第15話 スペード編 女子高生、勇気の天使から恋愛指南をうける

「ヒカリから連絡があるのは珍しいから、何かと思った」


「そうだね、今お姉ちゃん時間大丈夫? 」


「時差?大丈夫、今は日本にいるから。少し休暇がとれて、同僚と温泉に来ているの。体が凝っちゃって。温泉に入らないと血流が悪くて」


「お姉ちゃん、話し方がいっきに老けたよ」


「老けるわよ、日々お客様に最高の時間を提供するために、お仕事しているからね。ストレスは結構かかるの。そのなか美容を継続するのは、地道な積み重ねが必要なのよ」


「ミドリお姉ちゃんはあまり美容のこと気にしてないけれど、お肌がきれいだよね」


「そうなの、ミドリちゃんはずるいと思う!もっと磨けば、光るのに。本人がやる気がないからね。ミドリちゃんって結構モテると思うのに」


「そうなの?わたしはサユリお姉ちゃんがモテるのは知っているけれど、ミドリお姉ちゃんはそういう話していたことないから」


「だって、ミドリちゃんは恋愛をするくらいなら、趣味を優先するでしょう?仕事と趣味が生きがいのような人だもの」


「それはわかる。恋愛をがんばるくらいなら、発売したゲームひとつでもクリアする方に命かけてそうだもん、ミドリお姉ちゃん」


「昔からだもの、あれは直しようがないわ」


 二人でここにはいないミドリお姉ちゃんの話で盛り上がる。両親とはそこまで馬があうわけではないヒカリだが、二人の姉とはとても仲がいい。ゲームを介して、お互いの趣味や生き方や考え方を知った。ヒカリは二人の姉と年が離れているが、何かとミドリお姉ちゃんの部屋にみんなで集まり、たわいもない話をして1日過ぎることが多かった。


 サユリお姉ちゃんは現在実家から離れているものの、年始年末や、長期休暇があると家には頻繁に帰ってくる。ちなみにミドリお姉ちゃんは、いくつか住まいを所有しているため、気が向いたら実家に帰ってくることもあるが、ほぼ仕事場から近いマンションにいることが多い。

 ただ何かあると三人は集まり、ゲームのことをネタにいろいろ話すことができる仲間だ。女子の集まりというよりは、ミドリお姉ちゃんいわく女子校の放課後のような時間だということだ。


 アニメであるような可愛らしい女子の風景など皆無で、最近の乙女ゲームやアニメなどについて語るというものである。だがサユリお姉ちゃんは、一般的なゲームや漫画について知っている程度である。話はミドリお姉ちゃんの独壇場になることがほとんどだ。ただミドリお姉ちゃんの話を聞いていると面白い。 

 すごい頭がいいはずのミドリお姉ちゃんは、大体くだらないことを考えている。どうすれば、働かずに暮らしていけるかとか、乙女ゲームを1週間あったら、寝ずに何本クリアできるかとかそういうことばかりである。

 

 いつまでも子どものようなことを、真剣にそして楽しそうに話すミドリお姉ちゃん。姉をみていると、大人だからしっかりするのは当然というわけではないのだな、とヒカリは思った。もちろん仕事場では、厳しく隙のないキャリアウーマンを演じているそうだが、ヒカリはそれも怪しいなと思っていた。


 「サユリお姉ちゃん、相談があって。ちょっといいかな? 」


 「いいわよ、今同僚は温泉へ行っているし、私長湯は苦手なのよ。なに? 」


 「乙女ゲームの話で。攻略がちょっと難しいから、どうすればいいかなと思って」


 「ああ、ミドリちゃんから頼まれたの?新作?だったら攻略情報出てないかもね。それで? 」


 さすが空気をよく読む次女。いろいろ突っ込みどころがある説明だろうに、そこはあえて言わず概要で察してくれた。ある意味会話が楽なサユリである。ミドリはある程度論理展開を気にするため、詳しいことを話すときは突っ込まれることが多い。


 「ルート分岐して、専用ルートにはいったところ。どうも好感度が上がらなくて。人外キャラだけれど、様子が変というか…………イベントが発生しなくて」


「イベントフラグがたっているけれど、それを解決するイベントの条件がそろってないのかな。好感度は変化がないとすれば、好感度は足りている可能性もあるね。アイテム……とか、あとは誰かに会うことで、物語の進行が進む可能性もあるね」


「そうか、アイテムをもらうとか、誰かに会うというのがポイントかも。主人公の幼なじみキャラとのデートを断って、攻略対象とデートをしたけれど、イベントが発生してないの」


「うーん、幼なじみキャラがそのルートに絡んでいる可能性もあるかもしれないわ。キーポイントは幼なじみ関係のイベントも同時に発生させることかもしれない。最初のデートの発生も幼なじみは絡んでなかった? 」


「うん、幼なじみにデートを誘われたら、攻略対象とのデートイベント発生した! 」


「乙女ゲームにありがちな、嫉妬して気持ちを気づくパターンかもね」


「お姉ちゃん、今盛大なネタバレしなかった?」


「え、そうなの?当たった? 」


 察しがいい姉は、攻略途中に結末に気が付いてしまうことが多い。ヒカリが気づかない展開の二つも三つも先を読む。姉のこの空気を読む才能は驚く。人とのコミュニケーションも得意なのも、よく人を見ているのだと思う。


「ロボの様子がおかしくなったのは、ブレッドと主人公の関係に嫉妬していたということ?それなら、またブレッド経由でイベントが発生するかもしれない」


「攻略のヒント見つかった? 」


「さすがサユリお姉ちゃん!乙女ゲームマスター! 」


「全然褒め言葉になってないわよ!わたしは乙女ゲームより、レースとか格闘ゲームの方が好きなの! 」


「ありがとう!攻略すすめてみるね」


「はいはい、じゃあまたね」


 乙女ゲームといっても、変な乙女ゲームもどきの空間で自分が乙女ゲームのキャラになってキャラクター攻略しているなんて言えるわけない。それこそ姉に心配をかけてしまう。


 受話器を耳から離して、受話器を電話に置いた。タヌキ親父は居眠りをしている。まったく緊張感のない妖精だ。攻略のヒントを天使からもらったことで、ヒカリは再度イベントを発生するか試してみることにした。ちなみにあとからタヌキ親父に聞いたが、サユリは勇気の天使らしい。確かに姉から勇気をもらった気がする。


 ヒカリはさっそくブレッドの店を訪ねることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る