていた。女の人が、男の人に何かを告げている。しかし男は首を横にふる。女は涙を流して、何かを懇願する。しかし男はそのまま彼女から去って行った。
女はそのまま崩れ落ち、失意のまま闇に墜ちることになった。彼女のもつ聖なる力は、その強すぎる力ゆえ、悪意のあるものの格好の標的だった。純粋である彼女は、闇に染まるのも早い。男は彼女が闇に墜ちたことを知った。しかし、時は既に遅い。彼女はあのときの彼女ではなかった。だが彼女は、闇に墜ちても、男を忘れることはなかった。
清らかな彼女は、もう存在しない。ただ男を求めて、闇に支配される彼女の叫び。
その叫びは時間がたっても、男を求める。かつて自分を捨てた男に似た魂を求めて。そして彼女は見つける。現代にて、あの人に似ている男の魂を。それはマジマサトル…………。
**********
「……………………!夢!? 」
ヒカリは目が覚めた。夢の中で見えた光景。とても悲しかった。彼女の悲しみがヒカリの心に伝染したようだ。この夢を見せたのは、この世界なのだろうか?この不思議な空間。空間の渦が部屋を覆っている。色は悲しみの紫のような、深い紺色のようなグラデーション。明るい色ではない。この世界は悲しみで出来ているのかもしれない。彼女が求めているのは、先輩の魂?先輩は、夢の中の男なのだろうか。
「いやいや、まさか。物語じゃあるまいし」
だがヤンヤンが前に言っていた言葉が引っかかる。魔女が先輩を見つけてしまったから、先輩はこの世界に引きずり込まれてしまった。ヒカリがこの世界に来てしまったのは、先輩を思っているから。つまり魔女は、嫉妬しているのかもしれない。先輩と同じ世界に生き、同じ空間で生活している人間がいることが、許せないのかもしれない。
「でも、頭はすっきりした。疲れたら寝るに限るわ」
ヒカリは高校生。ほぼ食べて寝れば、体は元気になる。徹夜だって寝れば直る。しかし姉たちが言うことによれば、加齢とともに無理はきかなくなるらしい。徹夜をすれば、完全に次の日死ぬ自信があると豪語している姉たち。
ヒカリはすっかりマイナス思考から解き放たれた。あのときは、もうダメかもしれないと思って、動けなくなってしまった。だが、立ち止まってみて休んでみれば、気力が回復する。もう前に進むしかない。 ヒカリはダイヤの扉の前に立つ。
「ヤンヤン、行くわよ! 」
一応声はかけたが、反応はない。すねているのだろうか。仕方ない、あの妖精は放っておいて進もう。扉を開けて世界に足を踏み入れる。しかし足を踏み入れた途端、ヒカリは真っ逆さまにおちていった。
*********
「ヒカリは極端ヤン! 」
声がする。ヒカリは遠くから聞こえる声に気がついた。自分の意識が覚醒していくのを感じた。そして目が覚めると、ヒカリは装備をしたソルジャーになっていた。全身を薄くて固い素材で覆われ、見たことのない素材が全身をまとっている。そして目の前には大きな銃。そう、銃がしゃべっている。
「さすがに銃はタヌキには見えないか……」
見間違いかと思って銃から目をそらすが、銃がカタカタを動いた。完全にホラーである。
「ヤンヤンは、ヒカリの相棒のTN-Kヤン!」
「いやいや、銃っぽい名前だけれど単なるタヌキじゃない! 」
「違うヤン!TシリーズのN―Kモデルって意味ヤン! 」
「どうでもいいわよ! 」
ヤンヤンと話していると疲れる。ヒカリは銃らしきタヌキ、いやタヌキっぽい名前の銃を手にする。銃を手にすると、ヒカリの視界に変化があった。最初にもらったスマートフォンのようなゲーム設定画面がそこにはあった。視界を動かすとカーソルが動く。
なるほど、ここで好感度など設定をチェックできるというわけだ。まずは設定をひらく。するとゲームの説明が記載されていた。
『ワンダーラビリンス ダイヤ編
時代は近未来。文明が発展し、栄えたが、人間のエゴにより自然は破壊され、一部の人間だけが豊かに暮らす時代。主人公・ヒカリは特殊訓練を受けた兵士として、最下層の人間からクラスアップしていた。市民権を得るが、ヒカリは組織からの命令により、暗殺の任務を行う。しかし、ヒカリは出会いによって失った心を取り戻す。SF型恋愛乙女ゲームここにリリース! 』
ヒカリは簡単な文章を読んだが、超展開過ぎて一瞬ついていけなかった。つまり今回は、兵士として恋愛ゲームをするのかと推測する。前々回は、中世っぽい感じで。前回は、近現代。そこで次は近未来。だとしても、ヒカリは今までこんな役回り、演劇ですら演じたことはない。あらすじを読んだだけでも、不安しかなかった。
「もっと世界観統一してくれればいいのに…………」
ダイヤ編のゲームシステムもまだわからない。多少前回より変更はあるだろう。だったら、せめて世界観だけでも同じであれば、理解もラクであるし、要領もつかみやすい。ヒカリはもっとヒントがあるのではないかと、『NEW』というアイコンが出ているところを見てみることにした。見てみると新しい機能が実装しているようだ。
前回解禁されたのは、攻略キャラをみれば好感度を示す通知が表示される機能。それによって攻略対象と、攻略キャラの好感度の変化と数値がわかるようになった。今回実装された機能は、ルート分岐表示システム。つまり自分の物語の進行が、一目でみてわかるというものだ。今まで攻略キャラクター専用のルートに入ったのは、ヤンヤンが教えてくれた。だが、今どのくらいの達成度で、あとどのくらいでルート分岐するかわかるようになったのは助かる。より攻略キャラクターの対策をたてやすくなるからだ。
「といっても、またゲームの難易度が上がるような気がする…………」
便利な機能がつけば、またゲームの難易度もあがる。そんなに魔女が作っている世界は甘くはないだろうと思った。先輩を手に入れたいらしい魔女。ヒカリがゲームをクリアするのは、魔女の本意ではないだろう。だが、とりあえず妨害はされていないので、たんたんとゲームをクリアするのみである。
「さて、最初は何をすればいいのかしら? 」
銃を片手に周囲を見回す。そうすると、視界の端にマップが表示されていることに気がつく。今いる位置を確認できるようである。ここは始まりの地、街の郊外広場であることがマップによりわかった。ヒカリが足を踏み出すと、マップにある点も移動する。自分がどこにいるのかわかるようになっているのだ。 乙女ゲームであるが、これはRPG要素のある乙女ゲームなのかもしれない。
ヒカリは今までプレイしてきた乙女ゲームを思い出した。
RPG型の乙女ゲームであると、パラメーターを上げていく乙女ゲームが多い。もちろん乙女ゲームであるから、攻略キャラクターの好感度は重要だ。しかしイベントをクリアするにあたって、最低限のパラメーターを要求されるゲームがある。つまり、ある程度レベル上げが想定されているゲームかもしれない。銃がここにあることから、バトル要素があるゲームなのだろう。
「今までのゲームとは、勝手が違うわね……」
ロールプレイングゲーム(RPG)は有名どころの作品はほぼクリアしてきている。乙女ゲームオンリープレイヤーではないため、RPG要素があっても抵抗はない。乙女ゲームだと、一般のRPG大作よりはゲームシステムが複雑ではないことが多く、一回慣れればゲームでつまずくことはそれほどない。ただメインは恋愛であるため、バトルイベントと恋愛イベントをバランスよくこなさなくてはならない。
油断はできない。
「ん?マップに大きな建物が出てきた…………、組織アジト?ここで最初のチュートリアルが聞けそうね」
ヒカリは見えて来た大きな建物に入っていく。するとエントランスに男性が立っていた。さっそく銃を構えてきた。
「ヒカリ、調子はよさそうだな?どうだ?今日の腕試しだ! 」
戦闘がいきなり始まった。ヒカリは銃を構えた。誰かよくわからないが、剣のような銃を向けてきた男。そして、世界観にマッチした荒廃した街。そして街とはギャップがある綺麗なビルディング。暮らしに格差があるらしい世界観。
ヒカリはここで生き延びなければならなそうだ。
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