後日談(高梨達也目線)

「最近おかしいと思わない?」


 チャームポイントであるサイドテールを揺らし、友達の美羽は声を潜めて僕に尋ねた。何のことか分からず、僕は美羽に尋ね返す。


「……何が?」

 僕の言葉を聞いて、美羽は当然でしょみたいな表情でずいとこちらに顔を寄せ、口を開いた。相変わらず僕は男なのに距離感が近いなあと思ったけれど、これが美羽の普通だったから何も言わないでおいた。


「兄ちゃんと樹里さんだよ! 絶対何かあったって!」

「……姉さんと柊羽さん?」


 思ってもいなかった僕の姉と彼女の兄の登場に、僕は少しだけ驚いてしまう。そんな僕に構わず話を続けた美羽曰く、ここ数日美羽のお兄さん、つまり柊羽さんは、何をしていてもどこか上の空で、心ここにあらずといった感じらしいのだ。


「それで、なんで僕の姉さんも関係があるの?」

 僕の質問に、美羽はうーんと唸ってから口にした。


「……最初はさ、テストの点数が悪いとかだと思ったんだよ。ほら、この前まで兄ちゃんたち、テスト期間? だったらしいし……。でも、兄ちゃん今回のテストの点数、めちゃめちゃよかったんだよ……。びっくりしたもん、兄ちゃんが真面目に勉強していたから……。それでいい点取ってたんだから、勉強が理由じゃないでしょ。部活は特に何も問題ないらしいから、あとは樹里さんかなって思ってさ……。なあ達也、最近樹里さんに何か変なことなかった?」


 どうやら美羽なりに色々考えて、僕の姉が理由なのではと考えたらしかった。なんでそれで理由が僕の姉になるのかはよく分からなかったけれど、僕も一応最近の姉のことについて思い返してみることにした。


「……どうだろう。別にこの前のテストの点数も、いつも通りでよかったらしいし……」

「うええ、相変わらず凄いね……じゃない! 今は変なことだよ! 何か一つくらいないの?」


 器用にノリツッコミを入れた美羽の言葉を聞く内に、あ、でも、と僕にも一つ思い当たることを見つけた。


「え、もしかしてあった?」

「本当にそうかは分からないけど……確か二日前だったかな……」



 二日前、姉と話した時のことだ。その次の日、つまり昨日のことになるけど、僕は美羽と家で遊ぶ約束をしていた。僕の部屋で遊ぶ予定だったから、あえて姉にまで言わなくてもよかったといえばよかったのだけど、ちょうど姉が近くにいたから一応遊ぶことを報告しておいたのだ。

 しかし、僕が「明日美羽と部屋で遊ぶからよろしくね」と伝えると、姉はなぜか一度驚いた顔を見せたのだ。


「え、本郷くんが来るの……?」


 そんな言葉と共に目がどこか泳ぎ始めた姉に、僕は思わず首をかしげてしまったのだ。確かに美羽の苗字は「本郷」だけど、「くん」付けしているなら、姉の同級生の本郷柊羽さんの方なのだろう。確かに美羽と柊羽さんは兄妹だから、ゲームセンターの日のように一緒に来てもおかしくはない。でも、どうして姉は、柊羽さんが来るのかを気にしているのかと思ったのだ。


「え、美羽だけだよ? もしかして、何か約束してたの?」


 僕が尋ねると、姉は慌てたように首を横に振った。その様子が普段の姉らしくなくて、少し不思議に思ったということを美羽に伝えると、美羽は得意げに「やっぱり何かあったんだ!」と息まいていた。


「そこまで自信があるってことは、美羽には何か思い当たることがあるの?」と僕は聞いてみる。

「うん、あるよ!」

 すると、待ってました、とばかりに美羽は人差し指を立ててそれを口にした。


「多分兄ちゃんは、樹里さんに告白した!」

「えっ!?」


 予想の斜め上をいった答えに驚く僕をよそに、美羽はさらに推理を話していく。


「それで兄ちゃんが振られて、今ちょっと気まずいんだよ! 兄ちゃんからしたら振られたし、樹里さんからした断った相手だし! だから変なんだよ!」


「どう、名推理じゃない?」と自慢げに笑う美羽を見ながら、僕はひとまず気になったことを尋ねた。


「え、まず柊羽さんって僕の姉さんが好きなの……?」

「そうだと思うよ! だって樹里さん美人じゃん! ……まあ、兄ちゃんに聞いたら否定されたけどね」

「本人に聞いたんだ……」


 美羽の行動力は凄いなあと思いながら、僕も僕で最近の姉の行動の不自然さについて考えてみることにした。


 確かに思い返してみれば、姉が不自然な反応を見せるのは、美羽のお兄さん、柊羽さんについてだった。だからあながち、美羽の推理も間違いではないのかもしれない。


 でも、と僕は姉の反応を思い出して、美羽とは違う結論を考え始めていた。

 あの時の姉は、断った気まずさではなく、むしろ……。


 でも、それを伝えるための上手な言葉が見つからなくて、僕は口を閉ざす。

 もしかしたら、答え合わせできる日も近いかもしれないからと自分に言い訳しながら、僕は「絶対そうだよね!」と自信満々に笑う美羽に「そうかもね」と返事をしておいた。

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高嶺の花の彼女に そばあきな @sobaakina

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