靴が落ちていたので。

 公園の外周を散歩していると、靴が、落ちていました。右足用のものが、土踏まずの方を上にして、横たわっていました。それはとても小さな靴で、子供用でした。何故そのようなものが、道端に落ちているのでしょう。私は、疑問に思いました。


 私は、想像してみました。この靴の生い立ちについて。


 子供靴なのだから、持ち主はたぶん、子供でしょう。そうでなければ、小さな子供の親か、親戚か、知り合いです。持ち主が大人だった場合、子供へのプレゼントとして買ったものでしょうか。でも、その可能性は低いと思います。ちょっと汚れていて、履き古されていて、くたびれた感じだからです。子供靴のコレクターとか、マニアックな人の持ち物という可能性もなくはないですが、そういう人は対象物を大事にすると思うので、ないと思います。だから、やはり持ち主は子供でしょう。


 子供の場合、どうしてこんなところに、靴が放られているのでしょう。ちょっと不自然です。小さいとはいえ、幼稚園の年長さんか、小学校低学年くらいのサイズの靴です。もう歩けるくらいの年の子なら、自分の足でここを歩いたことでしょう。となると、親に抱きかかえられて公園の道を通り、その際に、足からポロリと靴を落とした可能性は、低いと思います。病気で歩けない人だったとしても、流石にその年齢の子を抱えるのは大変でしょう。なので、靴の持ち主は、歩いてやってきたはずです。


 しかし、歩いてやってきたならば、帰りの靴はどうしたのでしょう。ここに靴があるということは、持ち主は今裸足なのではないでしょうか。子供は、ちょっとくらいなら裸足でも気にしないものですが、流石に帰りまで裸足だと、足の裏が痛いでしょう。ゴミや木の枝が刺さって、ケガするかもしれません。本当に、私の想像通り裸足で帰ったのだとすれば、それすら厭わない、やんちゃな子供なのかもしれません。


 でも、直後に、私は嫌な想像が、浮かびました。もしかしたら、この持ち主は事故にあったのではないか、と。


 たとえば、ここで車に跳ねられたとか。そのときの衝撃で吹っ飛び、同時に靴も脱げ、道端に転がった。子供は救急車で運ばれ、意識不明の重体。そうなると、靴どころではなく、生きるか死ぬかの境を彷徨い、親はただ祈りを捧げるのみ。ここに残された靴だけが、事件の存在を物語るのです。


 あるいは、この場で、何者かに誘拐された。強引に車に連れ込まれ、その際に靴だけが脱げて、この場に残された。この靴は、それを知らせるSOSかもしれません。


 などと心配していましたが、公園の方から少年の声がしました。どうやら、靴を使った、遊びをしていたようです。その際に、遠くまで飛ばし過ぎたとのこと。


 私は、靴を拾い上げ、少年に投げ返しました。少年は、「靴の向きはどっちだった」とたずねました。私は横だったと伝えました。少年は「じゃあ明日はくもりだね」と言い、後ろから付いてきた子供たちにもそう伝えました。

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