きょうみしんしん

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きょうみしんしん



 ある日、“きょうみ” が降ってきた。


 冬も本格的になってきたとある日、

 ふと窓の外を見ると “きょうみ” が降ってきている事に気がついた。


 手の平ほどの大きさをした “きょうみ” は、ゆっくりと、そしてしっかりと街に降り積もった。学校帰りの子供達ははしゃぎまわり、大人たちは明日の予定を気にしていた。


 “きょうみ” は夜になっても降り続いた。

 空気が冷やされ、街は白く染まってゆく。


 天気予報では、明日も一日 “きょうみ” が降ると言っていた。

 部屋の中で息を吐くと、“きょうみ” に冷やされた空気が白く舞った。



 朝になると、町は一面の銀世界だった。 “きょうみ”が降るなか、子供達がマンションの庭で “きょうみ” を投げつけあう。別の子供達は “きょうみ” で達磨をつくる。


──あぁ、あんなに “きょうみ” を持って帰ったらパパかママに怒られてしまうだろうに。


 やがて “きょうみ” で遊ぶ事に飽きてしまったのか、子供達はそれぞれ自宅へと帰っていった。子供の身体にまとわりつく “きょうみ” を払う親が見えた。“きょうみ” も大概にしなさいと怒る声も聞こえた。


 “きょうみ” はそれからもしばらく降り続いた。

 “きょうみ” によって電車が止まった。会社が休みになったと友人も話している。


 次の日も “きょうみ” は各地で事故を引き起こした。

 屋根に上った老人が “きょうみ” で足を踏み外して転落死した。


 “きょうみ” が多く降る地域では、大人が “きょうみ” を掻き出さないと社会が止まる。屋根に積もった“きょうみ”を崩して落とし、道に積もる “きょうみ” を排水口へと流してゆく。


 そうして今日も “きょうみ” はしんしんと降り続いている。

 まったく、“きょうみ” も度が過ぎると困ったものだ。


 見ているだけなら、こんなにも美しいのに。


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